一年前のあの日2
「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
雄叫びに似た悲痛な声が広がる。おばさんの声だ。隣に座っているおじさんも声を声を押し殺し泣いていた。僕は今の状況が信じられず、そのため涙も出なかった。その場をテレビ画面から見ているような、そんな感覚だ。
ふと、後ろにいたはずの遥がいないことに気がついた。廊下の奥へと視線を移動させると、遥が足元をふらつかせながら歩いている姿が見える。僕はその様子が気にになり、遥の後を追った。
遥の後を着いて行くと、屋上に着く。遥は真っ暗な空を、ただ静かに眺めていた。
「遥……」
僕が声をかけると、遥は一瞬肩を震わせた後こちらにゆっくりと顔を向ける。
「あれっ、透なんでこんなところにいるの?」
「えっ……」
言葉に詰まった。あまりにも今の状況には不釣り合いな遥の明るい声。なんと答えたら良いのか分からなかった。すると、
「まぁいいや。なんかさ、彰と遊んでたんだけど、あいつ居なくなっちゃってさぁ。迷子にでもなったのか?透知らない?」
と話を続ける。
「遥、何冗談……言ってるの?」
僕は様子の可笑しい遥に問いかけた。少し声が震えているのに自分で気づく。
「冗談?俺は大まじめだけど?」
遥はそう言うと、普段と変わらない声で笑い出した。下でどうしようもなく泣いている遥と彰のおじさん・おばさん。上で、今ここで起きたことが何もなかったような顔で笑う遥。この不思議な状況。
ようやく僕は理解した。
彰は『死んだ』んだ。
頭が理解したと同時に、僕の方に涙が頬につたいはじめた。
「透!?どうしたんだ!?」
遥は僕がいきなり泣き出したことに驚いている様子だ。しかし僕は、こんな遥が許せないのと、そんな遥を見てやっと『死』を理解した自分が腹正しく、
「……バ……カ……やろ………」
と声を洩らすのが精一杯であった。