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23.お友達

「だ、だから……っ! これは舞台じゃなくて現実なんだよ! 本物の魔物と戦ったこともないのに、魔族となんて無茶だ……!」

「言っただろう、エデン。『自信があれば何でもできる』だ! レティシアだって、俺のこの言葉を胸に刻み魔法を成功させたじゃないか」


 悲痛なエデンの叫びを快活に笑い飛ばし、レティシアに微笑みかけるノブ。

 彼女もまた、柔らかな笑みを返した。


「はい。自信というものが、いかに大切かを学びましたわ」

「よし、そうと決まれば出発の準備だ!」


 気を良くしたノブは、背を向けて自室へと戻っていく。エデンは絶望に顔を歪めながら、慌ててその後を追って行った。


「……行っちゃったわよ、あなたのところのリーダー」

「ふふっ。本当におバカさんよねぇ」

「止めなくていいの? 死ぬわよ?」


 冷めた声を出すルルをよそに、ララはエヴァンの腕に絡みついたまま、楽しげに喉を鳴らす。


「止めて聞く人だと思う? それより……」


 視線を動かし、その先を促すララ。


「あなたこそ、止めなくていいの?」


 彼女の視線の先では、ノアが無言で浴衣を脱ぎ捨て、準備を整えていた。


「ノア。一応尋ねるけど、どこに行くの?」


 エヴァンの問いに、ノアはボタンを留める指を止めず、気怠げな声で応える。


「……魔族をぶち殺しに行く」


 その声には静かに、そして明らかな怒気を含んでいた。


「そもそも、君の魔法に殺傷能力はないけどね」

「俺が眠らせる。お前がトドメを刺せ」

「僕も行くの? ヤだなぁ……魔族と戦うなんて、ただの学生がすることじゃないよ」

「なら、ここに残れ」


 淡々と準備を進めるノア。

 エヴァンは軽く息を吐くと、そっとララの腕を解いた。


「無事に帰ってきたら、たっぷり労ってくださいね」

「もちろん。特大サービスしちゃう」


 ララの投げキッスを背に受け、エヴァンもまた着替えを始める。


「ルルはここに残って。もしかしたら魔物が襲って来るかもしれないから、その時は頼んだよ」

「わかったわ」

「では私も、準備をいたしますね」


 頷くルルの隣で、レティシアが立ち上がる。


「魔族を見た場所への道案内を――」

「ダメに決まってるでしょ!」

「ダメだよ」


 声を揃えるルルとエヴァン。2人の即答があまりに鋭く、レティシアは思わず言葉を失う。


「え、えっと……?」

「あらぁ? どうしてこの子はダメなの? 魔族の居場所がわかるのは、この子だけでしょ?」


 首を傾げるララ。


「そうだけど……ティア様を危険に晒すわけにはいかないのよ」

「ノア君やエヴァン君はいいのに? 女の子だからダメってこと? それとも相当使えない子なのかしら」


 レティシアの素性を知らないララにとっては、純粋な疑問である。


「使える、使えないとかじゃなくて……安全な場所に居てくれた方が、僕たちも安心できるんですよ」

「ふぅん? なんだか『お友達』って言うより、『姫と従者』みたいね」


 ララのその悪気のない一言が、レティシアの胸に小さなトゲとなって刺さった。

 彼らを『友達』だと思っていたのは、自分だけだったのだろうか――


「私は……ここでお帰りをお待ちしていた方が、良いみたいですね……」


 俯き、声を絞り出す。

 だが。


「何を言っている。早く用意をして、案内しろ」

「え……?」


 レティシアが顔を上げると、ノアが真っ直ぐに彼女を見ていた。


「俺は魔族を探して雪の中を彷徨い歩きたくはない。道案内は必要だ」

「あのねぇ! ただの道案内じゃなくて、凶悪な魔族のところに向かうのよ? そんな危険なことを、ティア様にさせるわけにはいかないでしょ! 現にさっきだって怪我をさせちゃって……」


 ルルが声を荒げたが、ノアは淡々と続ける。


「俺はルルが魔族の居場所を知っていたならルルに道案内をさせるし、それがエヴァンでも同じだ。危険だからと、俺を差し置いて安全な所に避難させたりしない」

「……う……うん……? なんか、さりげなく最低なこと言ってない?」


 堂々としたノアの主張に、ルルは眉を顰めた。


「レティシアも同様だ。それにこいつは、意外と強い。こいつがいなければ、俺たちは昨日の吹雪の中で死んでいたかもしれないからな」

「ノア様……」

「あ、そうだ。チャッピー2号に変身して先頭を歩けば、あの巨体が除雪機として役に立つかもしれない」

「それは名案ですわね、ノア様!」

「いやいやいや! それは流石に人としてどうかと思うわよ!?」


 レティシアは胸の前で両手を握り締める。


「護衛を外した時に、私に何かあれば全て自己責任であることはお父様たちにはお伝えしています。ですから、どうか……」


 熱を帯びた目を、エヴァンとルルに向ける。


「どうか、私を守ろうとしないでください。私は……ルル様とエヴァン様と『お友達』になりたいのです!」

「ティア様……」


 ルルは顔を顰め、前髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。


「ごめん! 私はティア様のこと、友達だと思ってるよ! でも……そうだね。過剰に守ろうとし過ぎてたよね……」

「危険だと判断したら、必ず逃げると約束して欲しい。僕は、僕の無力で友達を失いたくないんだ」

「はい!」


 エヴァンの言葉に、レティシアは大きく頷く。

 その横を通り過ぎながら、ノアは彼女の頭に手を置いた。


「用意が出来たらロビーへ来い。お前を傷つけた魔族に土下座をさせてやる」

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