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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
8章 死をもたらす牙(バイト・シザーズ)
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騎士

追記・アルファポリス様のファンタジー大賞に応募しました。応援よろしくお願いします。

 騎士隊の訓練所に行く予定だったが、まずは昼食を、ということになった。来客者向けの食堂があるわけだが、これがまた面白い仕組みである。

 まず、食堂が2つあり、王族コースと騎士コースがある。騎士コースはつまるところ、騎士たちが普段使っている食堂で騎士たちに混ざって食事をするのだ。王族コースは、普段王族が食べている食事を体験できるものだ。日常コース、祝日コース、来客時コースの3つがあり、後に行くにつれて値段も高く豪華になっていく。その一方で、日常コースは一般的な民とそんなに大差ない食事が出てくる。

 これは宣伝の一環のようなもので、より国に親しみを持ってほしいという仕組みの様だ。こういうところは、何となく地球と似ている。日本にも有名人が食べている食事を集めた企画物の店があった気がするな。あれはどこにあったっけな?

 で、俺たちが選んだのは当然王族コースだ。せっかく城に来たのだからこちらを選んでみたいのが庶民の感覚だ。で、注文したのは日常コース1つと祝日コース2つ、それに来客時コースを1つ頼んだ。4人いるため、別々の注文をすれば全員が全部のコースを味見できるというわけだ。ただ、それぞれ1つずつだと4人で分けるには少ないので中間の祝日コースを2つ頼んだのだ。

 まず日常コースの感想。

「普通だな。」

「パンはちょっと豪華ですけどね。」

「豪勢な食事をとっているように見えて、普段は案外あたしたちと変わらないのね。」

「豪遊せずに、こうして倹約する王様だと印象がいいよね。」

 次に祝日コース。

「ちょっと豪華になったな。金持ちの商人の普段の食事、といったところか?」

「祝日のたびにそれにちなんだちょっと豪華なお食事ですか。」

「やっぱりお偉いさんは伝統と風習を大切にするもんなのね。」

「情緒があっていいよね。そういう考えは嫌いじゃないよ。」

 最後に来客時コース。

「これは大体、ドラミ城で食った飯と同じぐらいだな。」

「普段からあんなお食事をしているのかと思いましたけど、違うみたいですね。」

「来客にはおもてなししなきゃいけないし、見栄を張らなきゃいけないから大変よね。」

「うーん、やっぱり美味しいなぁ。これが王族お抱えの料理人の本気かぁ。」

 といった感じだ。中々面白かった。それにしても、こんな企画誰が考えたのだろうか。と思っているとどうやらメニュー表に書いてあった。

「王様本人が考えたみたいだな。」

 中々のアイディアマンのようだ。

             __________________

 腹が満たされたところで、次に行くのは騎士隊の訓練所。毎度思うが、とても紛らわしい。騎士団と職業の騎士で混ざる。

「……汝らが噂のパーティーであるか。」

 入って早々出迎えてくれたのはなんとびっくり、騎士隊長だった。どうやらフレメアさんやガブリエルさんからレイラとミリアの頑張りの話を聞いていたらしく、直々に見たくなったそうだ。

 彼の名はマリエラ・オークベル。名前は女っぽいが、正真正銘の男だし、見た目も50歳ぐらいのごつい男性だ。ガブリエルさんほどではないが身長も高く、がっちりしている。称号は『鉄壁ガードナー』だ。シンプルかつそのまんますぎる称号だが、それに見合うだけの堅牢な守りが特徴だ。寡黙な上に話し方も硬く、怖い印象を受けるが、フレメさん曰く、「ただの人見知り」らしい。

 力が強いのが特徴である獅子人族ライオネルで、その特徴をフルに活かした戦い方をする、クロロとは対極の人物だ。クロロは騎士の割にはかなりアクロバティックな戦い方をし、猫人族の特徴をうまく活用している。

「はい、よろしくお願いします。」

 クロロが待ちきれないとばかりに一歩前に出てお辞儀をする。思うんだが、この3人は向上心が高いよな。やる気に満ち溢れている。

「……そうか、汝が騎士だな。」

 クロロの耳を見た時、一瞬珍しそうに見たが、クロロから何かを感じ取ったようで目を鋭くした。

 その様子を見ていた、周りで訓練している騎士たちがほんのちょっと色めき立つ。曰く、マリエラさんが直々に出迎えると言うのは相当強い人らしく、珍しいそうだ。

「……ふむ。汝を相手にできそうなのは……。」

 マリエラさんが周りの騎士をゆっくりと見渡す。しかし、俺はなんとなく結果が読めていた。正直、クロロの相手をできる騎士はマリエラさんが見渡した中にはいない。そう、見渡した中には。

