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生きる。  作者: ARC-A
3/3

妹のためですよ

受験勉強のせいだという言い訳で、1話毎の文字数を減らさせて頂きます。

すみません。

「此処なの?」

「そこを入って右のスペースに居るぜ」

「そうなんだ。ありがとう仁美ちゃん」


 リムジンの中で頻りにこれは夢だなんて呟いてたけど、このクソ野郎の言うとおりこれは夢なんじゃないかと思っちまう。

 クソ野郎がこんなに簡単に感謝するなんて、それこそありえねぇ話だ。

 可愛い顔して毒を吐くのがコイツだっていうのに、素直すぎて気味が悪ぃ。

 頭のネジはブッ飛んでるけど。


「待っててやるから、さっさと行ってこいよ」

「うん。分かったよ」


 ああ、気色悪ぃ。

 アタシまでいつもと違うっていうのがヤバい。


「ヤバくなったら助けてやってもいいぜ」


 こんなこと言う柄じゃねぇのに。

 まあ、それだけコイツが普通じゃねぇってことなんだろう。


「気持ちだけ受け取っておくよ」


 歪な笑みが返ってきた。


「……お前、その笑顔やめろ。吐き気がする」

「ん、そうなの?結構いい出来だと思うんだけど。……まあ、いいや。それじゃ、行ってくるよ仁美ちゃん」

「とっとと行って死んでこい」


 相当キテる顔でゆっくりと路地裏に歩いて行く姿は何か勇者っぽい。

 ぽいだけでかませ犬だろうけど。


「アキラ、お前は行くんじゃねぇぞ」


 心配性のアキラのことだから、釘を刺さないと飛んで行きかねねぇ。

 アキラに死なれるのは困るから釘を打ち込んでおいた。

 恭しい声が返ってくる。


「畏まりました。しかし……お嬢様も変わりましたね」

「ん?何がだ?」

「お嬢様が心配なさるなんて……以前のお嬢様では考えられません」

「おいおい……アキラ、お前はアタシを何だと思ってんだよ」

「男性の方を心配したことはありましたか?」


 一応アキラのことは心配してるつもりなんだが……ていうか、何だその物言いは。

 まるでアタシがあのクソ野郎を心配してるみてぇじゃねぇか。


「心配なんてしてねぇよ。勝手に死なれるのはおもしろくないからな」

「死んでこいと言っていたではありませんか」


 アキラが諭すように揚げ足を取ってくる。

 お前はアタシの嫁か何かか。


「アタシが殺したいからな。死んじまったら殺せねぇだろ」

「殺す必要などないではありませんか」

「……見られたじゃねぇか」


 そう、見られた。

 見られてしまったから、殺すしかねぇんだ。

 あのときはツイてなかった。

 いや、それはただのこじ付けで、アタシはただ――――――


「お嬢様は何も悪くありません。あれは事故でした」

「事故、ねぇ。……意図的に起こしたものは事故でも何でもねぇよ」


 そう、意図的。

 あれはアタシが望んだことであって――――――


 リムジンのドアが乱暴に叩かれる。

 そこには、哀れなお姫様を抱きかかえた王子様が。

 ……王子様、顔色悪ぃな。


「どうしたよ」

「透のこと、お願い」


 お姫様を手渡しされる。

 お姫様の胸には銀の装飾が一つ。


「もう終わったのか?」

「今からだよ」

「お姫様を救出したのに魔王を倒す役目が残ってる訳か」

「そうだね」


 面白みのない言葉しか返ってこねぇ。

 ちっとも楽しくねぇや。


「病院にお願い。着いたらメールして欲しいな」

「面倒……分かったよ、そう睨むんじゃねぇ」

「ありがとう」


 踵を返して黒の中へ。

 素直すぎるアイツは心底どうかしてる。

 ちっとも楽しくねぇな。


「妹ねぇ……結構可愛いじゃねぇか」


 結構というか、アイツには勿体無いくらい可愛い。

 後輩にこんな可愛い子が居たのか。

