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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
7章 旅人達の安穏(カーム・エピソード)
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オブルエ鉱山

詰め込みすぎて長くなりました。

 普通の馬車で5日のところを、クリムのおかげで3日ぐらいで到着することが出来た。馬車も快適だし、心地よい旅となった。野営の料理も、クロロが買ってきてくれたドライフルーツで甘味も摂取出来たし、ストレスのない旅となった。途中で身の程知らずな盗賊団に襲われたりもしたが、それもご愛嬌だろう。そこそこ強い盗賊団のようで、途中で立ち寄ったピッコル村の守護をしている騎士に突き出すと金貨50枚と、盗賊団狩りにしてはいい報酬を貰えた。盗賊団たちは、どうやら元Bランク冒険者らしく、依頼の途中で仲間があっけなく死に、そこから冒険者がバカらしくなって盗賊団になったそうだ。もとは豪気でいい性格だった奴ららしいが、それだけ仲間の死と言う奴は人格を変えるのだろう。

 エフルテの街を出る前に、クロロは玉鋼の盾と鎧を買った。一時的なものなのに、魔法の付与が無いとはいえ玉鋼の装備を買える俺たちはちょっと異常だな。

 それはさておき、今、俺たちはオブルエ鉱山の採掘場の入り口で事務的なことを諸々やっている。大体が予習してきたルールの再確認だった。全員がSランク冒険者と知って(俺は違うけど)、受付の炭鉱夫の人は目を輝かせていた。何でも、最近魔力の気配が強く、ゴーレムがもう少しで出そうなのだ。炭鉱夫というと、荒っぽいイメージがあるし、目の前の人も含めて見た目も相当厳ついのだが、実際は丁寧に受付をしてくれた。

「なんというか……期待されてるわね。」

 俺が受付の人とやり取りをしている後ろで、ミリアが苦笑いしてそうな語調でレイラとクロロに話しかけている。

「ミスリルゴーレムが出て討伐したら、その素材の7割が貰えるんですよね?」

 レイラが後ろで確認している。

「そうだね。出た儲けものってやつだよ。」

 クロロが嬉しそうな声で話している。丁度、そのタイミングでこちらもやり取りが終わったので、3人に振り向く。

「これから鶴嘴つるはしとヘルメットを貸してもらいに行くぞ。」

「分かりました。」

「初めてだから楽しみね。」

「僕も初めてだなぁ。」

 3人はそんなことを話しながら俺についてきた。

             __________________

 採掘場の中は、意外と天井が高く、開放感があった。

 ミスリルが1番採れる鉱山と言っても、実際はかなり貴重な金属であるミスリルは、そうそう見つからないらしい。さらに、まともに使える大きさや質となると、案外見つからないのだ。

 プロである炭鉱夫や、それに雇われている鉱脈を探す専門家ですら難しい。よって、この依頼は鉱脈を見つける事、つまり運が重要な要素となる。

「といっても、俺には心強い道具があるんだよな。」

 俺はそういって、ストレージで2本のL字の金属製の棒を取り出す。

「また何かやるの?」

 ミリアが俺の様子を見て呆れ顔でそう言ってきた。

「しょうがないだろ。そもそも俺はこういったのが本業で、戦闘は専門外なんだ。」

 俺の言葉に3人の表情が固まる。そんな反応されてもな……。

 魔術師は、確かに暗殺や妖怪退治を請け負うが、それ以上に日常の些細な依頼の方が多い。ペットがいなくなったから探して欲しいとか、大切なものをなくしたから見つけて欲しいとか、割と生活に密着したものの方が圧倒的に多い。といっても、依頼してくる人たちは普通でない人ばかりだ。偉い政治家だとか指定暴力団の組長だとか大きな会社の重役だとかだ。こんな風な依頼が多いため、俺たち魔術師は全員、それぞれが得意なもの探しの分野を持っている。その中でも俺は『金属』を見つけるのが得意なのだ。そして、それを見つけるのに役に立つ魔術。そう、この2本のL字型の棒を使った『ダウジング』だ。

 ダウジングとは、地下水や貴金属、そして『鉱脈』を探す方法だ。金属の棒や振り子が勝手に動き、場所を示してくれる、というものである。

 このダウジング、中世ヨーロッパでは悪魔と結び付けられたのだ。というのも、物が勝手に動くのはそれに『何か』が憑依した、と捉えられるのだ。この『何か』が悪魔と見做され、異端審問などでも使うことが禁止された。

