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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
8章 死をもたらす牙(バイト・シザーズ)
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不安

めちゃんこ短いです。

「……疲れた。」

 俺は深いため息を吐いてぼそりと呟いた。

 ついに説教が終わったのだ。まさかあんな長くつらつら言われると思わなかったよ。後に別の魔法使いから聞いたところ、彼はこのステージを囲うのに1番頑張った防御魔法の名手らしい。展開に魔力を使わず、壁がダメージを受けるたびに魔力を消費すると言う変わった無属性魔法を使ったそうだ。

 その中で俺とアキレウスさんがどんぱちやらかし(過ぎ)たため、彼の魔力は現在ほぼ空っぽらしい。ガリガリ魔力が削られていくのは相当の苦痛と疲労が伴うため、終わった時にはあんな風にキレてしまったわけだ。冷静になった今ではぺこぺこアキレウスさんに謝っている。アキレウスさんは別に気にしていないように見えるが、上司にあれだけ言ったらなあ。

「お疲れ様です、アカツキさん。」

「おう、さんきゅ。」

 レイラがタオルを渡してくれたので、それで汗をぬぐう。戦闘中よりもみんなの目にさらされての説教の方が汗かいたけどな。冷や汗とか冷や汗とか。

「うん、やっぱりあんたは予想の斜め上を行くわね。驚きなれたと思ったら大きな間違いだったわ。」

「国の最終防衛手段ともいえるあれを破るのには、さすがに自分の目を疑ったよ。」

 ミリアとクロロはそれぞれの感想を口にした。何でも、事前の予想では、レイラが俺が勝つ、ミリアは俺が反則負けになる、と予想したそうだ。

「で、結局どちらも反則で引き分けだったと。」

 アキレウスさんが本気を出してきたから、ついつい俺も『殺すつもり』で本気を出してしまった。考えてみれば、『魔女狩り』は明らかにやりすぎだ。

 『魔女狩り』のように、『状況と術話を当てはめる』魔術はちょっとばかし力が強い。他の魔術や魔法が『現象』を改変しているのに対して、こちらは『結果』を無理やり改変する。現象の改変は事後的に防げばいいが、『結果』の改変は『必ずそうなる』ため、力が強いのだ。あのイグニスや九尾ですら仕留められるほどのものだから、そこからその凄さが伺えるだろう。ただ、符合する状況を結構な数そろえる必要があるため、使い勝手は悪い。正直、これは『相手を選ぶ』のだ。

「さて、用は済んだから帰るか。そろそろ夜飯の時間だしな。」

「そうですね。これで見学は終わりですしね。」

「宿とギルドと他、どこで食べる?」

「宿の食事を蹴るのももったいないし、宿で食べたいな。」

「それもそうだな。じゃあそれで行くか。」

 俺たちはそのまま、アキレウスさんたちに挨拶をして城を出た。……あちこちが壊れたステージを見ないようにして。

             __________________


「くっそ、それにしてもどういう事だ?」

 俺たちは夕食と寝る前の身支度を終え、部屋に集まっていた。その中で、俺はどこか呆れたように発言した。

「騎士の方々の中にも、半分ぐらいが様子がおかしかったですね。」

 レイラも心配そうな顔で感想を口にする。

 俺たちが話しているのは、この街の異常。話に聞く限り、騎士も何人か行方不明になっていたそうだ。……あの鋭い目や不穏な空気。それは、騎士の大半に感じられた。幸い、隊長クラスや幹部クラスには1人もいなかったが、時間の問題だ。

「今夜には騎士団長がどうしても外せない用事で外に出るって言うし……どうにも不安よね。」

 ミリアが苛立っているような声で呟く。問題が目の前にあるのに、それの原因や何が起こっているかが全然わからない状況は、人を苛立たせる。

「とにかく、1人にならないことが大切だね。どうやら、行方不明は朝が多いらしいから、これから毎晩ぐっすり眠れそうにないかもね。」

 クロロがそう言って、最後にため息を漏らす。

 何が起こっているのか、誰の仕業なのか……そのあたりのヒントが全くない。魔法や魔術はイメージが大切なため、ヒントも何もなしに何が起こっているのかを分かることが出来ない。数式の一部が抜けているせいで答えがわからないように。

「とりあえず、今日はもう寝よう。お休み。」

「おやすみなさい。」

「お休み。今日ぐらいはゆっくり寝れるといいんだけどね。」

「同感だよ。お休み。」

 俺たちはそう挨拶を交わして、各々のベッドへと向かった。

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