エピローグ7 安穏
俺たちは協力して、ミスリルゴーレム改めただのミスリルを1か所に集めた。こんな時、ミリアとクロロはレベルの恩恵でとてもよく働く。俺とレイラも決して力がないわけではないが、やはりあの2人には敵わない。理由は分かっているとはいえ、俺のレベルが上がりにくいのが気に食わない。地球と違ってここの重力は軽い分、その恩恵で力は強い方だったが、最近、鈍ってきた。魔法とかが便利だし、魔法使いという職業は力仕事でもないからだ。ちょっとは鍛えておくべきだろう。こっちに来てから幸運な要素が重なって、強い方に入ってはいるが、油断はしちゃいかんしな。
それはさておき、今はこのミスリルゴーレムをどう分けるかについて話し合いをしている。この大量のミスリルの内、7割を俺たちで分け合うことになる。ここの監視や護衛に来ていた人も、取り分は同じ7割になる結果、計算は楽になった。
「さて、このミスリルにも、いい部分と悪い部分がある。このあたりも含めて考えねばならぬな。」
クロイツさんがそう全員に説明する。いい部分というのは、魔力を多く含んでいる核だった部分と純度が高い部分だ。悪い部分と言っても、純度は普通レベルだ。ちなみに、ミリアやクロロの剣のミスリルは超高純度かつ魔力を多く含む、今回で言うミスリルゴーレムの核にあたるレベルの一品。争奪戦の景品でもらったミスリルは高純度の平均ちょっと上となる。
「それで、この分配の方法ですが、3つ選べます。1つは、今回の戦いで貢献した順番に配分を決めていくやり方、もう1つは全員に均等に配るやり方、そしてこの場で何かしらのゲームに近いものをして配分を決めるやり方です。あ、私達騎士は普通に国から褒賞だったり給金がいただけますのでいらないです。」
コレアさんが方法を提示する。俺たち4人以外の冒険者が、1つ目の方法のあたりで肩を落とし、2つ目の方法を聞いて迷うそぶりを見せた。
自分で言うのも何だが、俺たち4人の貢献度はとても大きいだろう。となると、必然的に彼らの取り分は少なくなる。よって、彼らにとっては2つ目の方法が一番得になるが、それは高位の冒険者だ。プライドと良心と常識が邪魔をする。高位の冒険者になるにはある程度の性格も求められるから、こういった場が荒れることは少ない。ちなみに、自分の貢献度を誤魔化そうにも、騎士の人たちは仕事の確認や巡回の確認用に記録結晶を常備しているので出来ない。前から思っていたが監視結晶に名前を変えるべきだ。
「悔しいし、俺らの取り分は減るが……ここは貢献度に合わせて分配するのがいいだろうな。」
1人の冒険者が重々しく口を開いてそう言った。彼はクロイツさんのチームにいた、この場にいる冒険者の中では強い部類に入る人らしい。周りの人間も従っているあたり、彼の発言力は大きいのだろう。
「だそうだ。当の本人たちであるアカツキ殿たちはどう考える?」
彼の発言を受けて、クロイツさんが俺に振ってきた。3人と目線で話し合い、結論を口にする。
「俺たちもそれがいいと思います。貢献度を決めるのは……客観的に見ていた騎士の方々がよろしいかと。」
つまり、俺たちは多く取り分を貰えるからラッキー、面倒な決め事は騎士に丸投げ、という手段を選んだ。3人とも、普段は謙虚で遠慮深いが、貰えるものは貰うという強かさがある。俺は普段から遠慮もしないし図々しいからこの結論にたどりつくのは当たり前と言えた。
「そうだな……正直に言わせてもらえば、アカツキ殿のパーティーだけで8割は貰ってもいい貢献度になる。彼らがいなければどうなっていたことか。」
クロイツさんはそう言った。
これもまた自分で言うのも変だが、多分俺たちがいなければ死んでいただろう。騎士の人たちもこの状況と相手では分が悪いメンバーが揃っていたし、冒険者たちもあの様子では……といったところだ。
1つ文句を言いたいのは、何で相性が悪い騎士をここの警備にあたらせたのか、ということだ。先ほどのミスリル運びの際にクロイツさんにさりげなく問いかけたところ、「怪我や病欠、その他の不幸が重なってこうなってしまった。」と言っていた。つまり、本来当たっていた人が色々な都合で休み、その代わりに急遽彼らがここの警備をやることになった、ということだ。クロイツさんはついでにここで仕事をしているだけだ。
「ただ、それだとバランスが悪いので、もしアカツキさんたちがよろしければ、他の方の分け前を増やせると思います。」
コレアさんはそういってまた俺たちに振ってくる。どうやら、俺たちは発言権が相当高いようだ。多分ここで8割でも少なすぎる、といったらすんなりもっと俺たちの分け前が増えるだろう。しかし、