 似たようなものとして、『こっくりさん』がある。これは、10円玉を通じて『こっくりさん』が物事を教えてくれる、というものだ。これは降霊術の一種と言われており、巫女に神を宿らせて神託を受けるのと同じようなものだと考えられる。こういった降霊術も、キリスト教では悪魔の仕業として禁止されている。キリスト教の悪魔とは、他宗教の神であるため、ダウジングは一種の『神託』だと解釈することが出来る。神の力とは、前の雷のように『魔力』と受け取れる。つまり、

「魔力と道具さえあればダウジングは可能、と言うわけだ。」

 俺は結論だけ口に出して、金属の棒に魔力を送る。すると、棒が勝手に回り出して、俺の右斜め前ぐらいを示す。

「お、そのあたりにいいものがあるらしいぞ。」

「了解。任せて!」

 俺が指示した方向の壁にクロロが向かっていく。そして、高レベルの腕力を活かした力強い振りで、鶴嘴を使ってガリガリ岩を掘削していく。少しずつ加減を覚えてきたのか、力を弱めていく。すると、あるところでカチン、と硬い音がした。

「出てきたみたいだね。」

 クロロがそういうので、穴の中を覗き込んでみる。そこには、神秘的な光沢をもつ金属があった。紛れもなくミスリルだ。

「さて、掘り出すか。」

「了解。」

 2人で鶴嘴を使って、大分手加減して掘っていく。作業を終えて取り出すと、大体俺の頭ぐらいのミスリルの塊が取れた。

「兄ちゃん達すげえな。そんないいもん滅多に採れねえぞ。」

 そばで作業していた炭鉱夫が話しかけてくる。クロロの事も男だと認識しているが、先ほどまで普通に女だと勘違いしていた。嬢ちゃんとクロロの事を呼んで訂正されたのだ。

「まぁ、運が良かっただけですよ。」

 俺はそう愛想笑いをしてまたダウジングにかかろうとする。

「あ、こっちに何かあるみたい。」

「は~い、了解。」

 すると、ちょっと向こうでは、レイラが地底属性の魔法矢を地面に刺して探知し、ミリアが掘る、といった共同作業が行われていた。見る限り、レイラの探知が結構正確だ。

 地底属性の魔法矢を使うところは、これで見るのが初めてだ。攻撃にはあまり使わないが、こういった使い方が出来る。魔力を流し込めば、鉱脈がある方向の部分だけ、矢じりの結晶の色が変わるのだ。そして、それは魔力の量が多いほど正確かつ短時間で出来る。

「あら?ミスリルじゃないわね?」

 ミリアが掘り出したのは風属性の結晶だった。

「1つの鉱山から複数の鉱物が掘れるのは当たり前だよ、ミリア。」

 レイラが苦笑しながらそういった。

「まぁ、そう言われればそうね。」

 ミリアはそう平然と返した。ちなみに、この属性結晶を含むゴーレムはその属性を持ち、その魔法も使ってくる。強いゴーレムはミスリルで出来ていて、中に結晶を含むと言う中々厄介なものがある。ゴーレムやミスリル、そして戦う場所の性質上、魔族と変異種を除けば、竜の成体と互角の強さらしい。どっちが強いかと言われると、その人の戦い方によって違うが、それでもあまり遭遇したくない相手らしい。

 しばらくして、俺とレイラの探知、ミリアとクロロの掘削という分担を上手くこなすことで、最終的に炭鉱夫が熱心にスカウトに来るレベルの量が採れた。……断ったけどな。

「うーん、これでも結構な量が採れてるんだけどな……。」

 目の前のミスリルの山を見て、俺は腕を組みながら唸る。

「これの3割だと……鎧はとてもじゃないけど作れないね。」

 クロロが残念そうに肩を落とす。ミスリルは、そこらで買うよりもこうして自分で集める方が断然安上がりになる。3割貰えるだけでも、正直得だったりするから、出回っているのがいかに高いかを、こうしてみると実感する。

「自分で採ったので装備を作りたいのはやまやまだけど……まぁいいか。適当なところで買えばいいや。」

 クロロはそう言って、姿勢を直した。その時、

「おう?地震か?」

 突然、グラグラと揺れ出した。

「避難だ!」

 炭鉱夫のリーダーらしき人に従って、俺たちは、ささっとあっというまに採掘場から退避する。落盤事故とかあったら危険だから、普通の地震でもこうして避難するのだ。

 出入り口付近では、雇われている護衛の冒険者や騎士が待っていて、誘導してくれた。冒険者も騎士も、最低でもAランクはありそうな強さだ。身のこなしと装備から見て、何人かはSランクだろう。これだけのメンバーが揃えば大抵の危機には対処できるだろう。