「……どうやら、汝に見合うほどの強者はいないようだな。……某が相手をしよう。」

 マリエラさんはそう言って、クロロを先導した。その様子を見ていた騎士たちは、訓練を辞めてマリエラさんとクロロを見ている。見学する気満々の様だ。

 戦士の訓練所と同じようなステージでクロロとマリエラさんが向き合う。マリエラさんの装備はタワーシールドと呼ばれる縦に長い盾と、ランスとでも呼んだ方がいいような、大きな円錐形の槍だ。あれこそ、地球のイメージでいうところの『騎士』に近いだろうか。

 対するクロロは新調したばかりの盾と『アヴァランス』を構える。その体格差たるや凄まじく、マリエラさんに比べればクロロは子供だ。いや、実際その通りなんだがな。

 2人が向き合っている間に周りの騎士がいろいろ準備を進めている。それぞれの背後に10本の案山子を立てているのだ。

「先に相手の後ろにある案山子を全て壊すか切るか、それに準ずる状態にした方が勝ちです。」

 審判役の騎士が説明すると、2人は力強く頷く。このルールは攻守どちらにも優れていなければならない騎士だからこそだろう。

「ではいきますよ……始め!」

 審判がそう言った瞬間、

「『サンドストーム』!」

「『プロミネンス』。」

 どちらもいきなり上級魔法を使った。

 クロロが使ったのは地属性上級魔法『サンドストーム』で、大きな砂嵐を起こす。マリエラさんが使ったのは前に俺が使ったことがある『プロミネンス』だ。その攻撃はどちらも、案山子でなくお互いを狙っている。騎士なのに随分アグレッシブだ。攻撃は最大の防御、ってやつだろうか。

 お互いの攻撃を、クロロは前へのステップで、マリエラさんはタワーシールドでそれぞれ凌ぐ。

「やっ!」

 クロロがマリエラさんに走りより、剣を振りかぶる。

「『プロテクト』。」

 マリエラさんはそれを『プロテクト』によってつくった魔法の障壁で防ぐと、その手に持っている槍をクロロに突きだす。クロロはそれを盾で防ぐと、マリエラさんとは違う方向にアヴァランスを振る。

 アヴァランスから放たれた3つの岩はそれぞれ案山子に命中し、破壊する。と思われたが、そのすべてをあの巨体から想像できないほどのスピードで防いだ。さらに、

「『フォースファイアボール』。」

 と魔法を詠唱して4つの火の玉を飛ばした。

 あれは見たことがないからオリジナル魔法だろう。火属性下級魔法『ファイアボール』を一気に4つ作るものだ。

 その4つの火の玉はクロロが守るべき案山子に向かっている。

「『フォート』!」

 クロロがそれに反応し、分厚い岩の壁で案山子を守った。しかし、1つだけ防ぎきれず案山子が1つ燃やされる。しかし、やられっぱなしで済む訳ないのがクロロだ。

 マリエラさんの後ろにある案山子が2つ倒れた。それぞれ、拳大の土の塊によって倒れたのだ。

 それを放ったのはクロロ。なんと、クロロも無詠唱で魔法を使えるようになり、地属性下級魔法『アースボール』ぐらいなら扱えるようになったのだ。どうにも、3人とも魔法の才能もかなりのものらしい。例外を除いて、これだけ早く無詠唱が使えるようになるとはな。

「……やるではないか。」

 クロロと剣や盾を交えながらマリエラさんが呟く。あれだけ激しく動いているのに、2人に息切れした様子はない。

「『アースハンド』!」

 膠着をクロロが崩すべく、『アースハンド』で地面から手を生やし、マリエラさんのバランスを崩そうとする。

「この程度。」

 しかし、マリエラさんの体幹はとても強く、まったくバランスが崩されない。それどころか、

「ふんっ!」

「ぐっ!」

 マリエラさんの槍が炎を纏ったかと思うと、それをクロロに突きだす。クロロはかろうじて防いだが、その勢いに後ろに下がらざるを得ない。

「ふむ、今のを体で受け止めるとはいい度胸だ。」

 そう、クロロは今の攻撃をあえて受け止めた。それは、あの槍が纏う炎の存在があるからだ。

 あの槍が纏っている炎は突き出す動作とともに放出される。つまり、それを躱すと後ろの案山子が燃やされてしまうのだ。

「これとは比べ物にならないくらい熱い炎を、女の子を守る為に受け止めたことがあるんですよ。」

 クロロは普段の穏やかさが嘘みたいに強気の笑みでそう返す。イフリートの『インフェルノ』からミリアを守った時の事を言っているのだろう。それにしても、クロロってこういう時に見せる男らしさがあるよなぁ。九尾との戦いのときにそれが良くわかったよ。まさに『騎士』ってやつだ。あ、今のクロロの台詞を聞いてミリアが耳を真っ赤にしている。幸い俺以外は気づいていないが、なんとも分かりやすい。けど、黙っておくとするか。