「俺たちは5割でいいですよ。それ以上は特に必要ありません。代わりに、いい部分は結構頂いていきますね。」
という結論に俺たちはたどり着いた。先ほどのアイコンタクト会議で決めていたことだ。
理由としては、いい部分が欲しかったこと、別にそんなに量はいらないこと、ここで恩を売っておけばいいということ。そして、もう1つの理由が冒険者の強化だ。
というのも、どうやら最近魔物も活発化しており、魔族の動きもきな臭くなっている。後者についてはこの身を持って経験したことだ。となると、俺たちの強化も重要だが、他の戦力の強化も重要だ。といっても、これはさして大きな理由ではない。最初の3つが主な理由だ。
俺の発言を聞いて、場の空気が緩んだのを感じる。冒険者たちはなんだかんだ言ってミスリルが欲しかったし、騎士たちは上手く折り合いをつけるのが面倒だったのだろう。
最終的に、俺たちの取り分は全体の7割の5割、つまり3割5分貰えることになった。もとの量も大分多いし、貰える部分は一級品、これ以上贅沢したら罰が当たるってもんだろう。その後、俺たちはミスリルのいい部分を選定し、貰える分だけ貰って行った。
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国への報告などは騎士たちがやってくれるそうなので、俺たちは戻ってきた鉱山夫と話し合って掘り出した分の3割のミスリルも貰っていき、エフルテへと向かっている。超容量鞄もそうだが、ストレージもこういったときにはかなり便利だ。
クリムと馬車の質のおかげで快適な旅を楽しみながら、俺たちは馬車で雑談をしていた。
「それにしても、ここ数日は平和で良かったな。」
俺はそう呟きながら欠伸をする。
「確かに、行く先々で問題がありましたもんね。」
レイラも、俺の言葉に賛成の様だ。
始めの赤鬼青鬼に始まり、九尾やドラミでの魔族襲撃事件、それにエフルテでの防衛戦と中々大きなトラブルに巻き込まれてきた。龍の件は自分から首を突っ込んだのでトラブルとは言えないだろう。
「確かに、ミスリルゴーレムは大きな事件ではあるけど、よくよく考えると魔族やそれに近い変異種よりは全然ましだったわね。」
ミリアも同じ意見の様だ。ミスリルゴーレムの事件は規模や被害で言ったら九尾よりは大きいが、九尾は変異種という珍しいものだ。1つの鉱山につき、ゴーレムは年に3回程度出現するらしいので、異常度や珍しさでいったら人語を話す九尾の方が大きいだろう。といっても、強いゴーレムが2体同時、というのも相当凄いので、意見が分かれるところではあるかもしれないな。
「いいミスリルも沢山手に入ったし、ここ数日はいい日だったね。」
クロロがほくほくした顔でそういった。今回手に入れたミスリルは大部分をクロロに譲った。また質が低い方のミスリルはレイラに譲り、例の『アブレシブウォーターブレード(今命名)』に役立ててもらう。
「こんな日が続いてくれればいいんだけどな。」
俺は馬車で寝転がりながらそう呟いた。
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その夜、俺は3人が寝ている中、見張り番をしていた。
ここ数日はとても楽しかった。昼に改めて実感したが、この世界に来てからなんだかんだとトラブル続きだった。ここ数日はそれなりに平和だっただろう。大きなイベントとして争奪戦も楽しかったし、採掘場での宝探しも久しぶりに自分の得意分野で活躍で来て楽しかった。普段は張りつめていたが、楽しむところではしっかりはっちゃけて楽しまないとな。
しかし、俺は1つ考え事をしてしまう。それは、数日前に聞いた勇者の時代の話についてだ。
俺がこの世界に来た辺りから、魔物の活動が盛んになり、変異種がよく発生するようになり、魔族の活動が活発になり、さらに四天王も動き出してきた。このあたりから、『魔王の復活』が近いのではないか、と俺は考えてしまう。そう、『俺が来たタイミング』でだ。偶然と片づけるのは楽だが、どうにも引っかかる。
(もしかして、魔王の復活が近いかも知れなくて、魔物や魔族の活動が活発化しているのには、神様が俺をこの世界に送り込んだことに関係があるのかもな。)
俺はそう考えながら、神に問いかけるように空を仰いだ。
これで7章本編は終わりです。
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