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魔術師の異世界ラプソディー  作者: 木林森
7章 旅人達の安穏(カーム・エピソード)
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2日目

 昨日もなんやかんやあったが、今日もまた何かありそうな、争奪戦2日目。昨日の俺たちの晩飯はグリルさんに奢ってもらった。なんか睨まれたり恨み言を吐かれた気がするが、飯が美味かったので聞かなかったことにしておく。自業自得だ。ちなみに賞品だが、上位の場合は準備に時間がかかるが、下位の方は少ないためすぐにもらえる。

「で、金貨1枚ね……。」

 ミリアはそう呟いてうなだれた。あれは俗に言う参加賞、またの名を『残念賞』というものだ。まぁ、ビリだししょうがあるまい。

 そして、この2日目の午前は野営能力、つまり俺が出る競技だ。

 道具はギルドから支給されるもののみ使用、魔法禁止と、俺の取り柄をほとんど活かせない競技となっている。ある意味運命のようなものだろう。

 そんなわけで、俺は今キャンプ場と化している街の西の草原に来ている。渡された道具をほかがえっちらおっちらと運ぶ中、俺は悠々とストレージを使って身一つで歩いて行った。道中はなんでもありなのだ。

 支給された道具は、どれも安からず高からずのスタンダードなものばかり。本当に高ランク冒険者が集まる街のギルドが開く大会だろうか、と疑うほどの切なさだ。そもそも、俺たち冒険者には魔法があるんだから、むしろ魔法禁止、というルールは現実的でない気がする。ほかにもいろいろ突っ込みどころはありそうだが、文句を言っても仕方あるまい。

 はじめに行われるのはテントの早組立。テントの構造は地球と変わらない。……普通、テントは複数人で組み立てるものじゃないのか?と思わないこともないが仕方あるまい。

 次に火熾し。使った道具と作業の巧さと火の質、そして早さを競う。使った道具、というのはつまり、どれだけ道具を使わなかったか、ということだ。簡単に早く、質も良く、と冒険者の大会でなければもっと盛り上がっていたであろう内容だ。今は終わってしまったが、日本でやっていた、色々な分野でのエキスパートが競い合う番組があった。それの無人島生活での競技にこれに似たようなものがあった気がする。

 そして最後が料理。火熾しの段階で失敗した者は、ここではもう火を使ってはいけない。手軽さや野営への適切度、味や材料のバランスなど、様々な面で評価される。

「みなさーん、そろそろ準備はよろしいですかー?」

 『ビッグボイス』で拡声されたギルド職員の声が聞こえる。

「それではまず、テントの早組立を始めます。5、4、3、2、1、スタート!」

 ギルド職員の合図とともに、俺たちは一斉に動き出す。俺は頭の中で、テントの組み立て方が載っていた本のページを思い出しながら自分なりに手早く組み立てていく。いかんせん、ぶっつけ本番な上、地球で使っていた日本製のテントより大分組み立てにくい。それでもなんとか組み立て終えた。

 結果としては、参加していた40人のうち、20~30番目ぐらいと、ちょっと遅めのタイムだった。

 ビリの人が組み立て終え、そこからしばらくすると、またギルド職員が話し出す。

「はーい、次は火熾しです。道具の準備をしてください。」

 そういわれて、俺たちはそれぞれ自分が使うものを使いやすい位置に並べる。

 俺が今回使うのは、ナイフ、木の板2枚、木の棒2本、縄、藁の4つだ。ほかは縄は使わないようだ。この競技では、木の加工も競技に含まれる。つまり、工作の速さも競う対象なのだ。

「5、4、3、2、1、スタート!」

 俺はまず、ナイフを使って木の板の端に、木の棒よりちょっと大きいぐらいの丸い溝を作る。この溝は燧臼ひきりうすと呼ばれるもので、この溝の中に火種をつくりだすのだ。その溝につながるようにしてV字の溝を作る。

 燧臼を作り終えると、俺は今度は片方の木の棒の両端に縄をくくりつけ、弓のようにする。そして、もう1つの木の棒に2回ほど巻きつけると、巻きつけられた木の棒(以降、燧杵と呼ぶ。)の端を燧臼に突っ込む。燧杵ひきりきねと燧臼をそれぞれもう1枚の木の板と足で固定する。そして、弓を大きなストロークで動かす。すると、弓に巻き付かれている燧杵も一緒に回る。

 これは、普通に手で回す錐揉み式とは違う方法で、弓切り式という方法だ。先ほど言ったテレビ番組では、ほかの錐揉み式を選択した人を差し置いて、この方法を使った人が優勝していたのを思いだし、この方法にした。

