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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
8章 死をもたらす牙(バイト・シザーズ)
113/166

巣穴

そこまで濃厚ではないですがグロテスク注意です。

 適当な屋台で買った昼食を食べながらの相談の結果、俺たちは首都に向かうことが決定した。理由としては、多少治安が悪くても首都の活気が見てみたいからだ。多少の不安はあれど、まぁ大丈夫だろう。

 といっても装備の製作を頼んでいる以上、今日は無理だ。明日の朝には出来ているらしいから、その時に受け取ってからの出発になるだろう。すでに旅に出るための道具は揃いすぎているから買い物も必要ないから時間が余る。となると時間を潰す手段は……

「依頼だな。」

「依頼ですね。」

「依頼ね。」

「依頼だね。」

 満場一致だ。よって、午後の暇な間は適当に依頼をこなすことにした。そもそも冒険者ならこうして生計を立てるのが普通だ。俺たちは冒険者としてはあまり依頼を受けている方でない。

 善は急げ。早速依頼の確認をしに行く。密林まではいけるから、そのあたりの依頼を受ければよいだろう。と思ってギルドに向かうと、人がとても少なかった。昼時だからと言う事もあるが、これは少なすぎる。

「お、お主らか。」

 すぐ目の前で昼食を食べていたダグラスさんが俺たちに気付いて声をかけてきた。

「この少なさは何ですか?」

 俺は不思議に思ったことを問いかける。

「ああ。これは先日の襲撃事件によってこのあたり一帯の魔物が一気に少なくなってのう。結果、依頼も達成が手間だったり、そもそも少なかったりするのじゃ。おかげで、他の者どもは皆別の街に出たり休養したりしておる。仕方のないことじゃのう。」

 ダグラスさんはそういって油の滴り落ちる鶏の丸焼きに齧り付く。

「なるほど……となると依頼での時間つぶしはダメかな……。」

 困った。もう依頼を達成する気満々だったのにな。

「別に全くないとは言っとらん。掲示板でも見てくるといい。」

 ダグラスさんはそう言ってまた齧り付く。

「それもそうですね。ありがとうございました。」

 俺はそういって掲示板を確認しに行く。そして、その途中であるものが目についた。

「レベルランキングが凄いことになってるな。」

 依頼掲示板の横にあるレベルランキングの掲示板が目に入る。1位は相変わらずだが、それ以下の変動が凄まじかった。

 前回の2位は240レベルだったが、今2位にいるのは260レベルだ。しかもそれがニコラスさんである。さらに、その下もトップ10はレベルが250前後ある。

「この前の防衛戦で魔物も魔族も沢山倒しましたからね。」

「魔族なんかあれだけ倒したらさぞいいレベルアップになるでしょうね。」

「これはまた凄いね。」

 3人もそれを見て思い思いの感想を口にする。ちなみに3位はグリザベラさん、4位はグリルさんとあのパーティーはランキングを独占している。前線に出なかったグリザベルさんはランキングには載ってないが、話を聞く限りだとミリア、レイラ、クロロと続いてその次ぐらいの活躍をしていたらしい。ダグラスさんの名前は相変わらず載っていない。

 さて、それはさておき依頼を見てみるとするか。掲示板を見ると、どのランクも貼り紙がとても少ない。元から少ない依頼をさらにいくつかのパーティーが取っていったのだろう。内容としては、

 ・ゴブリンの巣穴の掃討

 ・ネイルウルフ30匹

 ・斧蟷螂の討伐5匹

 ・斧蟷螂の卵1塊の採集

 が主だった内容だ。ゴブリンの巣穴の掃討のランクはCだ。ゴブリン自体はとても弱く、討伐依頼はEランクでも受けられる。しかし、巣穴の掃討の場合は数が多い、巣穴を護る為に相手は必死になる、ボス個体を筆頭に強力な個体がいる、ということでCランクになっている。それでも所詮はゴブリンで、報酬は少ない。ただ、放っておくとネズミ算的に数が増えていき、被害が広がる可能性があるかもな。また、ネイルウルフもEランクで出来るぐらい弱い。ゴブリンやネイルウルフはどの国にもいる魔物で、繁殖力の影響で数が多く、その分弱いし知能も低い。よって、こうして常に貼られている依頼になる。

