04.福引き
「これ、いつまで続くんだ?」
エヴァンに買ってもらったクレープを頬張りながら、既に尾行に飽きたノアがぼやいた。
「そろそろ終わるんじゃない? ――あ、ほら。別れたよ」
マルクと笑顔で別れたルルは、彼の背中が完全に見えなくなった瞬間、近くのベンチへ崩れ落ちた。
ヒールを脱ぎ捨て、血が滲んだ踵に小さく顔を顰める。そして手を当て、治癒魔法を唱えた。
「はぁ……」
思わず漏れるため息。
マルクはおそらく、ルルが慣れない靴を履いていることに気付いていた。だから移動は最小限だったし、小まめに休憩も入れてくれた。エスコートはとてもスマートで、このデートに点数を付けるとしたら百点である。
しかし――
「あれー? ルル、こんな所で会うなんて奇遇だね」
わざとらしい声と共に、エヴァンが偶然を装ってルルの前に現れた。
「エヴァン……ノアも。何してんの?」
「お前を尾こ――ぶふぉっ」
「デートだよ。たまには男2人でクレープでも食べようかと思って」
正直に話そうとしたノアの口にクレープを突っ込み黙らせるエヴァン。
「どういう思考回路でそうなるのよ……って言うか、私も誘いなさいよね!」
そう言って笑うルル。その瞬間、ふっと全身から力が抜けたような気がした。
「私もデートしてたんだけどさぁ……なんか、面白くなかったのよね」
ツッコミ所満載の舞台を観ても、気を遣った感想しか言えなかった。
カフェで猫の形をしたケーキが出てきたが『可愛いくて食べられなぁい』と、本当は思ってもいない自分らしく無いリアクションをした。
可愛い雑貨も良いが、2軒隣のめちゃくちゃ怪しい黒魔術専門店を覗いてみたかった。
「普通過ぎて、つまんなかった……」
「お前たち、同じ事を言うんだな」
口の周りの生クリームを拭き取りながら、ノアが言う。
「お前たちって?」
「高校3年の頃だったか……エヴァンが女を取っ替え引っ替えしていた時期があっただろ」
「ノア。その話は……」
「そんなクソ男みたいな時期、あったっけ? 私、知らないんだけど」
エヴァンは気まずそうに視線を宙に彷徨わせる。
ルルは理解に苦しむのだが、頭が良くてそこそこ顔立ちの整っているエヴァンは、昔からモテていた。だからと言って彼が女の子と一緒にいるところは、見たことが無いのだが。
「結局2ヶ月で5人の女を泣かせた挙句、言ったセリフが『つまらなかった』だった」
「……」
「ルルの長所はツッコミなんだから、無言だけはやめてくれる?」
ドン引きした顔でエヴァンを睨んでいたルルだったが、ふっと笑みを浮かべた。
今ならその時のエヴァンの気持ちが分かる気がする。
「さっき王女様誘拐事件の舞台を観たんだけど、脚色が更にパワーアップしてたわよ」
「僕たちも観たよ。ララ役の女優さん、すごくスタイルが良かったよね。あれは過剰演出だね」
「そこだけは脚色じゃなくて事実よ!」
「勇者ノブの武器が、何故虫取り網なのか意味がわからなかったけどな」
「それ、あんたが言う?」
マルクとは話せなかった素直な感想だ。
くだらないやり取り。
遠慮のいらないツッコミ。
この、空気感。
「――あ、そうだ。クレープを買った時に福引券を貰ったんだけど、せっかくだから引いて行こうよ」
ポケットから福引券を取り出し、目の前の福引会場へと足を向けるエヴァン。
「一等はスピナ国へのリゾート旅行だって」
「あの馬鹿王子の顔がちらつくから、当たってもあんまり嬉しくないわね」
賞品を眺めながら、エヴァンは福引券をノアに渡した。
「引いていいよ」
「よし。部屋のトイレットペーパーがそろそろ無くなるから、四等を狙おう」
気合いを入れて、ノアはガラポン抽選機のハンドルを握る。
そしてゆっくりと回し――夕日に染まる商店街に、ガランガランとベルの音が鳴り響いた。