 大きなストロークで回していると白い煙が上がってきて、さらにしばらくすると黒い粉がV字の溝から溢れ出てきたので、一気にストロークを速くした。

 それをしばらく続け、火種の火力がいい感じになってきたので俺は、藁をそこに押し付ける。すると、藁に着火したため、すかさず使っていた木の板や棒を組んで、その中に藁を入れる。しばらくすると、木にも引火し、火がようやく安定した。

「ふう、一件落着。」

 これで俺の競技は終了だ。あとはほかが終わるまでゆっくりと火を保てば良い。

 他の人を見ると、ほぼ全員が錐揉み式でやっていた。木の板や棒も、種類が違っている。

 今回支給された木の類は、同じ道具でも木の種類が違う。つまり、火がつきやすいものとつきにくいものがあるのだ。

 俺はそれを知っていたので、事前に木の質感などを確かめて火がつきやすいものを選択した。俺の順位は10~15位くらいと、そこそこの順位になった。

 制限時間が終わり、8人ほど着火ができないままではあったが火熾しは終了した。

「はーい、次は料理です。道具と材料準備をしてください。」

 ギルド職員の声が聞こえたので、俺は道具や材料を選ぶ。

 しかし、何を作ったらいいだろうか?うーん……折角だから、日本の料理を作ってみるか。となると、渓谷で作った水団もどきかな?いや、折角だからあっちを作ってみるか。幸い小麦粉があるし、なんとかなるだろう。

 よし、そうとなったら材料と道具の準備だ。材料は小麦粉と水と牛の干し肉といくつかの乾燥野菜とソリル(つまり塩)と油と、それと調理用の皿をいくつか選ぶ。

 俺が選び終わってしばらくすると、ギルド職員が声をかけ始める。

「では行きます。5、4、3、2、1、スタート!」

 俺はその声と共に調理を開始する。まず乾燥野菜を水につけて戻し、そのあいだに干し肉を手で手頃なサイズに千切る。そのあと、小麦と水を混ぜて生地を作り、それを何個かに分けたあとに薄くのばした。そのあいだに野菜がいい感じになったので、そちらも千切ると、干し肉と混ぜて、そこにソリルをいれて簡単かつ大雑把、もはや料理じゃない気がする味付けをしてから、そこに油を少量垂らす。それらを混ぜ合わせ、餡のようにすると、それらを分けてのばした生地で小龍包のように包み、それをまんじゅうのように円形にする。

 その表面に薄く油を塗ると、それを焚き火の中に突っ込む。といっても当然、入れる場所は決まっていて、今回は積もった灰の中だ。幸い燃え易い木を使っていたため、そこそこ灰が積もっていた。灰の中でそれらを蒸し焼きにして。しばらく待つ。

 今回俺が作ったのは『おやき』、それの語尾に『もどき』をつけたようなものだ。『おやき』は日本の郷土料理で、小麦粉の生地で餡を包み、それを灰の中で蒸し焼きにしたものだ。いかんせん、今回は餡が全く出来が良くないので味には期待できないが、調理方法の変わり種としては印象に残るだろう。

 しばらくして、おやきがいい具合になったので、それを皿にのせてギルド職員に渡す。

「はい、ではあなたは終了です。道具を片付けて帰っていただいて結構です。もう魔法を使って結構ですよ。」

「はい。」

 俺はそう返事すると、道具や材料をストレージでしまい、そのまま身一つで街へと帰った。

             __________________

「よう、ただいま。」

「おかえりなさい。」

「あ、おかえり~。」

「おかえり。」

 俺はギルドに戻り、支給された道具を返すと、おやきを4つ皿にのせて3人のもとに向かった。

「テントは微妙でしたけど、火熾しはうまくいきましたね。」

「あんな方法があるなんて知らなかったわ。」

「料理も、ちょっと変わったものを選んだね。」

 3人は口々に感想を言った。

「ほれ、これが作った料理だ。おやきって言うんだぞ。」

 俺は1人に1つずつ渡し、自分も1口食べる。

「……適当に味付けしたから不味い。」

 俺はそういうと、全部を一気にほおばるやいなや水で流し込む。

 完全に失敗だった。餡が味の決め手なのに適当にやったせいで不味い。

「こ、これは確かに……。で、でも温かいですし、材料のバランスもいいです。」

「まぁ、あれよ。普段みたいにもっと材料が揃っていれば美味しいのよ。」

「こ、今度まともな素材で作ってね。」

 3人が微妙な表情をしながら俺を慰める。裏を返せば、相当不味かったんだな、とわかる。

「まぁ、野菜、肉、油、ソリル、油と取るべきところは揃っているし、腹持ちもいいし、手で食えるだろ?それに変わり種だから特別に点をくれるかもしれないさ。」

 この世界では、栄養価について詳しいことは分かっていない。ただ、生活の知恵から重要な成分が何に含まれているかは知られている。今回はビタミン、ミネラル、脂質、タンパク質、炭水化物とある程度は揃っているため、この面では評価はしてくれるだろう。