 斧蟷螂の卵だが、この依頼はちょっと特殊だ。斧蟷螂の卵は地球の蟷螂と同じように、1匹が生むのも200個から300個の卵を産む。サイズは1つ8mm程度と小さいが、これらが成長するとあのサイズになるのだから油断できない。この時期がどうやら産卵期の様で、この時期になるとこの卵が脅威になるため、排除依頼が出される。しかし、これは『採集』だ。

 なんでも、この卵はとても美味しいらしく、美食家たちに人気だ。虫、それも魔物の卵を食べるなんてぞっとする話だが、この世界では割と普通だったりする。かくいう俺たちも、先ほど食べていたのはこの斧蟷螂の卵を具に使ったまんじゅうを食べた。屋台のくせに値段が高いと思ったら、とても美味しかった。後で知って俺は吐きそうにはなったが、あの味は評価する。

「で、どれを受けようか?」

 俺は3人に問いかけてみる。

「また微妙なのばっかね。」

「近場で済ませられるのはゴブリンの巣穴の掃討ぐらいでしょうか?」

「ゴブリンは繁殖力が凄いからね。他に目ぼしいものも無いし、巣穴の掃討でいいかもね。」

 3人の口ぶりからして、ゴブリンの巣穴の掃討が良さそうだ。ミリアも異存はなさそうだし、俺たちはこれを受けることにした。放っとくと上位個体が増えるかもしれないし、以前にゴブリンに滅ぼされた村もあるぐらいだ。やっといて損はないだろう。

 俺はその貼り紙を受付に持っていき受注する。事務的なやり取りを終えて、早速出かけようとする。

「Sランク4人、しかも一人は『疾風迅雷グラディウスデュオ』でゴブリンの巣穴の掃討か。ゴブリンが気の毒だな。」

 ダグラスさんがすれ違いざまにそう言ってきた。

             __________________

 エフルテから南西に歩いて1時間ほどのところに巣穴があるらしい。クリムは昼間で長距離歩いてもらったので、休養だ。よって、俺たちは徒歩で40分ほどかけてその巣穴の近くまで行った。レベルの恩恵で体力も上がっているから、これぐらいの速さで歩くことが出来る。

 その巣穴は林の中にある洞窟だ。途中であったゴブリンを瞬殺しながらここまで来た。巣の前には見張り役であろう布きれを腰に巻いて粗末な棍棒を持っているだけの、ごつごつした肌の緑色の小人が2匹立っている。あれがゴブリンだ。恐らく下っ端と思われる。あのゴブリン、見た目は実によくあるファンタジーだが、その習性までもがファンタジーだったりする。

 俺たちはその入り口から100mほど離れたところからその様子を見ていた。マンガの世界みたいに、洞窟であるがゆえに換気が出来ないのを利用して、入り口から中に爆発物を入れたり炎を吹き込んだり毒ガスを入れたりして一網打尽にしたいが、中には攫われた人間がいるかもしれないのでそんなことは出来ない。俺は正直、特にどうなろうと構わないが、ついでに助けられるなら助けてもいいだろう。

「レイラ、あの見張りが邪魔だからここからちゃっと殺してくれないか。」

「分かりました。」

 俺が指示をした直後にレイラは返事しながら息をするように矢を放つ。矢は正確に見張りの眉間を貫き、そのまま絶命させる。

「よし、じゃあ早速始めるか。」

「はい。」

「了解。」

「分かった。」

 俺たちは巣穴の中に数秒で入り込み、まず入り口近くにいたゴブリン達を通りすがりに絶命させる。洞窟の中だと火や大規模な魔法を使うのは危険だから、主に中級までの魔法を使っていく。

 中はいくつかの通路に分かれているが、俺たちはボスがいるであろう部屋に向かうべく、一番大きな道を突き進んでいく。ミリアとクロロが前を切り開き、俺とレイラで後ろや通りすがる横道からくる邪魔を排除する。

 しばらく突き進むと、一際大きな、鎧を着たゴブリンが椅子に座っており、その横には服を着たゴブリンが立っている、大きな部屋についた。右奥には犬人族ドッグの親子連れが縛られて猿轡をかけられていた。夫婦であろう30歳中盤ぐらいの男女に10歳ぐらいの女の子だ。

