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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
7章 旅人達の安穏(カーム・エピソード)
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閑話 盗賊

 エフルテの街を出た初日の夜。すでに野営としての食事や武器の手入れなども終わり、3人は寝静まっている。皆が寝付いてから3時間ほどだ。あと1時間経ったら、今見張りをしている俺と、寝ているミリアとで交代だ。道から少し離れた森にちょっと入ったところが今回の野営地だ。隣ではクリムもぐっすり寝ている。

「ミスリルの採鉱か……鉱脈を探すのにこれは使えるだろうな。」

 俺は、手にL字の金属の棒2本を握り、それを眺めながらにやにやしていた。探し物は得意分野だ。正直、こっちに来てから戦闘ばかりしているし、俺も自らその道に飛び込んだのだから文句は言えないが、やっぱりこちらの方が好きだ。でも、冒険者として旅をするのも楽しいし、何よりもいい仲間が3人と2匹出来たので、それらを鑑みると、やっぱり冒険者の方が楽しい。この世界に来たばかりのころは不安だったが、レイラとミリアが仲間になり、イグニスが仲間になり、クロロも加わって次にウェントスも……と仲間が増えていくうちに落ち着いてきた。本を読むことでこの世界の事がある程度分かったことも心が落ち着いた要因に入るだろう。初めは少しの事で心が乱されていたが、今では基本的に平常心でいられる。

「うん?」

 警戒用に使っていた『ウィンドサーチ』に、5人ほどの人間が引っかかった。ここは野営の場所としてはいい場所なので、別に人が来ることは珍しくは無い。しかし、立ち位置がどうにもおかしい。ちょうど、俺たちが野営している場所を囲むように5人が並んでいる。しかも、つかず離れずの位置でだ。

 この『ウィンドサーチ』は目視できないものも物理的には察知できる分、敵意とか害意、果ては殺意といった意志はサーチ出来ない。当たり前と言えば当たり前だが、こうなると相手の動きから意志を読み取るしかない。幸い、向こうはまだ俺に気付かれていると思ってい無いようで、動きが緩慢だ。大体俺から30mほど離れて、木の後ろや上などに潜んでいる。そりゃあ『ウィンドサーチ』の範囲は、常識では10mが精々だ。しかし、俺ならば50mは探知できる。そこまでするなら風属性中級魔法『ハイウィンドサーチ』のほうが効率が良い。しかし、『ウィンドサーチ』の方が、相手をサーチしていることがばれにくいのだ。

「さてさて、どうしたことでしょうねぇ。」

 俺は演技っぽく呟きながらどう対応しようか考える。ここから動かなくても捉えるのは可能だが、もし相手に悪意がなければそれはまずい。ここは……

「5人ほど、俺たちを囲んでいるな。悪意がなければ返事をしろ。無ければ、またはいい返事がこなければ敵対と見做す。それと、だれか代表者は俺の前に出ろ。」

 3人とクリムを起こさないように『サウンドプルーフ』を使用し、ちょっと声を張って誰何する。本当なら3人やクリムを起こすべきだろうが、俺1人でも対応できる。大切な仲間や馬を煩わすまででもない。

 『ウィンドサーチ』で、5人の身体がビクン、と揺れたのを感じ取る。そして、返事は無い。代わりに、5人とも、俺に向かって歩いてきているのが分かる。しかも、それぞれの武器を構えてだ。

「盗賊団かよ。はたまたそんな大きなもんじゃなくてただの野盗か?」

 俺はそういいながら欠伸をする。一瞬の沈黙ののち、

「りゃあああ!」

「くらえ!」

 2人ほどが俺に、それぞれ短剣と片手剣を持って襲い掛かってくる。俺は即座に、警戒用の道具に魔術を流し込む。

「うわあああっ!」

「何だこれ!?」

「ひええええ!」

「ぎゃあああっ!」

「くそっ!これは何だ!?」

 5人の悲鳴が、ガサガサガサッ、やゴソゴソゴソッ、という音と共に聞こえてくる。俺の視界にいた2人は一瞬で視界から消え(穴に落ちた)、隙をついて後ろから襲いかかろうとした奴は動かなくなった。

 俺は、あらかじめ周りに木々には青いカードを、地面には黄色いカードを配置しといた。後は、襲ってきた奴が居る場所のカードに魔力を流せば、落とし穴と木の枝の縄が完成する。

