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番外編・ルル②

 それにしても――


「あ、あのさ! 今日はみんな、慰めてくれてありがとうね! 私、馬車の時間もあるから、そろそろ帰るね!」


 私は早口で捲し立て、鞄を抱えて歩き出す。

 彼女たちを振り返る気にはなれなかった。フラれたばかりで悲しいはずなのに、先輩のことも何だかどうでも良くなっていた。


 足早に馬車乗り場へと向かう。

 私が住んでいるリュネの村は小さくて人口も少ないから、小学生の頃から近くの街まで馬車で通学しているのだ。


「面倒臭いなぁ……」


 乗り場のベンチに座ると、思わず口から本音が漏れた。


 ノアのことよく知りもしないくせに、あそこまで悪く言う必要ある? しかも一応友達である私の前で。

 馬車の到着を待ちながら悶々としていると、横手から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「顔、めっちゃ怖いよ? 普通、失恋したら泣くものじゃない?」


 顔など見なくてもわかる。エヴァンだ。

 彼は、失恋直後の相手に見せるものとは思えないほど、晴れやかな笑顔で私の隣に腰掛ける。


「うざっ。怖っ。なんでもう知ってんのよ」

「学校なんて小さなコミュニティじゃ、噂なんてすぐに回るんだよ」


 最悪……明日から春休みで、本当に良かった。


「それで、何を怒ってるの?」

「別に怒ってないわよ。ちょっと疲れただけ」

「ふぅん?」


 エヴァンは不思議そうに首を傾げただけで、それ以上は訊いてこなかった。代わりに、鞄の中からやけにグロテスクな色合いのロリポップを取り出す。


「これ、あげる」

「コレ……魔甘堂のキャンディ?」


 魔甘堂とは、この街にあるお菓子屋さんである。ちょっと癖のあるデザインや、不思議なフレーバーのチョコやキャンディが売りのお店だ。


「限定『トロピカル・スパイシー・ミステリー味』だって。僕はこういうの苦手だから、ルルにあげる」

「何そのフレーバー! めちゃくちゃ怪し過ぎる!」


 だが、こういう怪しい商品は嫌いでは無い。

 赤と緑と紫と黒が入り混じった絶妙に汚い色のそのロリポップを受け取ると、包装紙を外して口に放り込んだ。


「……僕があげておいて何だけど、よくそんなもの食べられるよね」

「ちゃんとしたお店で売ってるものなんだから、食べられるわよ。……うわ、ホントにトロピカルでスパイシーでよくわかんない味だわ」


 美味しいか美味しくないかと問われたら、美味しくはない。けれどこの微妙な味につい笑ってしまうのが、魔甘堂の商品の良いところなのである。


「このロリポップ、どうしたの? まさかエヴァンが買ったの?」

「……」


 何故かエヴァンは、笑顔のまま動きを止めた。しばし後、口を開く。


「……父さんに貰ったんだよ。患者さんから受け取ったんだってさ」

「へぇ。エヴァンのパパ、お医者さんだもんね」


 それにしても、治療のお礼に魔甘堂のお菓子を選ぶとは、おかしな患者もいるものだ。

 そんな話をしているうちに、リュネ行きの馬車が到着した。乗客は、私とエヴァンの二人だけである。


「そう言えば、ノアは一緒じゃないの?」

「告白を覗い――あ、いや、ちょっと前までは一緒に居たんだけど、先に帰ったよ」


 こいつ今、告白を覗いてたって言いかけた?

 追及しようかとも思ったが、もうあの告白については触れたくなかったのでスルーしてあげる。


 ガタゴトと車体を揺らして進み始めた窓の外を眺めながら、私の脳裏にさっきのクラスメイトたちの言葉が蘇ってきた。


「……ねぇ。エヴァンってさ――」

「うん?」


 エヴァンは馬車の移動中に読む本を開きながら、返事をする。


「なんでノアと友達なの?」

「面白いからだけど」


 迷いのない即答。

 そうだった。こいつは面白ければ何でもいい男だった。


「……先輩にフラれた理由、気にしてるの?」

「あんた、やっぱり覗いてたのね」

「ルルが離れたいのなら、別に引き止めないけど」


 睨みつけた私を躱すように、エヴァンは視線を本へと落とす。

 私は口の中でロリポップを転がしながら、ゆっくりと流れる景色を眺めた。


「……この山だっけ。小学校の遠足で登った山」


 街道の脇に登山道の入り口が見えて、私はぽつりと呟いた。

 エヴァンは少しだけ視線を動かし、それから小さく笑う。


「ルルが行方不明になって、大騒ぎになったんだよね」

「あの時は本当に、死ぬかと思ったわ……」


 お腹も空いて、心細くて、怖くて怖くて堪らない時に現れたのが――ノアだった。

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