「ゴギゴゴ!」

「ギゲ!」

「グルゴ!」

 ゴブリン達は俺たちに反応して色めき立ってわめくが、その後俺以外の3人を見ていきなり歓喜の声を上げる。

「むっ……。」

「ちっ……。」

 レイラとミリアの空気が怒気を孕む。

 ゴブリンは、先ほど言った通り人間を攫う。男性は食料や訓練の的に、そして女性は繁殖と性処理の道具として使う。ゴブリンはこうした習性から女の子の敵と言われており、実際に女性の中では嫌悪感を示す人が多い。実際、その様子を見た2人はああなっている。ゴブリンの反応からしてクロロも女性だと思っているようだな。クロロはもう慣れているのか飄々としているが、それでもゴブリンには嫌悪感を示している。かくいう俺もそうだ。仲間に手を出そうなんざ許せん。

 ゴブリン達は色めき立って俺たちに襲い掛かってくる。

 俺たちは無言で迎撃する。俺は風属性下級魔法『カマイタチ』で風の刃を出し20匹ほどいた雑魚を一層、レイラは一気に矢を3つ放って6匹倒し、ミリアは魔力を込めた双剣を軽く振ってその余波の風と雷で無双、クロロが近づいてくるゴブリンの集団を剣の一振りで一気に屠る。

 レイラとミリアの攻撃は特に凄い。レイラは必要以上の威力で矢を放って3本なのに6匹倒しているし、ミリアも普段なら魔力が無駄になるから使わないあれを使っている。相当怒っているようだ。

「ギイイ!」

 服を着ていた上位のゴブリンと思われる個体の5匹がお粗末な連携を取って襲い掛かってくる。これでも連携をしている分他よりましだろう。

「邪魔だ。」

 俺は冷淡にそう言って『カマイタチ』を放ってそのゴブリン達を葬る。その死体を踏みしめて、返り血だらけになりながらゴブリンのボスへと歩み寄っていく。

「ガラルゴラァッ!」

 そのボスは激昂して、大きな棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。

 俺は無言で、その腹に鎧越しに蹴りを入れる。

「ゴルヴェ!」

 狙い通り鳩尾に入ったみたいで、そのボスのゴブリンはくの字になって吹き飛ぶ。そして、先ほどまで自分が座っていた椅子に頭をぶつけ、流血した。さらに、俺の蹴りが苦しかったようでその場で俺に背を向けて嘔吐し始めた。

 俺はその後ろから、側頭部に回し蹴りを食らわせる。

「ゴッ……。」

 その勢いで頭が砕け散り、中身がそこら中に弾け飛ぶ。むせ返るような血の臭いが余計に強くなるが、これぐらいは慣れっこだ。

「大丈夫ですか?」

 俺は囚われていた人たちに声をかけながら近寄る。すると、

「う、ふぁ……ふええええええ!」

 女の子が、先ほどまでのグロテスクな光景ですら我慢していたのに、なぜか泣き出した。それも、緊張感が解けた結果の安堵からくるものじゃなくて、明らかに俺におびえている泣き方だ。その証拠に俺から遠ざかろうと暴れている。

「アカツキ……あんた、今の自分の格好を客観的に見なさい。」

 ミリアが呆れたように俺にそう言ってきた。

 ふむ、俺の格好ねぇ……。上下真っ黒の長そで長ズボンに目と髪、それに手袋や靴まで真っ黒。それらにゴブリン特有の緑がかった赤い色の血や体の中身がこびりついている。さらに目の前で、人に似ている生物を回し蹴りで頭を弾き飛ばし、ゴブリンの残骸が散っている中それらを踏みしめて歩いてくる高校生ぐらいの男……。目の前での光景やそれまでの過程も怖かっただろうに、それらを余裕で潰して歩み寄ってくる……。

「……俺はその子から離れるべきだな。」

 どう考えても恐怖心しか沸かないだろう。俺が子どもだったら絶対泣く。

「皆、その3人は任せた。」

 俺はそう言って部屋から出る。やるべきことは決まっている。

 服の洗浄だ。

追記

新作『ホラー短編集』投稿しました。

現在投稿されている2つは、このたびのホラー企画の没作品です。

是非お読みください。

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