 名前しか知らなかった。

 後輩っていっても面識ねぇし、仕方ねぇけど。


 アタシのモヤモヤを代弁するかのように、灰色が青を蔽っていく。

 学校を抜け出した訳だから遊ぶことも出来やしねぇ。

 アタシの空には雨が降りそう。


「アイツに完全に良いように使われてるな。ツイてねぇや」

「大丈夫ですよ、私がついています」


 ポツリと漏らした言葉すら拾うアキラ。

 もう嫁とか越えてる気がする。


「アキラはいっつも付いてくれるよな」

「私はお嬢様について行きますから」

「それじゃ、お姫様を届けることにしようか」

「畏まりました」


 お姫様を見つめていると、王子様の顔が頭に浮かぶ。

 お姫様を抱きかかえた姿には、不覚にも。

 ……まぁ、何だ。

 妹に対しての振舞い方を続ければ、モテるんじゃねぇの、アイツ。














「おかえり。ん?さっきよりも顔色悪いね」

「元凶が一体何を言っているんですか」


 微かな鉄の匂いが揺らめく路地裏で、殺人鬼さんはにやにやと。

 何が楽しいのか僕には全く分からない訳ですが、せっかくだから僕も笑ってあげようじゃないか。


「まあ、そう怒らないでくれよ。被害で言えば私の方が大きいんだ。まあ、自業自得というやつなんだけどね」


 僕のイライラを増長させる言い方で、殺人鬼さんはにやにやと。

 人の妹突き刺しておいて何笑ってるのかさっぱりな訳ですけども、この状況で襲い掛からない僕はひょっとすると聖人君子という奴なんじゃないだろうか。


「いや、しかしだね。このまま待っていればもっと楽しいことがあるのではという、直感的なものを信じてみたけれど……世の中は中々簡単なものなのかもしれないね。君もそう思わないか?」

「あなたの思考回路が普通じゃないとは思いますよ」

「そんなこと、本人が解っていないと思うかい?自覚がない人間は救われないよ」


 随分とお喋りな殺人鬼さんだ。

 まあ、仁美ちゃんからのメールが来るまでは付き合ってあげないこともない。

 時間稼ぎというやつだ。


「あなたが救われるような世界は捩じ曲がってるんでしょうね」

「世界は真っ直ぐだよ。見る目が捩じ曲がっているんだ」

「随分と直観的な考えをお持ちのようで」

「捻くれた直線だけどね」


 むむむ。

 殺人鬼と言われるぐらいだから人間の僕とじゃ会話にならないのだろうか。

 言葉を発するだけで時間は稼げる訳だけど、精神がガリガリと削られていく。

 もう振り切れてるのに、何処を削ればいいのだろう。


「素晴らしい体験が君の妹さんのおかげで出来たことだし、今日は最高の日になりそうだ。……まあ、君が楽しませてくれるならだけど」

「家の妹がお気に召したと?勘弁願いたいですね」

「まあまあ、そう言わないでくれ。完全に私の気まぐれだけど、お気に召したから生かしてあげたんだ。いやはや、まさか腕を消されるとは思っていなかったよ」


 その言葉通り、左腕が服ごと肩の辺りまで消失していた。

 断片からは、血の一滴すら零れていない。

 透にもっと優しくしないといけない気がした。

 ……いや、ビビってる訳ではないよ、うん。


「この違いが判るかい?切られた訳じゃない、消されたんだ。僕の前からじわじわとね。消える痛みは言葉にならなかったね!凄かったよ、頭がおかしくなりそうだった!本当に、楽しかったなあ!」


 おおう、いきなりハイテンション。

 こんな変態に好かれたと知ったらショックで寝込むだろうから、しっかり退治しないといけないと誓うお兄ちゃんであった。


「そして、殺さずに待っていればお兄ちゃん登場という訳だ!神様って奴は案外莫迦なのかもしれないけど、私は愛せるよ!ひょっとすると、殺人は推奨されているのかな!そんな訳ないか!ふふふふふふふふ!」


 ぶっ壊れた。

 仁美ちゃん、あと何分我慢すればいいのかな?

