お願い事
次の日、学校の中庭で奈津は1人悩んでいた。
「どうしよう。昨日の今日だし、行くのやめておこうかなぁ」
『えー、行こうよ。約束したじゃん』
「・・まだちゃんと約束したわけじゃないし」
それは昨日の夜までさかのぼる。
この宙に浮いている男の子と出会ったのは夕方頃。しかし夜に近づくにつれて人気がなくなるその場所は危険なため、幽霊を連れていくのは少し抵抗もあったが、一旦自分の家に帰ることにした。
その途中、
「なんでこんなことに・・・」
今日のことを思い返しながら、思わずつぶやいてしまう。
『俺もわかんない』
「わかんないって」
『ほかの人には今まで一切見えたことなかったから。あっ、名前言ってなかったけど、俺、一枝 彰、10歳です。一枝 遥の弟だよ』
そう言いながら彰はぺこりとお辞儀をしたあとピースをした。それにつられ奈津もお辞儀とピースをしながら答えた。
「あっ、それはご丁寧に御兄弟の名前まで。私は奈津。片桐 奈津です。花盛りな高校2年生よ」
・・・??ちょっと待って?
思わず歩いていた足を止め、彰の方に向き直る。
「・・・・・・・・・・・・・って今、遥って言った?遥ってもしかして昨日会った超失礼な・・・?」
『そうそう。奈津が昨日会っていた、背が高くて、黒髪で、スポーツ万能で、顔もかっこ良すぎる俺の兄ちゃん!!』
彰は目をキラキラさせながら答える。
「ちょっ、色々突っ込みどころ満載だけど、それは一旦置いといて・・・もしかしてもしかしなくてもさっきのすごく失礼なあいつに言いたいことがあるわけ!?」
『うん、そう!』
「いや」
『えっ!?』
「絶対いや!もうあいつと話したくもない。あんな失礼なやつ」
あんなやつ、もう二度と会いたくない。
『兄ちゃんは口は悪いけど、優しいから今頃は絶対後悔してるよ』
「・・・どうだか」
『明日会ったら分かるよ、絶対』
自信に満ちた顔で、彰は奈津に言った。あまりにも自信たっぷりな言い方に、思わずため息が漏れる。
「・・ふぅ。さすがあいつの弟だね。兄のことよく分かってらっしゃる」
『自慢の弟だろ?』
いかにもフフンッと言うように透は両手を腰にあてた。
「負けた。・・・分かったよ。彰君のお願い事、聞いてあげる」
そう言った瞬間、彼はとびっきりの笑顔を見せてくれた。