一年前のあの日4
僕は浅い眠りにつきながらも、彰のことが頭から離れず、気がつくと時計の針は朝の5時を指していた。僕はこれ以上眠ることは出来ないなと思い、起きることに決める。ベッドから起き上がり、そのまま降りようと体を横に向ける。すると違和感を感じた。
隣の床の布団で寝ていたはずの遥が居ないのだ。
昨日は確かに隣で寝ていたはずなのに。僕はベッドから降りると家の中をぐるりと探した。
しかし遥はいない。
もしかしたら記憶が戻って家に戻ったのかもしれない。
そう思い、僕はお通夜とそのまま葬式にも参列できるようにと制服を着て(当時は高校生)遥の家に向かうことにした。昨日の今日だ。おじさん達も起きているだろうと思いながら。
遥の家の前に着くと、腕時計の針は5時30分を指していた。僕は朝が早いのと近所迷惑にならないよう、あまり響かないようそっとインターフォンを押した。そうしても意味がないのは分かってはいたがなんとなく。
しばらくするとおばさんの声がインターフォンから聞こえる。
『はい、どちら様でしょうか?』
「あっ、透です」
『ちょっと待ってね』
声が途切れるとドアの開く音が聞こえた。同時におばさんの姿も見えた。おばさんの目の下は、昨日何度も泣いたのであろう、何度も拭った跡が残っていた。
「朝早くにすみません」
「いいのよ。わざわざ来てくれてありがとうね」
「いえ」
「遥は……まだ記憶、戻っていないのかしら……?」
そう言いながらおばさんは僕が今来た道に目線を向けた。
「えっ、遥戻ってきていないんですか?」
「来ていないけれど……」
おばさんは困惑した顔をしていた。それはそうだ。僕だって困惑する。けれどこれ以上心配させてはいけないと思いなおし、僕は慌てて
「おかしいなぁ、どこかで道草してるのかな?僕、遥を探して来ますね。始まるまでには戻ってくるので」
となるべく明るい声を出して言った。すると、
「いつもごめんねぇ」
とすまなそうな声で謝ってくれた。
「そんな。じゃあまた来ますね」
そう言って後ろを向き、僕は歩きだす。
そして背中越しにドアが閉まるのを確認すると、どこにいるのか分からない遥を僕は全速力で走って探し始めた。