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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
8章 死をもたらす牙(バイト・シザーズ)
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油断

 翌朝からは最悪の気分だった。朝起きて、クロロと一緒に食事のために食堂に向かう。そこにはレイラとミリアと『何か』しかいなかった。

「……おはようございます。」

「おはよ……。はぁ……。」

 2人とも、朝だからというわけでもない理由でげんなりしていた。それは、周りにいる『何か』だ。

「おはよう。……ここにいる限りでは、俺たち以外全員か。」

「おはよう。……これは酷いね。」

 俺たちも挨拶を返したのち、げんなりしながらレイラとミリアが座っているテーブルに向かう。

 この場に、俺たち以外にまともな人間はいなかった。全員の目が鋭く、淀んだオーラを放っていた。

「一晩で一気にこれか。……で、今日はどうする?」

 俺は料理を待ちながらそう問いかける。

「とりあえず、ここでしか買えない類の物を買いに行きましょう。」

「それもそうね。……何だかこの後外を出歩くのが怖いわね。」

「まぁ、今日1日がまんして明日出ればいいよ。」

 3人は口々に自分の考えを口にした。

 確かに、今日1日我慢すればいい話だ。あとは俺たちに関係は無い。巻き込まれたら、火の粉は振り払うが、わざわざ自分から飛び込んだりはしない。

 俺たちは毒を警戒しつつも朝飯を食べ、装備を整えて外に出る。

「うっわ……こりゃあ酷い。」

 俺はドアを開けた瞬間げんなりした。行き交う人々、全員がおかしい。誰1人として、まともなのがいなかった。そして、明らかに人数が少ないのは、それだけ1番の内に多くの行方不明者が出たということだ。ここについてからの情報収集からして、少しずつ行方不明になる時間も短くなってきている。そうなると、昼ごろかちょっと過ぎぐらいにはさらに『何か』が増えているわけだ。

「……アキレウスさんは用事だったかで昨夜にこっそり出かけてるから頼れないしなぁ。」

 騎士団長であるアキレウスさんは忙しい身だ。昨夜、別のところに用事があるとかでひっそりと出かけてしまっている。大げさな凱旋とかはしないらしい。

 さて……じゃあ買い物を済ますか。」

「「「賛成。」」」

 俺たちの声にはすでに覇気は無くなっていた。

             __________________

 買ったのは情報本が信頼がおける本や1番正確なウドウィン王国の地図、それといくつかの雑貨品だ。雑貨品はさすが首都なだけあって、とても質が良い。

 俺は3人についていくだけで、何も買わなかった。その間はストレージの中の整理をしていた。確か、地球からそのまま持ってきたものの中に便利なものがあったはずだ。でも……これは……なぁ……。無いよりはマシなんだけどなぁ……。

 昼食を挟み、午後はまた城に行くことにした。

 というのも、昨日の俺たちがやらかした波乱が王様の耳に入ったらしく、会いに行く羽目になった。幸い、怒られたり処刑されたり弁償させられたり、というのは無く、昨日の夜に王様が興味本位で会ってみたい、と言ったそうだ。そして、王様のスケジュールに合わせた結果、ちょうど今日の午後が空いていたらしい。今日の朝、宿から出る際に宿の主人から手紙を受け取ったのだ。何でも、わざわざ騎士が届けに来たらしい。王様の要望に応えるのも家臣の務めとはいえ、これまた大変なことだ。

「すみません、今朝こんな手紙が届いたので中に入れてほしいんですが。」

「はい、陛下のお客様ですね。お待ちしておりました、どうぞ中へ。」

 受付にて、宿で渡された国の正式な印がついている手紙を見せ、案内役の騎士(昨日とは別だ)について城の中へと入る。

 気分はさらに下がった。城内ですら、全員様子が変だった。ここに来るまでに大分人が増えている、つまり行方不明じゃなくなった人が増えているのを見てげんなりしたのに、国の中枢すらもこんなありさまだ。余計に気分が悪くなるのは当然と言えるだろう。

「さ、陛下がお待ちです。どうぞ中へ。」

 騎士がそう言って、俺たちを謁見の間へと案内する。誘導され、俺たちはそこへと入っていた。

「ふむ、今日はご足労願って済まなかったな。私のわがままだが、許してほしい。」

 一番奥の、俺達の正面にある 豪華な椅子に座っていた1人の男が、そんな声を発した。俺はそれを見て、顔を顰める。

(この国は……もうダメかもな。)

 そこにいたのは、見た目だけならウドウィン王国の現国王。しかし、目が鋭く、淀んだ空気を放っている。それは、周りにいる国の大臣クラスや上級貴族や騎士団の幹部クラスですら例外ではない。

 ふと見ると、レイラたちもそれを見て顔を顰めていた。昨日の段階では普通だったフレメアさん、ガブリエルさん、クロイツさん、マリエラさんといった人たちですら、そうなってしまっている。

