公園への帰り道
「えっ、遥さん……?」
奈津は思わず声を漏らす。
すると、透は慌てて扉を閉めた。そして小声で、
「ダメじゃないか。遥にばれるでしょ」
と奈津を注意する。
「ご、ごめんなさい」
奈津はなぜばれてはいけなかったのか分からなかったが、とりあえず謝った。
透はすぐに笑顔に戻り、
「このままいつもの公園に戻ろうか」
そう言うとそのまま上ってきたばかりの階段を、あまり足音をたてないようにしながら降りていった。
奈津は色々と疑問を隠せないといった様子。だがこのままここに立ったままも意味がないと思い、透の後を追いかけた。足音は一応気にしながら。
二人はそのまま病院を出て公園に向かおうとした。
その途中、公園に着くまでに並木道がある。二人はゆっくりと会話もなく歩いていた。
今は7月。大分暑さが増してきた頃だが、左右にある青々とした木々が風に揺れ、通り行く人達を優しく癒していく。ほかとは違う空間にいるようであった。
三分の一ほど進んだ頃、透は突然歩くのを止め、前を向いたまま奈津に話しかけた。
「なっちゃん。今って近くに彰いるのかな?」
透の少し後ろを歩いていた奈津は、突然足を止めたことに少し驚きながらも質問に答える。
「いえ、病院には着いて行かないって言っていたので今は居ませんけれど……」
「そっか」
そう言うと、透はゆっくりと体ごと奈津の方に向き直る。そしてどこか苦しそうな笑みを浮かべ、こう言った。
「あのね、遥は彰のことを、ちゃんと覚えてるんだよ」
「えっ…」
意外な言葉に言葉を詰まらせる。
二人の間に、ピンッと張りつめた空気が流れた。
「彰が知る前に、聞いてくれるかな?」
そう言うと、奈津は緊張した面持ちで、しかし透をしっかりと見つめたままうなずいた。
透はそれを確認すると、そのまま視線をはずし静かに話し始めた。