病院
次の日、奈津は病院の前に立っていた。
「き、来てしまったけれど……」
不安な顔をしながら病院を見上げる。
その視線をゆっくりと下におろしていくと、病院の中から透が出てくるのが見えた。
透は奈津と目が合うと、いつもの優しい顔で微笑む。
奈津はその笑顔に思わず胸がときめく。まぁいつものことだが。
「暑い中来てくれてありがとう」
「い、いえ、全然」
な、なんか傍から私たち、恋人同士に見えるかも!?
この二言会話を交わしただけで奈津の妄想が広がろうとしていた。
が、それはあっさり終わりを告げる。
「じゃあ病院の中に入ろうか」
そうだったぁぁぁぁ!私今から病院で検査受けるんだったぁぁぁぁぁ!!
奈津は現実に意識が戻る。先ほどとは違う心臓の音が体全体に鳴り響く。
それを感じながらも、一歩一歩透の後を着いていく。
逃げちゃダメだ。ちゃんと着いて行かないと。
このまま着いて行かず、逃げることも出来ただろう。
透は奈津の言葉を信じず、精神科で見てもらおうとしているのかもしれない。
確かに現実離れした話だ。
しかし、奈津は信じたかった。
話を真剣に聞いてくれたあの顔を。
『信じるよ』と言ってくれたあの言葉を。
「こっちだよ」
ときどき奈津がちゃんと着いてきているか振り向きながら、透は歩いて行く。
上へ上へと。
……んっ?上?
緊張していた頭の中に疑問が生じる。
「あの、透さん。どうして上へ?検診の受付なら一階なのに……」
おかしい。素直に質問すると、
「シーッ」
透は人差し指を口元に当て小声で答える。
「ここからは静かにね。」
その答えと共に、透は一つの扉を開けた。
上へ上へと上った先は屋上。
真っ青な快晴。その眩しい光の中に目を凝らす。
その光の先にいたのは遥だった。