葬剣
「うーん、それにしても、あの最後の矢の軌道はどうしてあんな風になったんだい?」
フレメアさんが首を傾げてレイラに問いかけた。
「それが……私にも分からないんですよね。みなさんはどうでしたか?」
レイラがこちらを向いて問いかけてくる。
「俺は分からなかったな。」
「……あたしもよ。」
「……僕も。」
「……そうですか。」
俺の返答に、ミリアとクロロが続く。それにレイラが返事をするが、3人とも俺の事をジト目で見ている。ここまで俺の嘘は分かりやすいのだろうか。
「ふーん、そうか。まぁ、いいや!あ、そうそう、レイラちゃんのお仲間さんのために改めて自己紹介するね!僕の名前はフレメア・ローランド!ウドウィン王国のローランド侯爵家の長女だよ!称号も『狂弓』とか呼ばれてたりするよ!格好いいけど乙女に向かってそりゃあないよねぇ。」
相変わらずテンションの高い人だ。29歳とは聞いていたが、見た目は俺たちとそんなに変わらない気がする。称号については、むしろ名づけた人を尊敬したいぐらいだ。戦闘狂とかけるとはかなりいいネーミングセンスをしている。
その後、俺たちもそれぞれ自己紹介して、しばしの歓談――主に先ほどの戦闘について――をした。
「さて、次はどこに行くんだっけかな?」
それが終わった後、俺はレイラに確認をしてみる。
「次は戦士の訓練所ですね。クロイツさんもいるそうですよ。」
レイラがそう答えてくれる。
「なるほどな。となると、知り合いな分クロイツさんが戦闘訓練を申し込んでくるかもな。」
俺はそうミリアに言ってみる。
「望むところよ。称号は物騒だけど、まぁ何とかなるんじゃないかしら。」
ミリアは強気な笑顔でそう言って見せた。
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戦士の訓練場に向かう途中、先ほどの嘘の弁明を案内役の騎士に聞かれないように『テレパシー』を使ってした。
『実際はレイラが叫んだ時に、レイラからとんでもない量の魔力が飛んでいる矢に宿ったのを感じたんだ。その後、急に矢の軌道が変わったんだ。今一つ理屈は分からんが、そういうことがあった。あの場で説明しなかったのは騎士たちに知られてレイラが研究の対象にならないようにだ。雷の魔法はミリアじゃなくて俺が開発したから、俺が研究の対象になる。だが、あれは紛れもなくレイラがやったことだからな。俺が面倒になるのは……正直嫌だがまだいい。だが、お前らが面倒に巻き込まれるのは俺もごめん何でな。勝手に判断して済まないと思っているが、勘弁してくれ。』
とテレパシーで送ったところ、3人の雰囲気が和らいで、納得したような表情をしてくれた。その一方で複雑な表情もしていたが、この場には案内役の騎士がいるから、あえてそのことは伝えてこなかった。
そんなこんなやっているうちに、戦士の訓練場についたので、その入り口にドアを開ける。
「来たか。」
俺たちが戦士の訓練場に入った瞬間、クロイツさんが振り向いてそう言った。ちょっと待て、あの人凄い嬉しそうだぞ。戦るき満々、といったところか。
「じゃあ、同じ戦士としてお相手願おうかしら。」
ミリアも嬉しそうな顔でクロイツさんが示した場所に進み出る。
その場所は、先ほどレイラが戦った場所と同じ広さだが、障害物は無い。戦士の戦闘訓練用のステージだ。
「ほう、クロイツが動くか。そいつが噂のねぇ……。てめえら!今からすっげえもんが見れるぞ!集まって見学しろぉ!」
それを見た身長が2mを超えようかというほどの巨体の男性が野太い声で騎士団戦士隊の人たちに指示を出す。それにまた野太い返事が一斉に返ってきて、戦士たちが集まる。
