人狼
久しぶりに書いて投稿しました。何日ぶりだろう。
その間、もっと軽い別の作品の執筆に夢中だったがために主人公筆頭にその他のキャラが変かもしれません。
「くそっ……。」
夜中、俺はとなりて寝ているクロロ『ような何か』を尻目に、はっきりしない頭で考えた結果を受け止めてイラついていた。
「おい、起きろ!起きろっつてんだろ!」
俺はクロロのような何かを起こそうとする。
「……?何だい、アカツキさん。こんな夜中に。」
そのクロロのような何かは普通に見れば寝ぼけたクロロ、しかし、目は鋭く、澱んだ空気を放っている。
手遅れだった。この世界は魔法で何かをすることが多いから、ああして睡眠ガスを使ってくるのは計算外だ。恐らく、レイラとミリアもすでに同じ状態になっているはずだ。
「お前は誰だ!?」
俺は胸ぐらを掴んで問いかける。
「……?寝ぼけているのかい?僕はクロロだよ。」
平然と『嘘』をつく。
「じゃあその目はなんだ!?」
俺は胸ぐらを掴んだままさらに問いかける。
「いや、普通だと思うけど?」
クロロのような何かはそう答えたが、一瞬目つきが鋭くなったのを感じた。
「お前がクロロじゃねぇことは分かってんだ!もう一度問う、お前は誰だ!?」
3回目の質問。その答えは、ある意味予想通りで、ある意味予想不可。
「バレちゃあ仕方がねぇな!」
クロロの体は膨れ上がり、服は破れ、その姿は全く違うものとなる。
その姿は二足歩行の『狼』。こいつが、クロロに化けていた。
「けけけけけっ!この首都の人間どもに化けて国を崩壊させてやろうとしたのになぁ!バレちゃあ仕方がねぇ!」
それは、しゃべる魔物。つまり魔族だった。
人狼。狼人間や狼男とも呼ばれる西洋の妖怪だ。満月を見ると突然狼になるとか言われている。その言い伝えの影響は童話の世界にも出ている。
例えば『赤ずきん』。狼は『寝ている』おばあさんを『食べたあと』、おばあさんに『化ける』。
ほかにも『七匹の子ヤギ』だ。この狼は無力な相手に対して、『化けて』騙した上で『食べる』。
人狼は、つまるところ『人間に化けた狼』だ。狼は、『化ける』妖怪なのだ。
初めに人が寝ているところを襲って化ける。そして、その狼の近くで寝たものは襲われ、別の狼に化けられる。こうして、病気の感染のように、ねずみ算的に数を増やしていったのだろう。
恐らく、この街のほぼ全ての人は、こいつらが『化けて』いる。
「レイラ、ミリア、クロロ……あいつらはどこにやった?」
俺は、頭の中がすっーと冷えていくのを感じる。怒り、怒り、怒り。感じるのはひたすら怒り。その一方で頭は冷えていくのだ。
「そりゃあ教えねぇよ!今あいつらは抵抗できない状態にあるからな!けけけけけっ!もうすぐで魔王様が復活するんだ!その復活を早める生贄のためにはちょうどいいぜ!1つの国は滅ぼせるし魔王様は復活が早くなる!一石二鳥だ!」
目の前の人狼はそこまで言うと高笑いし始めた。
「ところでよぉ。お前はなんで仲間に成り代わられてないんだ?寝ていたはずだぜ?つーか、成り代われなかったんだな。」
人狼はそこまで言うと、俺のことを鋭い指で差して問いかけてくる。そりゃあ不思議だろうなぁ。けど、
「うるさい、黙れ、死ね。」
俺はそれだけ言って、部屋から立ち去る。
「ぐ、が、ぎゃああああ!」
人狼は悶え苦しみ、悲鳴を上げて絶命した。その腹は『刃物』で切ったように縦に裂けている。
「許さない、許さない、許さない!皆殺しだ!」
怒りで滾る精神を解放する。レイラを、ミリアを、クロロを、こいつらは危険な目に合わせている。生贄?俺の大切なものを生贄?
