一年前のあの日
「一年前のちょうどこの時期。あの日はとても暑い日だった。彰は突然車に轢かれたんだ。遥の目の前で。くわしい状況は僕にも分からない。けれど、あの日の夜会った遥は―――――
――― 一年前
「遥!!」
あの日、僕は混乱した遥から突然電話をもらい、夕方慌ててこの病院に向かった。
病院の入口が見え始めたと同時に、入口の隣にある柱の前で丸くうずくまって座っている遥が見える。
僕は目の前に着くと息を切らしながら聞いた。
「遥っ!彰は!?」
すると遥は小さく、震えた声で答えた。
「今…手術……して』
いつも元気で、頼りになる遥。そんな彼がこんなにも震えている。
そっと肩に手を置くと、その震えがより一層感じ取れた。
「…透…どうしよう……俺のせいだ。俺のせいで彰が!!」
「今はそんなこと言っちゃいけないよ!!彰…今頑張って生きようとしているんだから!!」
遥の気弱な発言に思わず怒ってしまう。
「…ごめん」
「…うん」
その会話を交わした後、僕たちは一言も言葉を交わさないまま病院の中へと入って行った。
彰が手術中だという扉の前に近づくと、ベンチに座っている遥のおじさん・おばさんがいた。
おばさんは顔を手で覆い隠して表情ははっきりとは分からない。しかし遥と同様、震えているのは分かった。そんなおばさんの傍で、おじさんはそっとおばさんに寄り添っていた。
「おじさん、おばさん……」
おじさんは僕たちに気づくと顔を上げ、無理やり微笑みを作った。
「透君も来てくれたんだね。…ありがとう」
しかし、そう言うとすぐにその微笑みも消え、また沈黙が広がった。
僕は手術の間、彰が死ぬはずがない。ケロッと笑いながら出てくるんだと自分に言い聞かせ続けた。
どれくらい経ったのだろう。とても、とても長く感じられた。
まだなのかと手術中の赤いランプを何十回目だろうかと思いながら見たとき、灯りが消えた。
思わず全員が立ち上がる。
息を呑んで待っていると、ゆっくりと主治医が出てきた。
「彰!・・彰は!?」
おばさん達はすぐさま主治医の元へ駆け寄り聞いた。一斉に注目を浴びる。
主治医は少し息をため込むと、その場にいる全員に聞こえる声で静かに答えた。
「残念ながら―――」
その日の夏の夜、一枝 彰は亡くなった。