あの人はウドウィン王国騎士団戦士隊隊長のガブリエル・アレクシアさんだ。称号は『破砕剣』で、その名の通りにとてつもない大剣を担いでいる。もはやダグラスさんみたいに戦斧とでも表現した方がいいレベルだ。ちなみに、先ほどのフレメアさん含め、実は会議にてエフルテで会っていたりする。だが、会うのは久しぶりだったために改めて自己紹介したのだ。ガブリエルさんは俺たちの事を覚えているようなので、自己紹介はお互いに無かった。
「さて……始めるか。」
クロイツさんが腰から、刀身が黒光りする剣を抜く。前回はどんなものか分からなかったが、今回は下調べをしてきた。クロイツさんが得意な魔法は『闇』、その中でも毒を得意とする。
あの剣はレイラの持っている九尾の血ほどではないが、この世で同じようなのはそうそうないレベルの毒を放つ効果がある。闇属性結晶を芯にしてミスリルで覆う。その剣は傷つけるたびに相手を毒によって蝕み、葬る。だからこそ葬剣なのだ。よって、攻撃されればされるほど不利になる。訓練で使うような剣じゃないが、それだけミリアの事を認めているのだろう。前回のミスリルゴーレム戦では、相手が非生物だったため、強みを生かせなかったのだ。
「観客が沢山いる中、無様な姿は見せられないわね。」
ミリアが不敵な笑みを浮かべ、双剣を構える。一瞬の沈黙と緊張、それは、
「始め!」
ガブリエルさんの声ではじけ飛び、世界が動き出す。
「やっ!」
まず先に動いたのはミリア。いきなり『ハイパーウィンドアーマー』と『ハイパーウィンドアクセル』を使って全力全開だ。さらに、双剣の刀身は風と雷を纏う。その雷を見て、周りから『おおっ!』と歓声が上がった。雷の魔法はまだ全く出来ていない中、それを実戦で使うところを見ているのだ。驚かないわけがない。
「くっ!」
ミリアのスピードにクロイツさんはかろうじて食いついた。歯を食いしばりながらミリアの双剣から繰り出される超高速のラッシュを剣で受けるが、反撃には転じることができない。そしてついに、
「やっ!」
ミリアが立てられた黒い刀身の剣を、双剣で鋏のように挟み、
「嘘だろ……っ!?」
破壊した。クロイツさんの顔が驚愕に染まり、呆然と刀身が折れた己の剣を見る。
「勝負ありだな!娘、よくやったぞ!さすがは『疾風迅雷』のミリア殿、と言ったところか。」
ガブリエルさんがそう言って、ミリアを褒め称える。
「はぁ……こりゃあ新しいのを陛下に頼んで作ってもらわなければならんな。」
クロイツさんはそう言って剣の破片を回収した。完膚なきまでに叩きのめされ、憔悴している様子だが、その一方でリベンジに燃えている顔をしている。
ミリアの双剣とクロイツさんの剣は同じミスリル製だ。では、その差は何が開いたのか。それは、ミリアの剣の能力による。ミリアの双剣の右、『テンペスト』はその刀身に触れずとも、周りを覆う風の刃で対象を傷つけることが出来る。対するクロイツさんの剣は毒のみで、直接ダメージを与えるような能力は存在しない。よって、その分クロイツさんの剣は弱り、ミリアの力によって折られた、というわけだ。周りは『ライトニング』に注目したが、実際は『テンペスト』が勝負の決め手だったな。
それにしてもミリアの戦い方は凄かったな。まさに『当たらなければどうということはない』、というセリフが思い浮かぶ戦い方だった。
「はっはっはっ!クロイツ、残念だったな!すぐに騎士団財政管理部に行ってこい!」
ガブリエルさんはクロイツさんにそう指示を出す。クロイツさんもそれに従い、壊れた剣を持って扉から外に出て行った。
「次は……騎士隊か。」
俺は、その様子を見ながら次に向かう予定の場所を思い浮かべた。
昨日、オフ会行ってきました。楽しかったです。
葬剣
木林とっておきの中二病称号だが、その一方で当て馬にされることも初めから決定済みだった。不憫。