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狩人たちの新世界  作者: 竹岡匡司
第一章 旅立ち
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2. 久々の会話

 アルシェは今、一角馬に乗って村へと向かっている。

 ただし、いつものように一人ではない。

真っ黒い珍妙な服を着ているこの、ユーゴとかいう男も一緒だ。僕の後ろで、一角馬に乗っている。

 ユーゴはその見た目だけでなく、中身もおかしな野郎だった。


「おかしい」というのは、イカれてるとかそういうのではなくて、まあイカれてる可能性も否定できないが、とにかく奇妙な点が多い。

 

 まず第一に、何がどうなったらあの池から人が飛び出してくるのか。


「いやー、俺もてんで分からなくてさ。気づいたら空にいて、池に落ちて、溺れそうになってたところをこのユニコーン君に助けてもらったんだよね」

 

 ユーゴ自身、その身に何が起こったのか、まるで分かっていない。


 ただ驚くことに、ユーゴの体にはなんの問題も無さそうだった。

 怪我はもちろんのこと、あれほどの異質な魔力に晒されてなお、明らかな後遺症も無かった。

 魔力に耐性を持たない人間であれば、あれだけでおそらく中毒になる。下手をすれば即死だ。


 だがユーゴはピンピンしている。僕の後ろで、やかましいほどにワクワクしながら。

 というか、ユーゴの内側から感じる得体の知れない感覚こそが、あの魔力に近いのだ。


「あのさ、自分の体の中に、何か異質な感覚はある?なんていうか血液とは違う、別の流れのようなもの」


「うーん、分からん」


 魔力を認識できるわけではないのか。

だがそれだと、どうにもおかしなことがある。

 二つ目の奇妙な点、そう、ユーゴは霊獣の存在を知覚出来ている。


(なんで一角馬が視えてるわけ?)


 この男、どういうわけか霊獣である一角馬をその眼で認識しているのだ。

 霊獣という、ある種魔力の塊である彼らを知覚できるのは、同じく魔力を持つ者だけのはずなのに。


 アルシェが目覚めて、名前を教え合ったあの後、

とりあえず自分の住む村に帰る旨をユーゴに伝えたのだが、そこでアルシェは悩んだ。

 この狩場から村へは、そこそこの距離がある。

歩いて帰ることもできるが、それだと村へ着くのが遅くなる。

 

