そして今日4
遥が帰った後、しばらく奈津と彰は黙ったままの状態で時間がただただ過ぎていった。
遥には弟なんていない・・どういうこと?
彰が私を騙していた?
それとも遥さんが嘘をついてる?
何が嘘で本当なのか分からないから、下手に声かけれないよ。
奈津は黙っている時間の中、彰にどう話しかけたら良いのかずっと考えていた。
その間、彰はずっと背中を向けたままなので、表情が分からない。
『・・・あのさ、』
そんな沈黙の中、話しかけたのは彰からだった。
『兄ちゃん、俺のこと忘れちゃったのかな?』
彰は何でもないという風に背中を向けたまま、おどけて言った。
『まぁ、もう俺が死んで半年は経ってるだろうしさっ、兄ちゃんモテるから美人な彼女出来て楽しく毎日を過ごしてるのかも』
「あきっ・・」
『でも』
奈津が声をかけようとした瞬間、おどけたままのその声はだんだん震えていく。
『この半年間、話しかけても誰も聞こえていなくて。見えなくて。・・・やっと、やっと俺のこと見える人に会えて、兄ちゃんに言えると思ったのに』
「彰君・・・」
「ごめん。しばらく一人にして・・。」
そう言うと、彰はスッと姿を消してしまった。
「彰・・君・・」
誰にも届くことのなくなったその声は、寂しく空に溶けていった。