忘れてた
「えっと……」
奈津は忘れていた。
「さぁ、今度は逃げ出さずに頑張るよ」
「おぅ」
「奈津…ちゃん?」
透の存在を。
「…おーい!」
「えっ?」
やっと声に気づき、思わず振り向くと、苦笑した透が立っていた。
「あ…」
「もしかして、忘れられてた?」
「えっ!?いや、その、えっと……」
「……」
「ごっごめんなさい!」
奈津は言い訳も思いつかず、素直に謝ることにした。
すると透は一つ息を吐くと、
「いいよ。大事なことだったんでしょ?」
「…はい。私にとってはとても」
「うん。じゃあ許すよ」
と答え、いつものキラキラの笑顔を返してくれた。
「あ、ありがとうございます」
わわわ!3日ぶりに見る透さんの笑顔、眩しすぎるよぉぉぉ!
奈津は思わず眩しさと幸せさで目を細める。
しかし、そんな思いも束の間。奈津にふとある考えが浮かぶ。
んっ?
ちょっと待って。透さんはずっとここに居たんだよね。私と彰の会話を聞いていた。・・ずっと?しかも彰は幽霊・・・・・・・・・・・・・ってことは、
「透さん…さっきまでの私の会話…」
「うん。もちろんぜんぶ聞いてたよ」
「私の…声……だけ?」
「うん。迫真の演技」
やっぱりぃぃぃぃぃぃ!!!!!?????私、絶対変な子だって思われちゃったよねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????………………ショックだ………………。
思わずうなだれる。
しかし、その様子を真っ直ぐみたまま透は言葉を続ける。
「でも、違うんだよね?」
「…えっ?」
「誰かここにもう一人いるんでしょ?僕には見えないけれど」
「…どうして」
優しい笑顔を浮かべて透は答える。
「だって、奈津ちゃんは演技や嘘がつけないでしょ?この間、初めてたくさん話したとき思ってた。それにさっき謝ってくれたことで確信に変わったしね」
うれしい。こんな風に私を見ていてくれていたなんて。
素直にそう思った。
奈津は胸が暖かくなるのを感じ、彰の方を向き小声で言った。
「ねぇ、彰」
『何?』
「…透さんになら、彰のこと、言っても良いかな…?」
『あぁ。透兄ちゃんなら、許してやる』
「なに、その上から目線」
思わずクスリと笑う。
「ありがとう」
奈津は彰にお礼を言うと、透に向き直り、
「…透さん。聞いてほしいことがあるんです」
「?」
「……良い、ですか?」
「うん、もちろん」
ゆっくりと自分と彰の出会いのことを話し始めた。