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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
9章 三つの大地(ワーム・ゴーレム・ナイト)
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悩み

「ところでさ……今回狩ったノームの素材だけど、いい部分は僕が貰っていい?」

 砂漠から帰る馬車の中でクロロがちょっと言いにくそうに問いかけてきた。

「俺はいらないからいいや。」

「私もいりません。」

「クロロは地属性なんだし最適じゃないかしら。」

 そんな問いかけは必要ないとばかりに俺たち3人は即答する。

「そう……ありがとうね、皆。」

 クロロは穏やかな笑顔を浮かべてお礼を言ってきた。

「それで、多分そのミスリルの装備と組み合わせるんだろうけど……どう組み合わせるんだ?」

 俺は先ほどの質問で気になったことを問いかける。

 金属製の装備と魔物の素材を組み合わせることは割と一般的だ。

 例えば鉄製の鎧の表面を適当な魔物の革で覆ってデザインを変えたりとか錆びないようにしたりする。

 クロロのようにミスリル装備だと、その接続部分などに魔物の素材を使い、魔法の効果を発揮させることもある。

 以前見たことあるものを例に挙げると、ミスリルの籠手を猛禽鬼の羽で覆う事で風を纏った拳を放てるようにしている人がいた。

「そうだね……盾は裏地だけで、他は覆う感じかな。」

 そりゃまた豪胆な使い方だ。

 クロロが装備しているレベルのミスリルや成体の竜の素材なんかは、当然滅多に手に入らない。

 これがまた運のいいことに、今回も上質な素材が沢山とれた。

 成体の竜の超上質な素材と、クロロの超上質なミスリル装備が合わさると……

「相手にしたら一目散に逃げるわね。」

 ミリアが俺と同じことを考えていたようだ。

 クロロは腕力、魔法力、技術、精神力……どれをとってもこの世界ではトップに君臨できるほどだ。そんなのがさらに、そんな装備を手に入れたらと思うと空恐ろしいものがある。場合によっては、騎士団長や軍団長の座を横からかっさらえるのではないだろうか。……そんなことを言ったらレイラやミリアも同じようなものだが。

 ……よく考えると……いやよく考えなくてもこのパーティー、かなり偏ってるのではないだろうか。

 編成としては全く偏っていないが、戦力がこのパーティーに集中しすぎている気がする。

 僭越ながら、俺もこの前アキレウスさんと互角に戦えたから、最低でも同じくらいには強いだろう。

 また、今のウドウィンの騎士団長とブラースの軍団長は規格外の塊らしいので除外すれば、レイラとミリアとクロロの3人は騎士団長にもなれるだろう。少なくとも、パーカシスの騎士団長なんかはとっくに越えているだろう。

 ここに来る途中たまたま新聞を読んで分かってしまったが、どうやら俺たちはかなりの有名人になってしまっているようだ。

 目立つ活動と言えば……最初の九尾退治に始まり、ドラミでの魔族殲滅、水を除く竜の討伐、エフルテでの魔族の集団+四天王イフリートの殲滅、オブルエ鉱山での規格外ミスリルゴーレム2体の討伐、そしてサクソーフでの魔族5ケタ狩り。……あ、それとドラミとサクソーフの城での大暴れか。

 幸い、部分的に国などが秘匿してくれていたり、この世界に写真がなかったりと言う事で、俺たちの姿は風聞以上には広まっていない。容姿や種族、装備や名前、どんな戦い方をするのかなどは新聞に載っているものの、文字だけでの説明だったために、実際俺たちを見ても気づく人はいなかった。

 それでも、この『4人で国を滅ぼせる』だの『騎士団長や軍団長とも渡り合える』だの『勇者再来!?』だのと言われているのがとても恥ずかしい。最後の『勇者再来!?』以外は自信持って否定できないのが悲しいが。

「ふふ、楽しみだなぁ……」

 余計な事を考えて心の中で悶えていると、クロロのそんなつぶやきが聞こえた。

 ミリアに続いてクロロまで竜装備ドラゴンアームド持ちか……。

 いっそこのまま突っ切るのもありか?神様は『自由に過ごせ』としか言ってこなかったしな。

             __________________

「えっと……ここだったかな?」

 地図とにらめっこしながら歩くこと数分、この国の中で砂漠に近い分もっとも最前線と言われる街の中でも最高の質と技術と速さを誇る鍛冶屋『ガンビー』に、ついにたどり着いた。

 歩いている間はここに帰ってくるまでの間の馬車での出来事を思い出していたが、開き直ったはずなのに余計に足が重くなってしまった。

(しかしまぁ……なんて奴だ。)

 さっきからお使いついでに追っている魔力は、ずっと俺たちが止まっている宿の近くをうろうろしていた。

 当然、あのヤンデレ少女のクルミである。あの辺りは宿屋が多いため、まだどこに泊まっているかは特定できていなさそうな足取りだが、時間の問題だろう。もしかしたら、アニメでたまにいる高性能ヤンデレみたいに地面に這いつくばって匂いを追ってたりするかもしれないが。

「オエェ……。」

 自爆してしまった。光が無くなった眼で髪を振り乱しながら鼻をふんふんとならして這いつくばって移動するクルミ。その顔にはあのうすら寒くなる笑みが浮かんでいる。……想像するのがとてもたやすい。そのせいか、ちょっと考えるだけでその映像が頭に浮かんできて吐きそうになった。

(久しぶりだけど……『排除』するか?)

 俺の脳裏に浮かぶのは『癌の排除』だ。魔物だとか魔族だとか魔王だとかで、地球に比べてすさんだ世界であるにも関わらず、何故かこの世界にはいい人が多い。スーネアの筋肉ダルマ4人組のように深く関わった悪人は正直言ってあれ以来いないのだ。襲ってくる野盗も戦ったり捕らえたりするのが面倒くさいため、クリムの脚力に任せて逃げてきた。それ以前にクリムを見てほとんどが襲ってこないが。

 そんなわけで、俺たちの邪魔になるような『癌』はあれ以来遭遇しておらず、当然、嬉しいことに排除もしていない。

 だけどあれは……かなり危険だ。明らかにあの包丁は殺意が籠っていたし、一般人の癖に明らかに『プロ』……『殺し慣れている空気』を持っていた。

 だが、あれがまだ悪行を働いたと言う話は寡聞にして聞かないため、それもないのに排除するわけにはいかない。

「困ったもんだな……。」

 俺はそんな悩みを、そう呟くことで保留し、目の前の扉を開けた。

あれ?おかしいな……この話でもう装備の注文終わる予定だったのに……。

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