遊園地(入口)
「どうして透がここにいるんだ!?」
遥も知らなかったようで、驚いた声を上げる。
「だってこの間、遥がなっちゃん誘ってるの見たから」
と透はキョトンとした顔で答えた。その答えに思わず、
「いや、そこはあえて来ないだろ」
と遥が突っ込む。その後ろにいた奈津も思わず「確かに」と心の中で頷いた。しかし、「キョトンとした顔も素敵です!」とも叫んでいた。もちろん心の中で。
「来るよ。だって僕はなっちゃんのことが好きだからね」
…………えっ?
あまりにもさらっとした言い方に、二人は一旦頭の中の思考が止まる。
「それって……」
その間に透は前に進み、奈津の目の前で足を止めた。そして顔を奈津の顔の近くまで近づける。奈津は茹でダコのようになった。
うううううううううう嘘ぉぉぉぉぉぉ!!??
「透っ!」
透の後ろで我に返った遥の叫ぶ声が聞こえた。奈津は固く目を瞑った。キスをされるのだと確信をして。
透はおでこがくっつきそうになる所で止まると、真っ直ぐ奈津の目を見て小さな、しかし奈津だけにはっきり聞こえる大きさで言った。
「この前も言ったよね。彰のことは言わせない」
その声が聞こえた瞬間、奈津は目を開けた。
顔は笑顔だったが、目は笑っていない。そのことに気づかされた奈津は思わず血の気が引いた。けれど目は逸らせなかった。
透は言葉にし終わると顔を奈津から遠ざけ、
「じゃあ行こうか」
とすぐにいつもの優しい笑顔で言った。そして遥に向き直り、
「だから良いよね」
とそのままの口調で言葉を続けた。
「まぁ……いっか」
そう答えた遥に「いいのかよっ!」と奈津はまた思わず突っ込んだ。しかしまだ体は血の気を引いたままで声がでなかった。
それに気付いているのかいないのか、透はチケットを買いに向かい始めた。透がその場を離れたことにより、見えなかった奈津と遥のお互いの姿が見える。
「っ!?お前、大丈夫か?」
遥が奈津の顔色を見て思わず駆け寄ってきた。そのまま手を頬に当てる。
「今、透に何かされたのか?」
遥に触れられたことにより、奈津は一気に体温が戻ってくる気がした。
「いえ、何もされてません。大丈夫です」
体温が戻ると、今度は触れられていることが恥ずかしくなり、奈津は思わずうつむき後ずさりした。
「なら良いけど……」
「行きましょうか」
「あ、あぁ」
二人はまた沈黙になりながら透のいる場所へと進み始めた。その中で奈津は、ただ私は透さんのことが好きなだけで、ただ遥さんに彰がここにいるよって伝えたいだけなのに、どうしてこうなったんだろうと考えていた。