 中でも一際強く暴れている音がする方向に歩いていき、顔を確かめる。そこには、全身を木の幹に縛り付けられていた、40歳前後のそこそこいい装備を着た男がいた。

「そんだけいい装備来ているならCかBランクにはなれるだろうに。なんで盗賊なんかやってんだ?」

 俺は、強く暴れるそいつの首筋に嵐王の短剣を当てて問いかける。持っていた大剣は地面に落としている。恐らく、気配からしてこいつがリーダーだろう。

「くっ……俺は元々Bランクだよ。」

 その男は憎々しげに俺を睨みながらそういった。

「ふうん、あっそう。じゃあおやすみなさい。」

「なっ!?げふっ……。」

 俺は興味をなくしたので、そいつの鳩尾を殴り気絶させる。他にも、4匹ほど小鳥が鳴いているので、そいつらも同じ方法で黙らせた。その後、全員を野営地の近くまで回収し、2つの木に分けて木の幹にがんじがらめに縛り付ける。息をするのがやっと、ぐらいだろうか。

 ちょうどそのころ、ミリアが起きてきた。

「おはよ~アカツキ。そろそろこうた……って何よこれ!?」

 そして、木の幹に縛り付けられている盗賊の男女を見て、目を向いて俺に問いかけてきた。

「盗賊。襲ってきたからちょっと前にちゃちゃっと捕まえといた。作業が終わったのはついさっきだぞ。あ、お前らを起こすと悪いから勝手に『サウンドプルーフ』使ったぞ。」

 俺はストレージで毛布を取り出して広げながらミリアにそう返した。

「……よくやったと褒めるべきなの?ありがとうと感謝するべきなの?そんな危ないことしてって怒るべきなの?」

 ミリアがジト目でこちらを見てそう問いかけてくる。

「最後のは勘弁してほしいな。じゃあお休み。あ、そいつらは多分朝まで起きないぞ。」

 鳩尾はそこそこ強く殴ったし、強く縛り上げているからだ。

 俺は全員の『サウンドプルーフ』を解いて、そのまま寝た。

             __________________

 翌朝、3人に事情を詳しく説明し、結論としてこのまま通り道にあるピッコル村の守護をしている騎士に引き渡そう、ということになった。盗賊どもが目覚めて、なにやら騒ぎ始めたのでまた鳩尾を殴って気絶させ、今度は五月蠅くないように布を使って猿轡をかけて馬車に放り込んだ。

 1時間ほどすると、ピッコル村に着いたので入り口にいた人にギルドカードと盗賊どもを見せたのち、事情を説明して騎士を呼んできてもらった。その騎士は弓使いで、盗賊どものリーダーと同じぐらいの年齢に見えた。

「よう、久しぶりだな。」

「堕ちた男にかける言葉なんてねぇ。」

 その騎士が盗賊どもを起こすと、リーダーがその騎士に向かって親しげに話しかけ、騎士はそれを一蹴した。騎士から、報奨金があるからついてきて、と言われたので、木製の家の中に入る。

「ありがとう。君たちのおかげで厄介な盗賊をまた5人捕まえられたよ。これはあいつらの賞金の金貨50枚だ。」

 そういって袋を渡してくる。金貨50枚となると、盗賊を捕らえただけにしては破格だ。といっても、あいつらは盗賊の中ではかなり強い方だろうと思うし、一般人どころか普通の冒険者でも対応できないとなると、これぐらいになるだろうか。

「奴らは元冒険者でね。Cランクが3人とBランクが2人だ。Cランク2人とBランク1人が、Cランク1人とBランク1人が以前にパーティーを組んでいた仲だ。2パーティーとも、依頼中に仲間が死んで、それで冒険者がばからしくなって盗賊になったんだ。もとは豪気でいいやつらだったんだけどな。」

 その騎士は、そうあいつらの事情を説明した。それほどの奴らならこの報奨金も頷ける。それにしても、やけに断定的に話すな、この人。

「俺の話し方から気づいていると思うが、俺は奴らの知り合いだ。……騎士になる前、冒険者時代にパーティーを組んでいたんだ。」

 騎士はそう言った。なるほど、あの時のやり取りはそれで。

「あいつらは堕落し、俺はあいつらと離反して、ソロで冒険者をやっていた。それで、最終的に騎士になったんだ。……君達も、仲間が死んだからと言ってああはならないようにな。」

 暗い声で、しかしどことなく懐かしむように、騎士は俺たちにそう言った。

「変な話をして済まなかった。戯言だと思ってくれ。もういいぞ。」

 騎士はそういうと、席を立って隣の部屋に歩いて行った。

(仲間が死んだら……ねぇ。)

 俺はそれを聞いて、地球にいた頃の出来事を思い出した。妹である茜が失敗して死にそうになった時、それを助けた俺はどうやら大変なことになったらしい。今一つその時のことが記憶にないから何とも言えないが、相当やばかったようだ。

(まぁ、こいつらならそう危ないこともない気がするけど、気をつけとかなきゃな。)

 俺は仲間の3人の顔を見て、そう考えていた。

7章は今一つ魔術が活用できなかったのが残念でした。代わりに地球の技術である科学を使えたので、よしとしときましょうかね。

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