「ふむ、そうか。ならば……本気だ!」

 マリエラさんが放つ雰囲気が変わる。その威圧感だけで常人なら立ってはいられないだろう。その証拠に周りにいる騎士の何人かは崩れ落ちているし、足がガクガクと震えている。

「……そうですか。では……僕も行かせて貰いますよ!」

 クロロが放つ雰囲気も変わる。これでお互いが本気になった。

「『ヘルファイア』!」

「『ロックフィールド』!」

 火属性上級魔法『ヘルファイア』によってマリエラさんの前方、つまりクロロに向かって業火が噴き出し、地属性上級魔法『ロックフィールド』によって地面から次々と岩が勢いよく突き出る。

 マリエラさんが放った炎は広がり、クロロの周囲を焼き尽くさんとする。地面から突き出る岩は、クロロと案山子を守る一方でマリエラさんとその案山子にも攻撃を加えてゆかんとする。お互いの攻撃はお互いを削り、お互いの案山子を破壊していく。そして、ついにどちらも案山子は最後の一体になる。

「うおおおっ!」

 クロロが飛び上がり、『アヴァランス』を上段に構えた。そして、その刀身に大量の岩が集まっていく。そして、最終的に長さ5mになろうかと言わんばかりの、岩でできた超大剣が出来上がる。

「上等だ!」

 対するマリエラさんの槍にも炎が集まっていく。その炎は一気に勢いを増し、先ほどの『ヘルファイア』とは比べ物にならない紅蓮の業火となる。

「食らえっ!」

 クロロがその剣を、全力を込めて思い切りマリエラさんに叩きつける!重力、遠心力、剣の重さ、そしてクロロ自身の力が加わったその一撃はその風圧だけで物凄い威力だ。その、使える力を余すことなく使う攻撃は『ミリアの戦い方』だ。

「よっし!行きなさい!」

 ミリアがそれを見て大歓声を上げる。

「ふんっ!」

 一方のマリエラさんも負けてはいない。その向かってくる大剣に一歩も引かず、槍をそれに向かって突き出す。その放出された業火は、その大剣をすり抜けてクロロにも向かう!

 ガキィンッ!

 と、両者の攻撃がぶつかった時に鋭い音が鳴り響く。それは、一瞬の膠着の後、

「あああっ!」

「ぐっ!?」

 クロロへと戦況が傾く!クロロは全身を業火に包まれながらも、そのまま押し切り、マリエラさんの最後の案山子を倒した!

 その勢いで、クロロの岩の大剣が砕け散る。ガラガラガラ、と大きな音を立て、集まっていた岩は離れて元の剣へと戻る。

「ぐぅ……某の完敗だ……。」

 マリエラさんが地面に埋もれながらそう呻いた。

「く、クロロ殿の勝利!オークベル様の案山子がすべて破壊されたため、クロロ殿の勝利です!」

 審判がそう叫ぶ。その瞬間、周りから大歓声が上がった。

「ふぅ……。」

 クロロは剣を鞘に仕舞い、埋もれてしまっているマリエラさんを助ける。

「すまんな……最後のあの某の炎、どうしてあんな平然と受けれたのだ?」

 助け出されたマリエラさんがそうクロロに小さい声で問いかける。実際、クロロは顔に小さな火傷を負った程度。ポーションで治るレベルだ。

「……僕が受けた、守る為に受けた、そして、吹き消してもらった炎はあれよりもはるかに熱いです。」

 クロロは何かを思い出すような仕草をした後、にっこりと笑ってそう言った。その笑顔はもういつもの穏やかなクロロ。

「……エフルテは相当、不幸中の幸いという言葉が似合う街だな。」

 マリエラさんはその笑顔を見て、ふっと笑うとそう言った。

 そして、荒れたステージの真ん中で2人は固い握手を交わす。

「……ここの修理どうしよう。」

「……まぁ、あれだ。見学料だと思えよ。」

 近くの騎士がそう会話しているのが聞こえた。……どうやら後始末は彼らの仕事の様だ。

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