裏の話 象徴武器
今回はあとがきも読んで下さると幸いです。ちなみに過去最長です。
「ふむ、そろそろ気づくかのう。」
そのころ、神界から暁の様子を見ていた神は、そう呟いていた。
彼はとある理由から暁を異世界に飛ばし、こうして時折様子を見ている。
神は必要以上に、自分からそれ以外の存在に干渉してはならない。必要以上に干渉した神は、ギリシア神話のプロメテウスが有名だが、彼はそのせいで罰を受けている。神は、あまねく生物の上位存在であり、1つのものに強く贔屓をしてはならない。
しかし、逆に神には世界を調律する義務がある。ある1つの方向に傾いた場合にはそれを直さなければならない。
この2つの制約から、神は世界を調律をしようにも、自分が深くかかわることが出来ない、ということになる。
そして、こんな状況で役に立つのが『英雄』と呼ばれる存在だ。
神自身が手を下さず、優れた者に調律を頼む。深い干渉はせず、調律をすることができる。
また、もう1つの干渉の手段は『望まれる』ことだ。神は、望まれて呼ばれたり、顕現したりすることでその力を使い、自分から関わるよりもより強く干渉できる。
そんな状態で、神野家は非常に都合が良かった。この一族は力を持ち、神を望む。また、特定の宗教と違ってすべての神を受け入れるため、信頼することもできる。
神は、世界のバランスが乱れた時に、『神託』によって神野家の人間に依頼し、その分の報酬を渡した。
そして今回、暁が飛ばされた、『暁の世界と重なるもう1つの世界』のバランスが崩れた。1つの世界のバランスが崩れた時、他の『重なっている世界』のバランスも崩れてゆく。
神は始め、異世界の住人に頼もうと思ったが、それに合う者はいなかった。その代わり、1つの年齢に固まって3人の、英雄にふさわしい能力を持った者がいることが分かった。よって、神はこの世界とは別の世界から素質のある者を、この世界に呼び出すことを決めた。
そんな時、その3人と同年代であり、異世界でも魔術が使え、なおかつとてつもない魔力を持った暁に白羽の矢が立った。
そして、神は暁にいくつか恩恵を与え、異世界に飛ばしたのだ。神は深くかかわらず、実行するのは別の存在。これでも、神の意志で異世界に恩恵付きで飛ばすのは相当無理をした。
「暁にはいいものを与えたんだ。それに見合う仕事をしとくれよ。」
神はそう呟きながら、暁に与えた4つの象徴武器を思い出す。火の杖、水の杯、風の短剣、地の円盤。暁が言った通り、これらは神器とも呼べるほどの力を持つ。
火の杖は、世界樹と呼ばれる『ユグドラシル』から作られたものだ。五行思想の上で、木は火を強くする。また、北欧神話の神々の黄昏において、世界が燃やされる、つまり世界そのものであるユグドラシルが燃やされ、その後に新たな世界が生まれた、という部分がある。火は、人を殺したり生かしたりする滅亡と再生の性質を持ち合わせている。このラグナロクにおいても、それがよく分かる描写となる。ここまで要素が重なるユグドラシルは、火の象徴武器にするにはピッタリであった。
水の杯、風の短剣、地の円盤は全て、3種の神器と同じ『緋緋色金』で出来ている。緋緋色金は『生きた金属』といわれ、それ単体だけでとてつもない魔力を秘める。それを、神が加工し、さらに象徴武器にすることによって魔力に指向性を持たせた。
ちなみに、魔力とは暁の言う『神の力の象徴』ではない。神の力『そのもの』だ。それが強大であるか否かの違いである。
「そう考えると、暁を筆頭にあの4人は『神』になりえるのかも知れぬな。」
桁外れの魔力を持つ4人。過去に英雄と呼ばれたものは神、またはそれに近いものになってきた。不老不死や神界に住まう事を許されたり、神として祀られてきた。
「さあ頼むぞ英雄。数々の困難を突破し、『私』を呼び出せ。」
神は、暁が持つ『鏡』を注視してそういった。
『世界が燃えた、つまり世界を意味するユグドラシルが燃えた』という解釈が本文で出てきますが、実はこれと真逆の解釈があったりします。
9つの世界が燃え尽きた時、唯一『ホッドミールの森』は焼け残りました。森は木が多い、つまりこのホッドミールの森はユグドラシルを表しているという解釈があります。つまり、『ユグドラシルは焼け残った』という真逆の解釈が出来ます。
このように、神話や童話や民間伝承……本編では『術話』と呼ばれるものは、同じ物語や内容でも相反する解釈が出来ます。このあたりも、解釈の面白さです。
また、魔術は、多様性のために真逆の解釈をどちらも取り入れる、いわばどっちつかずな性質を持っています。そう考えると、クリスマスのすぐ後に初詣に行く、いわば日本人的な性質がありますね。
この説明(兼言い訳)を本文で書くべきか、裏設定としてここに書くにとどめるか……悩みどころです。