「ふざけるんじゃねぇっ!」
『ぎゃあああああ!』
俺が叫んだ瞬間、宿中から悲鳴が聞こえる。恐らく、ほかのやつに化けていた人狼が腹を縦に切られて、断末魔を上げている。
赤ずきん、七匹の子ヤギ。その物語ではどちらも、狼退治に『鋏』を使う。
そして、ギリシア神話の運命の三女神『モトライ』の3人目、アトロポスは『鋏』で糸を切ることで死をもたらす。
『鋏』はつまり、『死』の象徴であり、狼の中から子ヤギや赤ずきんを救い出す『生』の象徴でもある。
『鋏』によって人狼を『殺し』、食われた人々を『生かす』。人狼たちを切るのは、『鋏で切られる』という結果をもたらす俺の魔術。仮想の鋏は、人狼の腹を切り、殺していく。
囚われた人達は、生贄にする、と言っていたことから、どこかに無力化されて閉じ込められているのだろう。
「この野郎!数ではこっちが上だ!やっちまえ!」
「ギシャアアア!」
「こっちは何万といるんだ!勝てるわけがねえだろ?」
宿から出た俺のもとに次々と人狼たちが集まってくる。この街の人口の分だけ、俺の敵がいる。けどまぁ、
「死ね、死ね、死ね!」
『ぎゃあああ!』
全員殺すまでだ。あいつらを危ない目に合わせた。今も死と隣り合わせだ。主犯も、共犯も同じ。全員殺す。
『ぎゃあああああ!』
街中から悲鳴がたくさん聞こえてくる。この街の人口の分だけ、この街にいる人狼は死んでいく。
「死を持って償え。腹を切って贖え。俺の大切なものを危ない目に合わせたお前らには容赦などしない。」
腹を切り、死をもってして罪を償う『切腹』。切る刃物は違うが、まぁそのあたりはどうでもいいよな。こいつらが殺せれば大満足だ。
ちっ、しかしとんでもなく頭が痛い。鋏で徹底的に殺すために赤ずきん、七匹の子ヤギ、アトロポス、切腹と4つも同時に魔術を重ねて使ってしまった。さらにこれだけの数にほぼノータイムで連発。自分の体が『傷ついていく』のを感じる。体中が悲鳴を上げている。
けれど、そんなのどうだっていいさ。死ね、死ね、死ね。皆殺し、皆殺しだ。
「は、ははは、はははははっ。」
自然と口から乾いた笑いが漏れる。なんて危ないやつなんだろう、俺は。こんなに怒ったのは久しぶりだな。最後は……そう、茜が殺されかけた時だ。今回は3人だし、相手も多い。あの時よりひどくなりそうだなぁ。
「さて、3人を探しに行こう。」
俺はそう言って痛む体を引きずって街を出る。
もう、街から悲鳴は聞こえてこない。
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「ぎゃあああああ!」
突然、見張りの変な狼の魔族が悲鳴を上げた。
『っ!?』
囚われていた人々は皆一様に驚いてそちらを見る。その狼の魔族は、腹が縦に裂けて死んでいた。
「何が……?」
呆然とレイラはその光景を見て、呟く。
囚われた者たちは、サキソーフから歩いて2時間ほどのところにある、森の中に隠れた大きな洞窟の中に閉じ込められていた。後ろ手に、犯罪者および暴徒鎮圧用の手錠で縛られ、無力化された状態で、空気が汚い上に不衛生な洞窟の中ですし詰めにされていた。
「……良かった、無事だったようだな。」
その洞窟の入口から、1人の少年が姿を現す。
暗い洞窟で、その上夜ということもあって、その少年は影のようにしかみえない。髪の毛も、手袋も、服も、ズボンも、全身が真っ黒な少年の格好もそれに拍車をかけている。しかし、その声だけは聞き間違えることがない人物が、この場に3人いる。
「アカツキさん!」
「アカツキ!」
「アカツキさん!」
レイラとミリアとクロロは、駆け寄れないのをもどかしく思いながらも、その少年の、3人の頼れるリーダーの名前を呼ぶ。
「ちょっと待ってろ。」
暁はそう言って、いきなり手に鈴を出現させると、それを3回振った。それとともに、3人の手錠が外れる。
「ぐっ!ゴホッ、ゴホッ!」
暁はそのあとに苦しそうに咳をすると、口から何かを脇に吐き出した。
「あとはお前らが力づくでほかの人のを外してやってくれ。俺は、ちょっと疲れたからな。」
暁はそう言うと、壁に寄りかかって座り込む。
3人は即座に暁を心配して駆け寄った。他の側にいた人々も、助けが来たことに安堵している。その中には現国王や騎士団の各隊長の姿もあった。
「アカツキさん!ぶじ、で……キャアアア!」
レイラはまっさきに駆け寄って暁の様子を間近で見た。
暁の服はひたすら真っ黒というデザインだったはず。だが、今はその半分以上がどす黒い赤で埋め尽くされていた。
「アカツキさん!アカツキさん!」
「ちょっとばかし無理しすぎたようだな……。」
「何がちょっとよ!かなりひどいじゃない!」
「この中に治癒魔法を使える方はいらっしゃいますか!?」
レイラは叫び、ミリアは暁に怒り、クロロは暁を治癒してもらおうと治癒魔法が使える者を優先的に手錠を外していく。力づくで引きちぎるのだ。
レイラとミリアもそれを手伝って回っていき、解放された治癒魔法を使えるものが暁にひたすら『ライトヒール』をかける。荷物は全員、寝ているあいだにさらわれたため持っていない。ポーションがない今の現状は、かなり苦しい。どれだけ治癒魔法をかけても、暁の傷は少しずつ酷くなっていく。首都であるがためにいる優秀な医者や魔法使い、中には騎士団の魔法使いなども一斉にかけているのにその効果は薄い。
そんな中、暁は……
(良かった……3人が無事で……。)
と満足そうに心の中でつぶやいていた。
今回散りばめた謎は次回にあらかた解説します。