表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/42

11.ヴェルデラ渓谷へ

⭐︎


 《雪山で遭難するまで、あと少し》


 ――翌朝。

 朝一番の馬車に乗り、ノアたちはいよいよヴェルデラ温泉へと向かった。

 旅館で一泊した後は一旦村へ戻り、さらに一晩滞在してからアストリアムに帰る予定である。

 明後日にはまた顔を合わせるというのに、見送りにきたリリアナは号泣していた。


「私、ノアパパがいない状況って初めて見たんだけど……なかなかのカオスよね」


 揺れる車内で、ルルがしみじみと呟く。


「確かに。リリアナさんとノアとティア様の構図って、ツッコミがいないよね」

「なんならノアがちょっとまともに見えちゃうもの」


 顔を見合わせ、笑い合うエヴァンとルル。

 ひとしきり笑った後、なんとも言えない沈黙が車内に落ちた。


「……なんか、空気が重たいね」

「ティア様。ノアと喧嘩でもした?」


 俯いていたレティシアが、はっと顔を上げる。


「喧嘩だなんて、滅相もございません……! ただ……」


 そっと視線を横に向ける。

 隣のノアは、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。


「昨夜はノア様がお休みになられていないので……」


 まるでそれが自分の責任であるかのように、声が小さくなる。


「え? ノア、なんで寝てないの?」

「ルルが膝枕禁止したからじゃない?」

「あ……」


 エヴァンの指摘に、ルルは昨日の馬車でのやりとりを思い出した。


「……あんた、まだ何が悪いのかわかってないの?」


 あれだけわかりやすく好意を向けてくれる相手を『枕』呼ばわりしている。それが良くないだけなのに、とルルは呆れる。

 

(……そっか。そもそもこの鈍感男は、ティア様が自分のことが好きだってことにも、気がついていないのかも)


 ノアは気怠げな表情でルルを振り返った。


「俺に人の気持ちが理解できると思うのか?」

「胸を張って言えることじゃないのよ」


 半眼で睨みつけながらも、ルルは内心で少し驚く。

 少なくともノアは、レティシアの気持ちを理解しようとはしているようだ。


「じゃあノアは、理解できるまで寝ないつもり?」


 エヴァンの問いに、ノアは渋々頷く。


「……一生理解できる気がしないけどな」

「い、いけません!」


 慌ててレティシアが血相を変え、身を乗り出した。


「私のことでノア様が頭を悩ませる必要などございません! ノア様は、ノア様がお好きなように振る舞ってくださいませ!」


 懇願するように、ノアを見つめる。

 ノアはその視線を、さっと振り解いた。


「……だからお前は、いつまで経っても魔法が上達しないんだ」

「それは、どういう意味なのでしょうか……?」


 しかしノアは口を閉ざし、再び顔を窓の外へ向けてしまった。

 戸惑いながらレティシアは、ルルとエヴァンを振り返る。


「昨夜も寝てないなら、今日で不眠2日目だよね。だから機嫌悪いんじゃない?」


 肩をすくめるエヴァン。


「せっかく温泉に癒されに来たのに、ノアの癇癪に付き合わなきゃいけないの……?」

「言い出しっぺはルルなんだから、付き合ってあげなきゃね」


 心底面倒臭そうなルルと、どこか楽しそうなエヴァン。


(だから私は……魔法が上達しない……?)


 レティシアは膝の上で固く手を握り、視線を床へと落とした。


 ――馬車は幾度か休憩を挟み、昼過ぎにはヴェルデラ渓谷の入り口へ到着した。


「ここからは渓谷を散策しながら旅館に向かうみたい。2時間くらいで到着するそうよ」


 折り返す馬車を見送り、パンフレットを片手に持ったルルが遊歩道の入り口を指差す。

 豊かな自然に囲まれた、水の流れる音が涼しい渓谷である。


「ムラサキツバメだ」


 早速ノアは純金製の虫取り網を取り出し、草木の間を舞う蝶を追いかけ始めた。


「それにしても……今日はちょっと冷えるね」


 エヴァンが両腕をさする。


「そうね。もう少し着込めば良かったかも」


 渓谷なので昨日よりも1枚多く羽織ってきたが、それでも風がやけに冷たい。


「ヴェルデラ渓谷は冬でも積雪のほとんどない、比較的暖かい地域のはずなのですが……」


 冷える指先を擦り合わせるレティシア。


「ちょっと、ノアー! あんまり奥に行かないでよ! 迷子になっても知らないからね!」


 遊歩道を外れていくノアに、ルルが声を張り上げる。

 ノアは小さく舌打ちし、足を止めた。


 その時。


「……?」


 樹皮に張りつくカメムシに目が留まる。

 さらに周囲を注意深く見渡し、最後に空を見上げて首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