「さ、美味いもんでも注文して口直しと行くか。」

 俺はメニューを取り出し、注文する料理を選んだ。

             __________________

 さて、次は唯一優勝ののぞみがある腕相撲だ。基本的に、騎士はとても力が強く、細身であるクロロですらその例に漏れない。悪い結果にはならないだろう。

 総当たり戦な上、参加人数が全競技中最高の60人なので、体力もポイントだ。ほかにも組み合わせ、つまり運も重要な要素だろう。

「はい、では各テーブルに職員が付きますので、その人を審判にして始めてください。」

 ギルドの職員が開始を宣言するとともに、あちこちから歓声と怒号と野次が飛ぶ。さすが武闘派、勢いがある。

「お嬢ちゃん、腕が折れても知らねえぜ。」

 クロロの対戦相手はCランクのマッチョな人。力はありそうだが、筋肉が力の全てじゃないのがこの世界だ。周りの観客はそれを見てニヤニヤ……普通はクロロを馬鹿にしてニヤニヤするところを、対戦相手を見てニヤニヤしている。……かくいう俺もあんな表情をしているだろう。まず、クロロのことを女だと勘違いしていること、そして、

「では、始め!」

「おぎゃあ!」

 クロロの強さを知らないことが滑稽なのだ。観客から笑い声が起こる。クロロはほとんど力を入れた様子もなく、あっというまに相手を片付けた。

 あとから聞いた話だが、この対戦相手、柄が悪いチンピラに見えるが実際は2児のパパでめちゃくちゃ子煩悩らしい。見た目を利用しての心理戦を仕掛けたらしいが、それはクロロには聞かなかった。

 やっぱりCにもなると素の人柄は善良な人が多い。スーネアの悪人マッチョ4人組は本当にうまく隠れながらやったものだ。これもあとから聞いた話になるが、あいつらを俺が殺した少しあとぐらいに、あいつらはギルドによって処刑される手はずだったらしい。明確な証拠を掴まないといけない、ギルドのような公共機関の弱点だ。

 その後、クロロは対戦相手をばったばったとなぎ倒し、秒殺し、完封した。

「よお、クロロ。お前も全勝してるのか。」

 そして最後の対戦相手はニコラスさん。戦い方は技巧派だが、普通に力も滅茶苦茶強い。観客たちの盛り上がりも最高潮になっている。

「では、いきます……始め!」

「ふん!ぬううっ!?」

 始まって速攻でニコラスさんが仕掛けるが、逆にニコラスさんが押される。クロロはまだまだ余裕の笑だ。一方、ニコラスさんは顔を真っ赤にして力を入れている。数秒後、ついにニコラスさんが力尽き、クロロの勝利となる。

「くそっ、負けたよ。」

「ありがとうございました。」

 2人は笑顔で握手を交わした。

 クロロを相手にあそこまで粘れたのだ。ニコラスさんは相当力があるのだろう。だが、やっぱりクロロには勝てなかった。

             __________________

「クロロの優勝を祝して、かんぱーい!」

『かんぱーい!』

 夕食時、俺たち4人は、ギルドの酒場でソフトドリンクで、俺の音頭で乾杯をしていた。

「いやぁ、みんな、ありがとう。」

 クロロが後頭部を掻いて照れた仕草をしながらそういった。

 結果は、俺が20位、クロロが優勝となった。4人分をまとめると、ミリアがビリ、レイラが17位、俺が20位、クロロが優勝となる。

 俺の料理は、味以外は高評価をもらった。だが、味があまりにもひどく、結局この順位となった。審査員特別賞として野営料理のレシピ本を貰ったが、正直いらない。ちなみにグリザベラさんは3位と大健闘だった。一昨日のはただの謙遜だったらしい。

「さて、クロロ。なんとかよさげな装備が揃いそうだな。」

「そうだね。ミスリルのインゴットがたくさん貰えればいいなぁ。」

「そうですね。騎士団クラスの装備ではクロロさんにはちょっと質が落ちましね。」

「全身ミスリル装備も夢じゃないわね。」

 俺たちはそんな会話を交わしながら、夕食を楽しんだ。

 後日談だが、俺が作ったおやきの改良版は、翌日からこのギルドのメニューになっており、人気が出た。考え出した人として俺達はここのギルドでの飲食代が無料になった。

一番の見せ場の腕相撲が圧倒的に分量が少ないという事実。

テントの張り方、火熾し、料理に関しては全く詳しくなく、付け焼刃の知識で書いたので間違いがあるかもしれません。よろしかったらご一報ください。

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