厄介事
ここから8章です。いつも通り未定です。
あの後、帰り道は盗賊に襲われることもなく、そのままエフルテへと戻ってきた。俺たちがついた時にはまだ昼だったので、俺たちはすぐに装備を引き取るべく『スキンブル』に向かった。
「こんにちは~。」
「ん?おう、来たか。」
俺がドアを開けると、カウンターに座っていた店主が読んでいた新聞を折りたたんでこちらに反応をした。
「装備はもう出来てるぞ。」
そのまま立ち上がり、そう言いながら奥に引っ込んでいく。しばらくして、まずは俺が頼んだ『布都斯魂剣』を持ってきた。
「珍しい剣だよ。斬ることに特化してるな。ほれ、仕事の出来栄えを試してくれ。」
そういいながら俺に渡してくる。
俺はさっそく刀を鞘から抜く。刀身は、冷たくギラリと光り、その鋭さを誇示する。コーティングによって若干厚みを増したが、それでもこの世界の剣に比べたら刀身が薄い。しかし、素材や魔法効果付与やらによって、その強度も折紙付きだ。
俺はそれを空中で斜め十字を斬るようにして素振りする。うん、手にも馴染むし違和感もない。
「ありがとうございます。」
「おう、次は矢だな。」
俺が確認作業をしている間にすでに取りに行っていたようで、その手には3本の矢が握られていた。
「ありがとうございます。」
レイラはそれを受け取り、1本だけ背中に背負っている矢籠に入れると、あとは超容量鞄に入れた。あくまで切り札というわけだ。
「それで、最後は盾だな。」
そういって、カウンターの向こうに立てかけてあった盾を持ち上げる。
「わぁ……ありがとうございます。」
クロロは目を輝かせてそれを受け取る。その盾の厚みは結構なもので、その重いはずのものをクロロはひょいと持ち上げる。あれはクロロの力によるものもあるが、盾にかけられた『軽量化』をあるだろう。神秘的な銀色の光沢をもつその盾は、大きさも中々のものだ。しかし、これでも高位の騎士が装備するには物足りないぐらいらしい。ダグラスさんから貰った賞品は『大きな盾を1つ作れるくらい』だから、あの時ミスリルが余ったのだ。この大きさはクロロの体格が理由だ。線が細く、見た目は女の子であるクロロにとって、大きい盾は扱いずらいものとなる。猫人族自体があまり体格の良い種族ではないので、しかたのないことだろう。
「で、お前らの目を見れば分かるが……さらに注文したいんだろう?」
ダグラスさんが俺たち……特にクロロを見てそう言った。
「その通りです。今度は鎧と脛当てを作ってほしくて。」
クロロはそういって超容量鞄からミスリルの塊を取り出す。しかも、それはミスリルゴーレムの核になっていた部分と他の特に純度が高い部分だ。しかも結構な量をテーブルに乗せている。
「これほどのミスリルを大量に……さてはオブルエ鉱山で一山当てたのはお前らか?」
それを見て店主は目を丸くすると、そのあとに納得したような顔をする。
「でかいミスリルゴーレムが同時に2体現れて、それを騎士や熟練の冒険者を差し置いてまだひよっこくらいの年齢の4人が大活躍して倒したって話は、お前らの事なんだな。つくづく驚かされるぜ。」
そういって、店主はため息を吐く。
俺たちの年齢は全員15か16歳だ。普通なら冒険者になり立てかなってからほんの数カ月や数年とかその程度だ。実際、レイラとミリアは俺たちと会った時点でようやく1年、クロロも出会った時にはまだやりはじめて2年だそうだ。しかし、レイラとミリアはあった時点で上がるのが難しいとされるCランクにいたし、クロロなんかBランクだ。今ではもう3人ともSランクにいる。はっきり言って異常らしいが、それは3人の才能と向上心、それと各々が抱える事情によるところが大きいだろう。今では変わってたり終わっていたりするが、ミリアは復讐、レイラはミリアを守るため、クロロはよく分からないが何か事情を抱えているように思える。これらの事情もあって、3人とも相当努力したのだろう。
「まぁいいさ。採寸するから猫人族の坊主はこっちの部屋に来い。」
店主に手招きされ、クロロは別室に移動した。レイラとミリアもいつのまにかあの女性に連れられて別の部屋でガールズトークでもしているのだろう。
俺は手持無沙汰になったので、暇つぶし用にいてある新聞を手に取る。2日前の新聞にはオブルエ鉱山の件が1面トップに載っていた。鉱山夫や戦闘に関わった冒険者や騎士の証言とともに色々書かれている。その中で俺たちについて言及されている文章もあり、そこには『冒険者になり立てぐらいの年齢の4人パーティーが大活躍をした』と書かれていたりする。あの店主はこれを見て情報を得たのだろう。
次に、俺は今日の新聞を手に取った。これはさっき店主が読んでいたのと同じものだ。
1面を飾るのは『首都サキソーフを飲み込む不安!?』と題が振られていた。内容としては、最近、行方不明者が増えている、だそうだ。その行方不明者はその日のうちに、または数日たてば何事も無かったかのように戻ってくるが、その人数が日に日にに増えているそうだ。時折治安を維持している騎士までもが行方不明になり、最近は治安が悪化しているそうだ。行方不明者もその間の記憶が曖昧で、得体のしれない不安に首都が苛まれている。と書かれていた。
う~ん。これから首都に観光に行こうと思っていたのに、どうにも出ばなを挫かれる話だ。
それにしても、確かに奇妙な話だ。行方不明者は近いうちに戻ってきて、その行方不明の間の記憶が曖昧で、さらに日に日にに増えている……か。これは、また何か厄介事の予感だ。本当に首都に行くのか3人と相談しなければな。
「おまたせ。」
そうこうしているうちにクロロが戻ってきた。採寸と注文は済ませたようだ。しばらくして、また顔を赤くして女の子2名も戻ってくる。このあとまた気まずい思いをするのかと思うと軽い頭痛がするが、まあいいだろう。
「おう、そういえばお前ら。猫人族の坊主から採寸の時に聞いたが、どうやら首都に行くらしいな?」
店主が何かを思い出したようにそう聞いてきた。
「はい、そうなんですけど……新聞を見る限り、どうにもきな臭いですね。」
「だよなぁ、行くには相応の覚悟が必要だな。」
俺はそれに返事をし、店主もそれに頷く。
俺たちは最後にそんな会話を残して、店を後にした。