03.デート
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2日後。
大学は休講で、ルルは珍しく気合を入れた装いで、街角にひとり立っていた。
(この間は危うくスキーの話で流されるところだったけど……忘れてないんだから!)
そう。
ルルは彼氏が欲しいのである。
ルルに声を掛けてくる男性がほとんどいない理由は、その大半がノアの存在だ。
類は友を呼ぶ――ノアの隣にいる時点で、きっとルルにも何かあるのだろうと敬遠される。つまり自分も、奇人変人扱いをされてきたのだ。
(今日こそ払拭してみせるわ……!)
その時。
「ごめん、ルルちゃん。待たせたかな?」
爽やかに片手を挙げて現れたのは、同じ回復魔法学科の同期。明るい茶髪に穏やかな笑顔の男だ。
「マルク。私も今来たところよ」
嘘である。1時間前には到着していた。
マルクとは授業で同じ班になることが多い。
真面目で、優しくて、何よりもルルに好意的だった。
「なんか……嬉しいな。ルルちゃんからデートに誘ってもらえるなんて」
少し照れたように笑うマルク。
ルルはニコリと笑うと、彼の隣に並んで歩き出した。
――その後方。
「なぜコソコソする必要があるんだ?」
「楽しいからに決まってるじゃないか」
建物の陰に身を潜め、ノアとエヴァンはルルのデート現場を盗み見していた。
「ルルが男とデートしてるんだよ? こんな面白そうなこと、この目で見ないわけにはいかないよ」
「俺はルルのデートより、コオロギの求愛行動を観察している方が楽しい。知っているか? 鳴き声の大きさやリズムが――」
「あっ! 移動するよ! 僕たちも行こう!」
虫の蘊蓄を聞いてくれるのは、レティシアだけである。
ノアは露骨につまらなそうな顔で、エヴァンの後について行く。
「……あいつ、歩きにくそうな靴を履いているな。なんでだ?」
前方を歩くルルの足元を見て、ノアは首を傾げた。
細いヒールのある靴など、普段のルルなら絶対に選ばない。案の定、歩き方はぎこちなく、時折小さく体勢を崩している。
「お洒落しているんだよ。ノアは本当に、女心がわかってないなぁ」
「俺は男だ。女の気持ちなんかわからない」
ノアの場合、男の気持ちも分かっているのか怪しいけれど――そう思って、エヴァンはこの際だから訊いてみようと思った。
「ノアはさぁ、ティア様のことどう思ってるの?」
「どう、とは?」
ノアは眉間に皺を寄せた。
「出会った当初は『壁』だったよね? それから『チャッピー2号』になって、今は?」
短い沈黙。
「……『枕』だな」
「枕?」
「枕」
念のため聞き返してみたが、やはり『枕』だった。
エヴァンはなんとも言えない表情で、遠くを眺める。
「やっぱり訊かなきゃ良かった……」
レティシアが不憫すぎる。
「そう言えばノアの口から、彼女が欲しいとか聞いたことないよね」
「思ったことが無いからな」
「一度も?」
「無い」
そもそもこの男に色恋沙汰を期待する方が間違っているのだ。
「えっと……遊びに誘ってみたものの、特にプランとか考えてないのよね。どこか行きたい所、ある?」
痛む足を悟られないように笑顔を作り、ルルはマルクを見上げた。
「じゃあ、劇場はどう? 少し前に話題になった、攫われた王女を奪還した勇者を題材にしたお芝居があるらしいよ」
「へ……へぇ。いいね」
その勇者は自分たちのことなのだとは言えず、ルルは愛想笑いで頷いた。
(勇者ノブと魔法使いエデン、それに聖女ララ……)
劇場の入り口で配られたパンフレットをめくりながら、ルルは思わず吹き出した。絶妙にひどいネーミングだ。
地獄から甦った大魔族四天王のひとり、暴虐の魔王によって攫われた美しきレティシア王女。
勇者一行は炎の大地を踏破し、流氷の海を渡り、雷鳴轟く天空城へと到達する――
(大魔族四天王って何? それに魔王はただの雇われたおっさんだったし、私たちはクワガタを探していただけなんだけど)
全力でツッコミたいけれど、これはお芝居だからと言葉を飲み込むルル。
手に汗握るアクションと刺激的な魔法効果。そして物語は、感動のフィナーレで幕を閉じた。
「結構面白かったね。これ、ノンフィクションらしいけど本当かなぁ?」
「あはは……ど、どうかなぁ?」
99%フィクションだが、楽しそうに語るマルクの事を思うと訂正する気にはなれなかった。
その後はオシャレなカフェで話題のスイーツを食べ、可愛い雑貨が並んだ露店を眺めるという、教科書通りの王道デートコースだ。




