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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
8章 死をもたらす牙(バイト・シザーズ)
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サキソーフ城

 翌日、俺たちは宿で朝食を(毒を警戒して食べた気がしなかった)食べ、そのまま城の観光に行くことにした。ここやブラースはパーカシスと違って、ストリーグスに面している分、騎士や兵士が強いらしい。それにも興味があったし、せっかく城にフリーで入れる紹介状をクロイツさんから貰ったのだ。使わせて貰う方が得した気分になる。

 城内観光希望者の予約窓口に向かう。通常ならここで予約して、2週間の審査を経てやっと観光できるのだが、紹介状、それも戦士隊副隊長からのだ。当然、

「はい、大丈夫です。どうぞごゆっくりご見学なさってください。」

 とこれを渡せば言われ、すんなりと見学できるわけだ。

「うん、クロイツさんには感謝だな。」

 豪華な庭を見回して、俺は1つ頷いた。これをタダで見れるだけでも素晴らしいことだ。俺たちが住んでいる神野家の屋敷の和風の庭もいいものだが、こちらの洋風の庭もいいものだ。

「初めにどこに行きますか?」

 レイラがそう質問する。

「そうねぇ、まずは美術館には行きたいわね。」

 ミリアがそう呟いた。城の中には美術品や豪華な装備品が展示されている部屋がある。部屋だから厳密に言えば美術館ではないのだが、その広さと豪華さからこう呼ばれているのだ。ミリアは芸術品には興味がないから凄い装備が見たいのだろう。……といっても、ミリアの装備に勝てるものは1つや2つぐらいだろう。

「後はやっぱり、訓練場だよね。」

 クロロが子供のように目を輝かせてそう言った。そう、正直、今回の1番の目的はこれだ。さっきも話したが、強さや訓練方法に興味がある。ここはパーカシスのドラミ城みたいに職業ごとに分かれて訓練を見学や体験するのでなく、見学者が集団でそれぞれを順番に回っていくのだ。

 そんなわけで、俺たちはまず、美術館に行くことにした。

             __________________

 大理石の床や壁に、透明度が高い、だが魔法で強化されたガラスの中に展示された数々の品。どれも国宝級で、その美しさや煌びやかさには目を奪われる。

 始めに目についたのは大きな肖像画だ。歴代の国王が順番に並んでおり、どれもが有名な画家に描かせたそうだ。今国王をやっているのは37歳のカリバーン・ウドウィンだ。37歳となると、威厳が出るにはまだ若い年齢だ(といっても俺たちの倍を超える人生を経験しているが)。だが、この肖像画を見る限りは、鋭い眼光に立派に生やしたひげ、そして力強い佇まいと相当頼もしい人だ。肖像画だから美化されている、と捉える事も出来るが、これは面と向かってみなきゃ分からないだろう。

 次に目につくのは装飾が付いた武具だ。実用性は皆無だが、その見た目は素晴らしい。しかし、やはり興味がわくのは国宝級の武具だろう。

 まず一番の見物と言ったら、やはり騎士団長の儀礼用のローブだろう。この世界での騎士の正装は、魔法使いはローブなのだ。そのローブの見た目は美しく、金や銀色の糸や飾り、それに大きく緑色で描かれた、風を模したウドウィン王国の紋章が目につく。たかだか儀礼用、実用性は皆無と侮るなかれ。これには防御アップ大を筆頭に様々な魔法効果が付与されており、儀礼用とはいえその実用性は侮れない。

 次に来るのは歴代騎士団長が使っていた装備だ。今は魔法使いだが、1つ前は戦士、その1つ前は騎士だった。様々な鎧や兜に剣といった装備が並んでいる。それらの1つ1つがミリアやクロロが使っている剣と同等の力を持っている。……騎士団長レベルと同じ装備をパーカシスの王様はくれたようだ。気前がいいなんてもんじゃない。

「うーん、やっぱりいいわね!」

 装備、中でも剣マニアなミリアは大満足だ。レイラとクロロも楽しめたみたいで良かった。

             __________________

 いよいよお待ちかねの騎士団訓練場の見学、および体験だ。まず始めに行くのは弓使い隊の訓練場だ。

 城内は、騎士団の訓練場だけでかなりを占めている。この世界は土地が余っているせいか、どの城もやたらと大きく、そのほとんどを占めていることからその広さが分かってもらえるだろう。

