今に戻って
「……ッ」
透が言い返そうと口を開いたとき、
「あれっ、二人ともどうしてこんな場所にいるんだ?」
と後ろから声が飛んできた。
「遥!?」
奈津が振り向くと、そこにはキョトンとした顔の遥が立っていた。
「……遥、今来たところ?」
透は平静を保つように装いながら、遥に聞いた。
「えっ、そうだけど?」
その言葉に透は心の中でホッと肩をなでおろした。透は奈津の方へと向いていたので、近づいてくればすぐに気付くはずであった。しかし、遥は並木道の真ん中の道からではなく、木と木の間から突然出てきたのだ。
「…遥さん、頭に葉っぱついています」
少し強引に出てきたせいか、頭や服に葉がいくつもついていて、奈津は思わずツッコんだ。その光景に、奈津の重たい気持ちが少し和む。
「えっ、本当だ」
遥は服についた部分を払い落すと、そのまま奈津の前まで歩き、頭を下げた。
「取って」
「えっ、あっ……はい」
予期せぬ行動に戸惑いながらも、奈津は遥の髪についた葉を取っていった。一枚ずつ取るたび、動揺がなくなり、同時になぜか照れくさくなっていくのを感じた。
「とっ、取れましたよ……?」
奈津がそう言うと、遥は顔を上げ笑顔で礼を言った。
「で、どうして二人とも公園じゃなくこんなところにいるの?」
「「えっ」」
思わず黙り込む。
まさかあなたの過去のことを聞いていましたー……なんて本当のこと言いづらい。彼の一番辛い過去、触れられたくない深い傷。透さんにも口止めをされた。……けれどやっぱり私は―――
「あの「ひまわりを見せたくて」
「えっ」
「なっちゃんにここのひまわりを見せたかったんだ」
透により見事に声を遮られた。
「さっ、遥も来たことだし、もう帰ろうか」
「えっ、おいっ」
透は遥の後ろに廻り、背中を押した。遥はどんどん公園へと進んで行く。奈津はしばらく立ち止まったまま二人を見ていた。そんななかで、透の強引さに対し奈津は敗北感を感じていた。
くっ、くそぅ……。
そのまま公園へと消えて行くのだろう。奈津は悔しさを持ちながらそう考えていた。しかし突然、遥がクルッと回転し、奈津の方へと走ってきた。
「えっ、どうして」
思わず驚く。すると走ってきた遥は目の前で立ち止まり、
「奈津」
と初めて名前を口にする。その言葉に奈津はドキッとした。遥はそのまま言葉を続け、
「明後日の日曜、朝10時。ノコノコ遊園地前にお弁当持参で集合」
「……は?」
トキメキが一気に疑問へと変わる。
「分かったな」
「いや、意味がわからな」
「分かったな?」
遥は有無を言わすまいと、奈津に顔を近づけていく。抵抗しようにも両手首を抑えられ逃げることができない。あまりに顔が近いため、奈津の体温は一気に上昇していった。
「なっ?」
念押しをされ、奈津はとうとう
「……はい」
と答えてしまった。すると遥はすぐに両手首を外し、透の元へと歩いていく。
奈津はというと思わずその場にへたり込んでしまった。
「じゃあな」
そのまま二人は帰って行ってしまった。
それなのに奈津はいまだに体の熱が取れず、動けずにいる。そして見逃していたのだ。後姿の彼の耳が、とても赤かったことを。