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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
1章 異世界への旅立ち(ラプソディー・オーバーチュア)
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癌の排除

今回はちょっとグロテスクです。

 楽しい晩飯を終え、一通りの支度を終えると俺たちはそれぞれの部屋に分かれて寝た。といっても俺は眠りについたわけでない。

(あの2人を欺く形になるのがちょっと罪悪感を感じるな。)

 俺は、支度の時にこっそり抜け出して市場で買った黒い長そで長ズボンを身に着けている。夜の闇に紛れるようにだ。

(まさか、こっちにきて初日にやることになるなんてな。)

 俺はそう心の中で皮肉に思いながら窓から音もなく飛出し屋根の上に着地する。

(一度戦った……あれはそういえるか疑問だが、とにかくそんな感じの事をした相手の気配を、俺が追えないわけがないよな。)

 これぐらいなら、俺の家族なら中学生くらいで出来るようになる。といっても、それは今俺が向かっている場所の話であり、俺はもっと遠くまで分かる。

(世の中の癌は自分で排除せよ、てやつだ。)

 これは、親父が家訓としてことあるごとに口にしていた言葉。市場に服を買いに行くついでに調べたけど、あいつらは殺人、強盗、誘拐、人質、強姦等、この町で悪行の限りを尽くしていた。まさに世の中の癌。

(まってろよ、マッチョ男どもめ。)

 俺は目的の部屋を見つける。ちょっと豪華な宿屋に泊っているようで、そこの2階の右から2番目の部屋だ。中にいるのは4人。内2人は覚えのある気配だ。

(4人、か。ちょうどいいかもな。)

 明かりの消えた部屋へ、俺は音もなく入り込んだ。おうおう、警戒心のない寝顔ですこと。窓も開けっぱなしだし。自分の実力を過信しすぎだ。

 俺は、寝ている人への嫌がらせのうちの一つ。諺にもなっているあれをやる。取り出した道具は杯。水の象徴武器だ。俺がちょっと念じると、杯の中に水が溜まる。

(いくぞ、せぇの!)

 俺は、男のうちの1人、斧を使うほうの耳に向けて杯の中身を放った。

(寝耳に水!)

 バシャア!

「うわぁ!」

 男が大声を上げて目を覚ます。俺は即座に気配を消して物陰に隠れる。男の声に反応して他の男も目を覚ます。

「んだようるせえな。」

「な、何かいきなり耳に水が!」

「はぁ?何寝ぼけててんだぁ?」

「お前の汚ぇ涎だろ。」

「ち、違う、違うんだ!」

 水をかけられた男は必死に訴えかけるが、仲間たちに相手にされてない。くくっ、面白い。

(さて、そろそろ本番だ。……『あれ』はこんな雑魚に使うまでもないな。)

 俺はそう決めると、心の中である物語を思い浮かべる。

 『人魚姫』

 人魚姫は、最期に泡になって死ぬ。

「ち、ちが、ちが、違う、ぶべあ!」

 水をかけられた男の顔面がいきなりはじけ飛ぶ。

「お、おい、どうした!」

「誰がやった!?」

「警戒しろ!」

 他の男たちが警戒し始める。くくっ、もう遅い。

 『泡』は簡単に言うと、水が空気を含んで膨らんだもの。これが、人間の身体の7割を占める水分に適用されたらどうなるか。そう、今のようにはじけ飛ぶ。『泡』になって死ぬ。

(といっても人魚姫と違って心も腐っているし見た目も醜悪だけどな。)

 俺はそうほくそえみながら、もうどっきりも終わったのでこの茶番を終わらせるべく、3人をターゲットに別の魔術を使用する。

 古代エジプトでは、ミイラを作るには体の『水分』を抜くことを理解し、実践していた。それを思い浮かべ、杯を通して魔力を送る。

「なんか、苦しくねえか……?」

「喉が渇いてきたな……。」

「ていうかこれって?」

 男3人が疑問を抱きはじめる。俺は、その様子を見ると、開けっ放しの窓から退散する。もう魔術の効果は発動した。あとは30分ほど思い続けていればいいだろう。

「が、がが、が……。」

「が、ぎぎ、ぐうぇう……。」

「かはっ、かはっ……。」

 男たちの苦しそうな声が聞こえる。それと床に倒れる音も。ま、そこで今までの悪行の分苦しめ。


 体から少しずつ水分が抜けていく感想はどうだい?


 俺はそう問いかけながら自分の部屋に向かった。

             __________________

 翌朝、起きてからレイラとミリアと一緒に朝飯を食べる。すると、何やら食堂が騒がしい。

「おい、知ってるか?あの4人組、昨日宿で殺されたらしいぜ。」

「ああ、聞いたよ。何でも1人は体中が内側からはじけたみたいになっていて、他の3人は全身が干からびていたようだ。」

「いったい誰が、何でやったんだろうな?」

「さあな。恨みは買いまくってるだろうけど。」

「ま、これで安心だな。悪さもされないし。」

 こんな会話が耳に入ってくる。その会話を聞いて2人は話し始める。

「何か、昨日の2人とその仲間が殺されたようですね。」

「しかも、結構エグイやり方ででしょ。うぇ、朝ごはん食べる前にあんなの聞いたら食欲なくなるよ。まぁ、安心ではあるけどね。」

「でも、誰がやったんだろうね?目撃証言もなにも、手掛かりとかも一切ないらしいよ。」

「Bランク4人だからね。いくら夜中の奇襲とはいえ、相当の手練れよね。一体誰だろう?」

 俺もその会話に加わる。

「そうだな。あいつらの悪行を知った神様が、見かねて天罰でも下したんだよ。きっとな。」

 俺の台詞を聞いて2人はきょとんとする。ちょっと変だったかな?

「ま、とりあえず朝飯でも食おうぜ。」

 俺は一足早く席に座り、注文を決めることにした。

(4つの象徴武器はどれもまともに使えるようだな。)

 俺は浮かんでくる笑みを隠すように、注文を迷っているふりをして、メニューで顔を隠した。


主人公は、何人か人を殺したことがある設定です。

今回は、なんというか、反応に困るお話でしたね。

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