「うわぁ……。」

 レイラがその訓練場を見て、目を輝かせていた。普通の弓道みたいに的当てをする場所。馬や鬼駿馬に乗って流鏑馬みたいな訓練をする場所など、様々だ。この訓練の体験も紹介状を見せれば大手を振って参加できる。

「じゃあ行ってらっしゃい。頑張れよ~。」

 俺たちはレイラを送り出して見学者用の場所に着く。といっても特別席で、自分のパーティーメンバーの会話が聞こえやすいように色々な魔法がかかっている。

「お、君が噂の子かい?クロイツの奴から聞いているよ。じゃあ早速お手並み拝見と行こうか。」

「はい、よろしくお願いします。」

「うんうん、初々しいねぇ。僕が君ぐらいの年齢のころなんてまだ騎士団に入ったばかりだったからねぇ。あ、僕はフレメアっていうんだ。」

 飛びぬけて装備が豪華な人がレイラに声をかけ、そのまま的が3個、縦横無尽に動き回り、さらに向こうから攻撃までしてくる実戦に近い訓練が出来る場所に行く。ちなみに声をかけた人は弓使い隊隊長で、この喋り方だが女性だ。29歳にして隊長になっていることから、その凄さが分かるだろう。

「さぁさぁ、やってみようか。これはあの動き回る3つの的に矢を当てる訓練だよ。基本的に何をしてもいい分、向こうからの攻撃も割と容赦ないから気をつけてね。矢はこれを使ってね。じゃあ頑張れ~。」

 フレメアさんがレイラにルールを説明する。なんというか、軽い人だな。

 ちなみに、この訓練だが、弓使い隊の中でもかなり強い人じゃないとまともに出来ないレベルだ。あの人は攻撃を『結構容赦ない』と表現しているけど、あれはマジで『容赦ない』。どれぐらいかというと、4つの属性の上級魔法レベルの弾丸がランダムに飛んでくるのだ。比喩ではない。まんまそれだ。

「よろしくお願いします。」

 レイラの顔が引き締まり、所定の位置に着く。その構えを見た瞬間、フレメアさんの顔が感心したような笑顔になる。的が動き出した瞬間にスタートとなる。

「すっ!」

 的が動き出すと同時にレイラが魔力を込めて矢を放つ。その矢は吸い寄せられるように的に命中する。反撃の弾丸が3つランダムな方向から飛んでくるが、それぞれを水属性上級魔法『ハイウォーターウォール』で防ぎ、すぐさま反撃に反撃を返して2つの的に矢を当てる。一息に矢を複数放つのはレイラの十八番だ。だが、レイラの本当の得意技は別にある。

「凄い……1本も外さないんだぁ。」

 フレメアさんの呟きの通り、レイラの矢は面白いぐらいに当たる。ガードでもされない限り外れない。それは、たとえ今みたいに激しい攻撃にさらされ、照準が定めにくい状況で当ても変わらない。レイラは無駄な矢は滅多に打たないのだ。

 レイラは勢いと数を増す弾丸を魔法で防ぎ、矢で逸らす。そんな中、的を狙って放たれた矢は必中。中には意地悪な軌道で飛んでくる、明らかにガードを目的とした弾丸に弾かれて当たらないこともあったが、その隙に別の的に矢を当てているあたりがさすがだろう。時には飛んでくる弾丸に矢を『掠める』ように当て、弾丸を逸らした上に軌道が変わった矢は的に当たる、というもはや人間を超えた離れ業を披露した。

「ふぅん……面白そう……。」

 レイラの訓練を見て、フレメアさんが獰猛な笑みを浮かべて、妖艶に唇を舐めまわした。

「ああ……あの隊長は『危ない』人だったか……。」

 俺はそれを見て頭を抱えた。ミリアとクロロ、それとそばにいる案内役の騎士(弓使い隊の下っ端)までドン引きしている。

 あの人はどうやらバトルジャンキーのようだ。強い人を見たら戦いたくなる、というあれだ。

「この後の展開が読める気がするよ。」

 俺はそう呟いてしまう。やはり、若くして強い人はどこかおかしいのだ。レイラ、ミリア、クロロの3人のようにまともなのは稀なのだ。

中途半端ですが、長くなりそうなので割愛します。

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