 話を振らないといけないじゃないか。

 真面目にやってる僕が莫迦みたいだ。

 ……どうせなら、聞きたかったことを聞いてみようか。


「ちょっと、いいですか」

「ふふふ……何だい?」

「どうして、人を殺すんですか?」

「ふふふふ……確かに兄妹だ。同じことを聞いてくる。気分がいいから答えてあげるよ。殺すことに理由なんてないんだ」

「そうなんですか。つまらないですね」

「まあ、そう言わないでくれよ。私は楽しみたいだけ。満たされたいだけだ。その手段に殺人を選んだだけだよ」

「ただ最低なだけですか」

「中々に辛辣だねえ。否定は出来ないけれど。まあ、少し違ったけどね。ただ人を殺すだけじゃ満たされなかった。失念していたよ。スリルのないものじゃあ私は満たされないんだ。一方的なものだったから、今までの殺人じゃあ満たされなかった。でも、その方法しか分からなかったから殺し続けたんだよ」


 まあ、なんて。


「莫迦なんですね」

「だろうね。でも、殺人を始めていなかったら今日のスリルは味わえなかったんだ。今まで殺した14……5?人の価値は今日に凝縮されたんじゃないかな」

「言いますね。呪われてもおかしくないですよ」

「呪い……いや、こんな世界だ。呪いが存在していてもおかしくはないか。今楽しいからそれでいいよ」


 にやにやと。

 こんな莫迦に透が殺されかけたと考えると、殺意っていうものが湧き上がってきてもおかしくないと思う。

 よく頑張ったと自画自賛。

 メールは未だこないけど、もうそろそろ限界です。


「そんな目で見ないでくれ。もう殺人は止めるよ、うん。満たされないことも分かったしね。約束しよう」

「そうですか」


 このまま朱音さんに引き渡せばお仕事終了。

 貰ったお金は透に使わないと気が済まないけど、まあそれはそれとして。

 やったね、報酬ゲットだね。


「これからは、殺し合いをやることにするよ。君には付き合ってもらおうか。無理矢理でもね」


 そうなりますよね。

 元々会話で解決なんて予定にすら入れていなかったし、まともな会話が出来ると思ってもいなかったから驚くことすら出来なかった。


「……驚かないんだね。もしかして、君も?」

「あなたと一緒にしないで下さい」


 別に妹を刺した男を殴れるのが嬉しいとかそんなことは微塵も考えてはいない訳ですはい。

 にやにやした顔が気に食わない訳でもありませんはい。

 仕事、仕事だからですようん。


「それにしては乗り気みたいだけど」

「妹のためですよ」


 自問自答。

 やっぱり妹のためじゃないかおい。


「妹さんは良かったね。兄の方はどうなんだろうね。早速やってみようか」

「殺し合い、ですか」

「そうそう。私を満たしてくれよ、期待してるから」

「期待に答えてあげますよ。“俺”、我慢の限界ですから」

「そうか。ナイフは君の妹さんに刺したっきりだから、私の持つ最高のナイフを使わせてもらうよ」

「対する私は無手ですか」

「ナイフ、いるかい?」

「いえ。結構です」

「そうか。じゃ、殺し合いを始めようか」


 鳶川裕早は後ろに跳躍、4、5メートルは確実に跳んだ。

 そして、僕はそれを見て何をするでもなく呆然と。

 姿勢を低くしたまま、殺人鬼さんは僕に問いかける。


「ん、どうかしたのかい?」


 どうやら、僕が何もしないことを不思議に思ったらしい。

 随分と舐めていらっしゃいますねあなた様ということだろうか。

 とりあえず、思ったことを口にする。


「俺思ったんですけど、殺気とか出さないんですか?殺し合いなんですけど」

「ああ、そうか。失礼」


 僕は殺気ビンビンなのに、返って来なかったら少しへこむよね。

 しっかり分かってくれたのか、殺気がひしひしと伝わってきた。

 血沸き肉躍る戦いスタートですね、奥さん。

 チャンネルをそのままにするのはやめた方がいいと思いますよ。


「それじゃあ、行きますよ!」


 律義に開始の合図をくれた。

 瞬きする間に詰まる距離、交錯する視線、そして――――――


 左胸を深く抉る銀の切っ先。

 赤のスプレーが飛び散った。


 うん、こうなりますよね。














「アイツ、もう死んでんじゃねぇの?」

「お嬢様。縁起でもありませんよ」

「じゃあ、アキラは生きてるって言いきれるか?」

「お嬢様、気になるのでしたら視てはいかがですか?」

「確かに。……アイツ、刺されてるけど?」

「……」

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