一年前のあの日3
しばらく経った頃、僕はようやくおさまり始めた涙を拭き、おじさん・おばさんの元へ戻ることにした。遥に「ここから動いちゃダメだよ」と忠告してから。本人はその注意の仕方に少しムッとしているようだったが、素直にその場に座り込んでいた。
「透君。遥は……?」
戻ると、おじさんにそう聞かれた。僕は視線を少し下に向けて先ほどの遥の状態を伝えた。
「そうか……遥も今の状況に混乱しているのかもしれないな……」
おじさんがそうつぶやくと、先ほど手術を担当した医者がこちらに歩いてきた。
「一枝さん、お話することがありますので、来ていただいてもよろしいでしょうか?」
その言葉を聞くと、「はい」と返事をし、立ち上がる。そして、
「少しここで待っていてね」
と言うと二人はそのまま医者の後に着いて行った。
話が終わる頃、時計の針は夜中の11時を過ぎようとしていた。
結局、遥は今日一晩僕の家に泊まることになった。医者に診てもらったところ、『一過性全健忘』の可能性が高いと診断された。一種の『記憶喪失』だ。詳しい診察は夜遅いためかされず、24時間以内に回復することが多いため、一旦様子を見ることになった。しかしこの状況のため、今日一晩だけおじさん達と遥、お互いのためにこちらに泊まることになった。
「えっ、俺そっちに泊まるの?」
遥は脳の理解がなかなか届かないのか、何度か同じ質問を繰り返していた。