サキソーフ
短いです。繋ぎみたいなものですね。
首都には1週間ほどで着いた。遅めのペースでゆったりと旅をしていたからちょっと遅くなってしまったが、それでもクリムは凄まじく、こんな期間で着いた。
「俺たちはSランクだからあっちの特別な門で審査を受けるんだな。」
日が沈み始めた中、俺は御者台に座り、クリムに指示を出してそっち方向に歩いて行ってもらう。一般人用のやり取りが長いうえに人が良く並ぶところでなく、結構人が少ないうえによく流れる列へと並ぶ。Sランク冒険者の特権だ。このギルドカードは本当にいい身分証明書になる。
「はい、Sランクの方が4名ですね。……大丈夫です。ようこそサキソーフへ。」
係員にギルドカードを渡し審査を受けると、細かい質問もなく入らせてもらった。楽だ、実に楽だ。
俺たちは中に入ったあと、すぐそばにある厩舎にクリムと馬車を預けると、街中を見回す。
「やっぱり凄いな。さすが首都だ。」
俺は思わずつぶやいてしまう。
大きな建物に広い道、そして行き交う人、人、人。ここが首都だと実感させられる活気だ。エフルテも結構な街だが、ここはそれをはるかに超えている。しかし……
「空気が悪いですね……。」
「何か……汚れているわね。」
「うん……淀んでいる感じがするね。」
3人は顔を顰めて感想を口にした。俺も同じ気分だ。空気自体は汚染されていない。地球に比べて全然綺麗だ。しかし、空気が『気分的』に悪い。今までの街で感じたことがないほどの『悪意』が渦巻いている。
「なるほど、こういうことか……。」
俺はなんとなく納得した。あの夫婦が言っていたことが分かる気がする。行き交う人の内、約半分から悪意を感じる。一見普通の人だが、目がなんとなく鋭く、放つ空気が淀んでいる。それにつられてか、普通の人たちの空気も沈んでいるように感じる。
「とりあえず宿に向かうか。」
俺はそう言って、貰った地図を頼りに、紹介して貰った『パトス』という宿に向かう。そして、その途中に、人だかりを見つけた。
「何なんでしょうかね?」
「この騒ぎ方からして……。」
「犯罪と捕り物だね。」
後ろで3人がそんなことを話してる。
見てみると、どうやら路上で流血が起こるほどの喧嘩があったらしく、両者が治安維持を担当する騎士に拘束されているのが見えた。犯罪者は手錠のようなもので拘束されている。
あれは、この世界で犯罪者及び暴徒鎮圧に使われる手錠だ。あれには力が弱くなる無属性中級魔法『ディスパワー』と、魔力が制御できなくなる無属性上級魔法『ディスマギア』が付与されており、はめられたものは力が弱くなって魔力も使えなくなる。ちなみに、『ディスマギア』は以前に聞いた『ディスペル』の雛形のことだ。あれを進化させればもしかしたら……と言われているらしい。
あの手錠だけははめられたくないな。あんなのされたら無力になってしまう。どうせやるならばれる様なへまはしないが、それでも犯罪はなるべくしないでおこう。
無事捕り物が終了したので、俺たちはそれをしり目にまた『パトス』を目指す。
貴族や大商人が使うような高級街に入り、しばらく進むとその宿は見つかった。綺麗な外観で、大きくはあるが派手すぎず地味すぎず、中々センスのいいデザインをしている。壁の材質から見ても、やっぱりそこそこ高級な宿なんだな。
中に入り、カウンターにいた男性に紹介状を見せると、人の好い笑顔を見せて頷いた。
「ああ、あいつの紹介か。なら、ここのサービスは全部無料になります。お部屋は何部屋取られますか?」
その人はそう言って俺たちに問いかけてくる。
「2人部屋を2部屋お願いします。」
俺はそう注文した。これは予め決まっていた事だ。どうにも街の中がきな臭いので1人部屋は危険だと考え、俺たちは2人で1部屋を使うことにしたのだ。当然、俺とクロロ、レイラとミリアが同室だ。何も知らない人が見れば俺とクロロがカップルに見えるだろうが、クロロは正真正銘の男だ。何もやましいことなどない。
俺たちは部屋の鍵を2つ受け取り、それぞれの部屋へと向かう。荷物を置き(といっても超容量鞄と装備だけだが)、いったんくつろぐ。
「今回もそこそこ快適な旅だったな。」
「そうだね。やっぱりあの馬車は相当いいものだよ。」
俺たちは緩んだ声でそう話しながらしばしくつろぐ。大体30分後ぐらいに一番下の階の食堂に集合だ。
この宿でこうしてくつろいではいるが、油断してはいけない。あのカウンターにいた男性も目が鋭く、悪意を放っていた。どうにも、この街はすでに手遅れっぽい。
(一体何があったんだろうな?いや……一体『何が起こる』んだろうな?)
俺はふかふかのベッドの上で伸びをしながら心の中で自問する。
結局、この日は問題が起きず、そのまま食事(かなり豪華で量と質ともに良かった)をし、風呂に入って(広い浴場だった)、そのまま支度をして寝た。




