日曜日
ジューッ
卵の香ばしい香りが、辺り一面に広がる。
時間は朝の7時。いつもなら二度寝をしかけて、母にかけ布団をひっぺ返される時間だ。しかし今日は違う。誰にも起こされずに彼女は一人、台所で料理と葛藤していた。
『奈津って料理するんだな』
頭の上から声が聞こえる。奈津はその声に対して少し怒った口調で答えた。
「失礼な。めっっったに作らないけれど、頑張れば出来る子なのよ、私は」
『ということは出来ないんだな』
「出来ないんじゃなくて、しないのよ」
『まずいんだな』
「……彰~!」
彰の方へ顔を向けようとしたが、そうすると卵焼きが焦げてしまうことに気づき、慌てて視線を戻す。
奈津が透から一年前の話を聞いた日、公園で待っていた彰に奈津は何も言わなかった。いや、何と言えば良いのかが分からなかったというのかが正しいのかもしれない。
けれど、遥に透のことを伝えるという目的は今も変わってはいない。そのため、二人(+幽霊)で出かけるという今日この日は一遇のチャンスなのである。
そう。もう気づいているだろうが、今日は遥の指定したノコノコ遊園地デートの日だ。
「本当は透さんと初デートしたかったな……ってかなぜ私はあの人にお弁当を作らないといけないの……おにぎりにからしでも入れておこうかな……」
思わず奈津はボソボソとつぶやく。しかしその隣では
『遊園地っ、遊園地っ。にーぃちゃんと、遊園地っ』
と彰が歌いながら空中でスキップをしていた。
『なぁなぁ奈津。俺のお箸は?』
「えっ、彰お箸もてるの?」
『当たり前だろ。まぁ持てても食べれないんだけどさ』
少し彰の顔が曇った気がした。そう思った奈津は
「でも皆でお箸持ってお弁当囲んだ方が楽しいしね」
と笑顔を向けた。
『だろっ。楽しみだなぁ』
すると彰はまた笑顔に戻った。その顔に奈津も安心し、その純粋な笑顔を見て入れかけたからしも元に戻した。
そうして出来上がったお弁当を奈津は鞄の中に詰めた。もちろん3本のお箸も一緒に。