 国の中枢が全部『何かおかしく』なってしまったのだ。これで何もなければよいが、そんなはずはない。

 俺たちは震える声を無理やり押さえて、王様に召喚された際の常套句を口にする。

「うむ。昨日の活躍は話に聞いておる。各隊の隊長や副隊長を模擬戦で破り、さらには騎士団長相手ですら引き分けに持ち込んだそうじゃないか。さらに、聞いてみればなんとエフルテであの会議に参加していた者たちだと言うからびっくりだ。お前たちにはつくづく驚かされる。」

 口調は、一国の王としては乱雑ではあるが、この世界の王としては普通だ。案外、そういった面ではゆるかったりする。

 しかし、言っていることはどこも矛盾も間違いも無いのだが……あまりにも白々しい。これは、王様本人の言葉ではないように感じる。

「して、今回はお前らに……いや、パーティーリーダーであるアカツキ殿に渡したいものがあった。近くに来い。」

 王様がそう言ったので、俺は失礼にならないように返事をしたのち、歩み寄る。

「昨夜、騎士団長自らが私に、アカツキへと直接手紙を渡すように言われたのだ。中身は見ないように、と言われたので見ておらん。」

 と言って王様が渡してくるのは印がついた手紙。それにしてもアキレウスさんからか。騎士団長が王様を使うなんて許されなさそうだが、アキレウスさんと王様は昔からの竹馬の友でもある。それはこの国の誰もが知っていることなので、今更苦言を呈する者はいない。

 それにしても直接か……。一体どんな内容だ?

 俺は手紙を受け取り、恭しく礼をすると元の位置に戻る。

「うむ、今日の要件は以上だ。ここにいる者たちには済まなかったと思っている。たったこれだけのために集まってくれた君達には感謝せねばな。以上だ。」

 王様はそういって、俺たちを解放した。

             __________________

「状況は最悪に近いぞ。」

 その後、城で時間を潰した後に宿へ帰った。今、俺たちは俺とクロロの部屋に集まり、一様に暗い表情をして額を突き合わせていた。

 国の柱である首都どころか、中枢である城、さらにトップである王ですらダメになってしまった。まだこれと言った被害はないが、これからは絶対に大きな事が起こる。

「とりあえず、アキレウスさんからの手紙を読んでみるか。」

 俺はストレージで手紙を取り出し、封を破る。これは俺にしか破れないようになっていた。中身は……。

『私と引き分けた魔法使いとその仲間へ

 この手紙は、私が出かける前に陛下に、君たちへと届けるように渡したものだ。

 単刀直入に言おう。

 君達も気づいているだろうが、今、首都『サキソーフ』はおかしい。謎の短い行方不明に、それから帰ってきた者は邪悪な気配を放っている。一般人には分からないレベルだが、それでも違う。

 私は、もうこの街を離れることになる。そして、何となくだが、今回の異常はまるで私が出かけるタイミングをずっと狙っていたかのようだった。その通り、今回の用事はどうしても外せない用事だ。

 今の段階では、まだ陛下を筆頭に国の上層部は一部を除いて無事だ。だが、この手紙が君達に届くころには、もうダメになっているだろう。

 ただ、それが伝えたかっただけだ。君達に何をどうしてくれ、とは言わない。それは、あくまで騎士の仕事だ。一般人を巻き込むような真似はしない。

 以上だ。なお、この手紙はアカツキ殿の白い炎でのみ燃やせる。出来れば、それで燃やしてこの手紙を焼却して欲しい。

 ウドウィン王国騎士団長 アキレウス・パガニーニ』

 俺たちはそこまで読み終わり、余計に意気消沈した。結局、有用な情報は何も書かれていなかった。

「あくまで武人なのか。……人の心の機微には疎いな。」

 俺はそう呟いて白い炎で手紙を焼却する。

「……夜飯にしよう。」

 無言の皆を先導して、とりあえず俺は部屋を出て行った。皆は、無言でついてきた。

             __________________

 そのまま、俺たちは会話も少なく食事や入浴を終え、部屋へと戻っていく。

「……一応、中を魔法で異常がないか検査しとけよ。」

「はい……。」

「当然よ……。」

「はぁ……。」

 それぞれ、自分の部屋の中をドア越しに魔力感知をする。異常な魔力は感じられないな。

「お休み。」

「おやすみなさい。」

「お休み。」

「お休み。」

 俺たちは、暗い気持ちでドアを開けた。中に入ってドアを閉めた途端、どっと眠気が襲ってくる。

「僕は……なんか急に眠くなってきたから寝るね。」

 と言ってクロロは倒れこむようにベッドに寝転がり、そのまま一瞬で寝付いた。

「俺も寝るか……っ!?」

 ベッドに向かい、寝転がろうとした瞬間、体の力が抜ける。頭が真っ白になり、何も考えられなくなりそうだ。

「これはっ……ただの眠気じゃない……!……っ!?このかすかな甘い臭いは……催眠ガスか……!?」

 油断したっ!この世界でも魔法なしで眠りを誘導するガスがあるのか!?

 俺は唇を必死に噛み、痛みで眠気を覚まそうとするがダメだった。口にすら力が入らない。

「レイラ……ミリア……クロロ……目を……さ……ま……。」

 俺の意識は、そこで途絶えた。

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