遊園地(ベンチにて)
「遅くなってすみません!」
奈津達は急いで遥達のもとへと戻った。
「あれっ、ジュースを買いに行ったんじゃあ?」
駆けてくる奈津を見ながら透は素直な疑問をなげかけた。
「あの…初めはジュースを買いに行くつもりだったのですが、並んでいる途中でお弁当のカバンの中に水筒も入れてきたことを思い出して…それなら同じ冷たいものということでアイスにしようと思って買ってきました」
奈津は申し訳なさそうに言った後、すぐに「すぐに水筒出しますね!」
と急いでカバンから取り出す。遥の隣に座るとコップにお茶を注ぎ、遥に渡した。
「どうぞ」
遥は受け取りながら
「お前ドジだなぁ。けど、ありがとな」
と先ほど見たときより顔色もよくなったせいか、少し意地の悪いことを言いながらお礼を言った。
「あっ、透さん良ければアイスどうぞ」
その意地悪な言い方にムッとしつつも、透に笑顔を向けアイスを選んでもらった。
「じゃあミックスにしようかな。ありがとう」
その笑顔に相変わらずのときめきを覚えながらアイスを渡す。次に遥にもアイスを渡した。
「遥さんもどうぞ」
遥は受け取りながら疑問に感じる。
「ありがと。…って何で俺は選ばせてもらえないわけ?」
「えっ」
奈津は一瞬考えると
「だって私がチョコ食べたかったんですもん」
と答えた。
「その一瞬の沈黙は何?」
「あ…気のせいですよ!ほら、溶けますよ!」
それでも疑いの目を向けながら渋々バニラアイスを食べ始めた。
その様子を見ながら奈津はそっとため息をつく。
まさか「彰が食べたいって言ったから」なんて言えないしな…。と心の中で思っていると座っている遥の目の前に立っていた彰が急かしだした。
『奈津!俺にもアイスアイス!気分だけでもアイス食べたい!』
「はいはい」
小さな声で答えると、奈津はアイスを彰のほうに向ける。
『いただきまーす!』
彰はそれを見て大きな口を開けながらアイスに近づいた。
パクッ
「うん、やっぱチョコは旨いな」
と遥が呟いた。
「『えっ』」
奈津も彰も一瞬止まる。
今食べたのは、彰と思いきや二人の目の前にいた遥だったのだ。
「「えっ」って、俺に一口くれるためにこっちにアイス向けたんじゃないの?」
遥はキョトンとした顔で奈津の表情に答えた。その答えに頭で理解した奈津は、
「ち、違いますよ!そんなことしたら…間接…になっちゃうじゃ…ごにょごにょ……」
と顔を若干赤らめながら、最後は聞き取れないくらいの声で言い返した。
そんな2人のやりとりをみて、
「2人とも僕を置いてけぼりにするなんてずるいよー」
と言いながら、透はアイスを持っている側の奈津の手をひょいと持ち上げ、
パクッ
とアイスを一口食べてしまった。
「「透 (さん)っ!?」」
今度は奈津と遥2人が同時に驚きの声をあげる。
「うん、チョコおいしいね」
2人とは裏腹に透は満足顔で感想を述べる。
「透、お前はミックスだからこいつの食べても意味ないだろ!」
「だって仲間はずれはいやだもんねーっ」
遥のツッコミに対し、透は子供のように答えた。
そんなやりとりに奈津は思わず横で笑ってしまう。
『……俺のアイスが……ない』
そんな賑やかな雰囲気の中、彰だけは落ち込んでいるのであった。