「地震ですかね?」

 レイラがポツリとつぶやいたが、それにしては揺れが若干長いように思える。

「はたまた、地盤沈下とかそういったやつかしら?」

 ミリアも首を傾げながらそう言った。

「いや……もしかしたら……。」

 クロロが顔を歪めながらそう呟く。

「しょ、少年、あまり縁起悪いこと言わんといて下さい。」

 たまたまそばにいた炭鉱夫が顔を真っ青にしてクロロにそう言った。クロロが言わんとしていることが分かるのだろう。

 護衛として雇われた騎士と冒険者が数人、揺れが収まったので中に調査に入る。皆が緊張の面持ちで採掘場の出入り口を見守る。

 しばらくして、入っていた人全員が駆け足で戻ってきた。

「出やがったぞ!ミスリルゴーレムだ!それも魔力の量が半端じゃないし、それが2体も居やがる!」

「2体だと!?」

「しかも魔力量が高い奴か!」

「くそっ!またしばらく休みかよ!」

「……この鉱山も終わりかもな。」

 1人が大声で俺たちにそう知らせた。それを聞いた瞬間、大声で叫んだり、愚痴ったりしながら炭鉱夫たち非戦闘員は即座に軽い荷物を纏めて避難を開始した。また、すでに馬車が用意されていて、近くの村や首都に連絡も飛ばせそうになっている。準備が大分いいな。

 一方、俺たちと同じように採掘に参加した冒険者や、護衛として雇われた人は、緊張の面持ちで、騎士の一番強そうな人に集合をかけられて集まる。

「よし、この危機的状況を、何とかして乗り切ろう。今までにない事態だが、冷静に対処していこう。私はウドウィン王国騎士団戦士隊副隊長のクロイツ・ミステルだ。よろしく頼む。」

 どうやら騎士隊の強い方の人らしい。装備も、全身ミスリルとまではいかないが兜と籠手はミスリル製だ。鎧はオリハルコン製だし、剣も固有名詞が付きそうだ。黒光りした刀身で、かなりの業物だと思われる。魔法効果も何か付与されているだろう。

「おい、あの『葬剣(リーパー)』のクロイツかよ。」

「何で騎士隊の副隊長がこんなところに?」

 周りの冒険者が俄かにざわめきだす。騎士団の幹部クラスは基本的に首都からは出ないはずだ。

「不思議に思う者もいるかもしれんな。先日、エフルテの街が襲撃された際、私も騎士団からの応援隊に入っていたのだ。その中でも一番早く進む一番隊にいたのだが、幸い、我々が付く前に魔物の集団は撃退されていた。ここには、帰り道に偶々寄って、そのままついでに仕事をしているだけだ。だが……ある意味、このタイミングで私がいて良かったかもな。」

 最後に少し口角を上げて、クロイツさんはそう言った。決して驕っていない自信だ。見た目も身長が高く、体も相当鍛えてあるようで、頼りがいのある人だ。

「さて、状況を改めて説明しよう。今までにない強さのミスリルゴーレムが現れた。それも2体だ。魔力量からして、属性結晶を含んでいたらより危険だろう。相当地下深くから出てきたようで、その影響で地面も天井も安定しない。正直言って、派手な魔法も使えないし厳しい戦いを強いられるだろう。」

 クロイツさんは表情を引き締めてそう言った。

「ここは私達だけで凌がなければならない。そこで、戦力を把握するためにも皆の強さを確認したい。それぞれ、ギルドカードを近くの騎士に見せてくれ。」

 そう言われて、俺たちはギルドカードを近くの騎士に見せる。しばらくすると、またクロイツさんが話し始める。

「よし、分かった。では、今から指示されたとおりに隊列を組んでくれ。その後、おおまかな作戦を伝えたら戦闘に入る。」

 そう言うと、クロイツさんは指示を出し始めた。

葬剣(リーパー)

木林とっておきの中二病称号の1つ。実はもっとあとに出す予定だったのは秘密。

本文中にさりげなく、夏のホラー企画のネタが登場しています。宣伝宣伝。

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