邂逅
俺が走って自分が泊まる『イマル』という宿に駆け足で向かっている途中、何やら通り道に人だかりができていた。一体なんなんだ?
「そんなの言いがかりです!」
「そうよ!あんた達が当たってきたんでしょう!?」
「おうおう、てめぇ、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「おう!どう考えてもてめぇらの前方不注意だぜ!」
人だかりの中心では、2人の女の子と2人の大きな男が言い争っていた。
「一体なにがあったんですか?」
俺は近くにいた人に事情を聴いてみる。
「ああ、あの女の子たちが絡まれているんだ。あの男たちが女の子に当たっていって、その衝撃であの男たちの持ち物が破損したんだよ。それなりに高価な持ち物だから、弁償しろと男たちが騒ぎ立ててね。俺はその一部始終を目撃してたんだけど、あれは明らかに男たちが故意に当たりに行ったな。」
その答えを補足するようにして、答えてくれた人の隣にいた人も話しかけてくる。
「助けてやりたいのはやまやまだけど、あの男たちってBランクな上にとにかく乱暴なんだ。普段は4人で行動してるから、今はまだましだけどね。俺たち一般人には無理があるな。この町ではBランクといったらかなり強いからね。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
俺はそういいながら、人混みを迷わず掻き分け、輪の中心に、女の子たちと男たちの間に入る。
「全く。お前らみたいなのがいるから世の中はダメなんだよ。」
俺は男たちに向き合いながら全力の侮蔑を込めた視線と言葉としぐさを向ける。
「てめぇには関係ねぇ!引っ込んでなクソガキ!」
「とっとと引っ込んでろ!」
男たちはそれに激しく怒り(当たり前だ)、俺に叫んでくる。つうかこいつらさっきの登録の時に後ろにいたマッチョおじさん4人衆の2人じゃん。
「あれ?てめぇはさっきの奴じゃねえか?」
「お!本当じゃん!はっはっはっ!ランクも分からねぇガキがどうにか出来るってのかい!?」
向こうも気づいたようで、俺の事をバカにしてくる。
「それは、やってみなきゃ分からないだろ?それともそのみっともなく膨れ上がった筋肉は脳みそまで及んでるのか?」
俺は口からすらすらと悪口を並べ立てる。こっちにきて敬語しか話してないからストレスたまってたんだよな。
「ちょ、ちょっと、危ないですよ。」
「そ、そうよ、あいつらは危険よ!」
後ろの女の子たちが俺を心配して俺に注意してくれる。
「ま、大丈夫だよ。」
俺は軽く答える。
「ガキが!余裕こいてんじゃねぇ!」
男(右にいた方)が俺に思いっきり振りかぶって拳をぶつけてくる。
『きゃあっ!』
野次馬から悲鳴が漏れる。俺は、その拳を、
「おや、その体格でこの程度か。筋肉じゃなくて脂肪かい?」
片手で止めてみせるシーン、と場が静まり返る。なめんなよ。こちとら重力1・5倍の世界で100㎏以上までベンチプレスや重量挙げを小学生のころからやらされてんだ。
「クソガキめ!」
もう片方の男が背中の大きな斧を取り出し、俺に攻撃する。
『ああっ!』
野次馬からはまたも悲鳴。
「甘い。」
俺は、その向かってくる斧を持っている手、その手首をちょっと力を込めて手刀で攻撃する。
「がぁっ!」
男は悲鳴と共に斧を取り落し、その斧がそのまま自分の脚の上に落ちてくる。よし、計画通り。男は脚を抑えてぴょんぴょん跳ね回っている。
「これでもう分かったろ?もう諦めろ。」
俺が男たちに言い放つ。すると男たちは「覚えてやがれ!」と定番の台詞を2人で声を揃えて叫びながらダッシュで逃げて行った。いや、こんな胸糞悪いことを覚えていたくない。
『おおっ!』
野次馬から歓声と拍手が漏れる。中には「よくやった!」とかの歓声も入った。
「あ、あの!ありがとうございました!」
「よ、よろしければお名前を!」
女の子二人も安心した様子で俺にお礼をいってくる。
「ん?ああ、どういたしまして。俺はアカツキジンノだよ。君たちは?」
俺はお礼と質問に答え、ついでに相手の名前も聞く。
「はい、私はレイラ・ワトソンといいます。」
「あたしはミリア・マグヌスよ。」
2人は快く名前を教えてくれた。レイラとミリアね。なるほど。
ここで俺は初めて2人の見た目を観察できた。レイラは透き通るようなロングの金髪に、緑色の目をしていて、背中には弓を背負っている。気弱そうな感じの人だが、先ほどの様子を見るに、やるときはやる感じだ。ミリアは綺麗な明るい茶髪をポニーテールにして束ね、髪の毛の色に似た明るい茶色の目をしている。こちらは活発そうで、元気そうな感じだ。背中には剣を背負っている。年齢は俺と同年代くらいだろう。
「ん、分かった。」
俺はそういってその場を立ち去ろうとする。だって、
「ひゅー!かっこよかったよお兄ちゃん!」
「よく奴らを懲らしめてくれた!」
「よくやったぞ!」
とかいって観客が五月蠅いんだ。恥ずかしい。
「あ、あの!もしよかったら夜ご飯、一緒にどうですか?」
「あ、いいわね!しっかりとお礼もしたいし!」
すると、2人が俺に声をかけてきた。うん、ま、いいかな。
「ああ、いいよ。どこで食う?」
確かに、時間はもう夕食時だな。昼飯がハンバーガーみたいなの1個だったし。
「私たちが泊まっている『イマル』という宿があって、そこは夜ご飯もつくんです。そこでどうですか?」
レイラが場所を言ってくれる。え、そこって、
「俺もそこに泊まってるんだよ。丁度良かった。じゃ、さっさと行こうぜ!」
「へ?そうなの?」
俺の答えにミリアが間の抜けた反応をする。
「おう。そうなんだよ。」
俺は、そう答えて2人を手招きしながら宿に足を向けると、2人も俺と一緒に宿に足を向けた。
やっぱり物語にはヒロインがつきものですよね。たとえ出会い方がテンプレでも。