 アルシェは出来ることなら、日が落ちる前に村へ帰り、村の衆へユーゴの存在を明かしておきたかった。

 無論、彼らがこの男を受け入れるとは限らなかったが、存在を隠して後で見つかった時の方がより面倒だと思ったからだ。


 とは言いつつも、霊獣を見れない人間は彼らに触れることさえ出来ないし、荷台はすでに肉や皮で一杯だし。

 はてどうするか、とぐるぐる考えていたところ


「こいつに乗って村に帰るんだろう?まさか本物のユニコーンに出会えるとはなあ、さすがは異世界ってところだな」


 と、この男は一角馬の存在をさも当然のように言ったのである。


 まずユニコーンとはなんだ、とツッコミたいところだが、それ以上に「視える」ことが、あまりに衝撃的だった。


 本人は魔力のことなど何も理解できていないが、ユーゴにはその素質があるのかもしれない。

 アルシェも確信を得ているわけでは無かったが、霊獣を知覚出来る以上ユーゴの体内には魔力が巡っているはずだ。

 いずれは魔術も行使できるようになるかもしれない。場合によっては村に預けるのではなく、自分と一緒にいる方が良いかもな、と考えていると


「なあアルシェ、このユニコーン君はさ、なんて名前なんだ?」


 そう後ろから問いかけられた。


「名前?一角馬だけど。ていうか、さっきから言ってるユニコーンってなんなの?」


「ユニコーンってのは、こいつみたいに白馬に一本の角が生えてるやつだよ。ちなみに、翼がついてるやつはペガサスな」


「翼が生えてる、か。大翼馬(アルラス)のことかな」


 霊獣には数多くの種類がいるとされている。

 この国、レイス帝国にも、かつては小規模ながら霊獣を扱えるような魔力を備える者たちがいた。


 彼らのほとんどが、その得体の知れない力故に当時の皇帝に迫害を受けこの国から去ったわけだが、ごく少数は国に残留した。


 アルシェの母もその一人である。霊獣を呼び出す術をアルシェに教えたのは彼の母だった。

 その母から聞いた話によると多くの先人たちが目にしてきた霊獣はそれでもごく僅かなもので、その実態は計り知れないものらしい。


 アルシェ自身も、この一角馬しか呼び出したことはない。霊獣の魂との共鳴は、そう容易なことではない。

 魔力の性質による相性が悪い為に、魂に拒絶されることも少なくない。それによって命を失ったものさえ、過去にはいたようだ。


「まあ、いつか会えるかもね。大翼馬、ユーゴのいうところの、ペガサスってやつ?」


「見てみたいなあ、アルシェもそう思うだろ?」


 そう聞かれると、そんな気もして来た。

 現世であって、現世に在らざる魂たち。他には、どんな姿をしているのだろう。


「ていうかさ、さっきの質問!名前、教えてくれよ」


「? いやだから、一角馬だって」


「それは識別名ってやつだろう?そうじゃなくて、この子だけの名前だよ」


 言われて気づいた。確かに一角馬というのはアルシェが付けた呼び名ではなく、彼らに対するただの判別名だ。

 この一角馬との付き合いは決して短いとは言えなかったが、家族でもなければ家畜でもないのでわざわざ名前をつける必要性を感じていなかった。


「まあ、別になくても良くない?一角馬って響きも結構良いと思ってるんだけど」


「それじゃあダメだ。この子もいい加減、名前で呼んでほしいって文句言ってるんだから」


 文句を()()()()()


「文句ってなんのことだよ。言ってるのは一角馬じゃなくて、君だろう」


「いやいや、さっきからこいつずっと話してるじゃんか。口下手ではあるけどな」


 笑いながらそう言って一角馬の体を撫でている。


「そんなに撫でられるの好きなのか?じゃあもっと撫でてやろう」


 嬉しそうに一角馬の体が揺れる。笑っているみたいに鼻を鳴らしながら。


 さっきの会話でも気になることがあった。

 霊獣の実態を知る人間は少ない。基本的には歴史書や文献、もしくはそれを知る人物に話を聞くしかない。


 まず人物の方は難しいだろう。この国において魔力を有する者は著しく少ない。

 そして書や文献を以てしても彼らについて分かることは、せいぜい過去に存在していたかもしれないという仮説だ。


 細かな特徴や魔力に関する事柄はもちろん、種類や名称などただの人間に知る由はない。


 だがユーゴはそれを知っていた。少なくとも一角馬というのが個体名でないということを。

 僕の相棒が名前を欲しがっていると、文句を言っていることも。


 まさかこの男………


「ユーゴってさ、もしかして一角馬と話せるの?」


「会話って言えるのか分からないけど、なんとなく伝わってくるんだよね。こう、念、みたいな?」


 信じられない。霊獣の知覚だけでなく、その霊獣と念話できるというのか。


「えーと、君のそれは、おそらく念話だ。僕も人伝にしか聞いたことなかったけど、でもまさか霊獣相手にできる人間がいるとはね」


 驚きを通り越して笑えてくる。

 アルシェだって霊獣とコミュニケーションを取ることはできる。


 しかしそれは緻密なものではない。

 高い知性故にこちらの言葉は理解出来るようだが、反対にアルシェは彼らの思考を正確に読み取ることは出来ない。

 その証拠として、アルシェには突然走り出した時のこの一角馬の考えは全く分からなかった。


 やはりユーゴには特別な何かを感じる。

 ただの人間ではない、特別な存在。


「まずその見た目、そしてユニコーンとかペガサスとかの聞いたことない言葉に加えて、魔力、霊獣の知覚、つまり一角馬が視えるってことだけど、ありとあらゆる点でユーゴ、君は異質だ。少なくともこの国の人間ではないと思ってる。もう少しで村に着くけど、まずは君のことを村人たちに紹介させてもらう。その後はとりあえず僕のところについて来て欲しい。強要はしないけど、出来れば君のことを教えて欲しい」


 ユーゴの正体は不明だ。悪い奴ではないと分かっているけれど、手放しで信用はしきれない。


「うん、俺も色々話したり聞きたいって思うよ。この世界について、とかね。それが終わったら、二人でこいつの名前決めてやろうぜ」


 ヒヒンっと一角馬が鼻を鳴らす。

 するとユーゴは


「早く決めてくれないといじけちゃうってさ」


 と楽しそうに笑いながら一角馬の言葉を伝えてくれた。


「何がいじけちゃう、だ」


 僕も思わず笑ってしまった。

言いながら自分が良い気分になっていることに気がついた。

 こんな風に他人と話して笑い合う時間を過ごすのは、いつぶりだろう。遠い昔のことに思えてくる。

そもそも笑ったのだって、久しぶりすぎて変な感覚だ。


「なあアルシェ、あれってもしかしてお前の村か?」


 今通っている道の先を辿ると、うっすらと見えてくるものがあった。

 木で作られた門と、その脇には二人の若者。


「そうだよ、あれが僕の生まれ育った村、コサの村だ」


 あと少しで着くところで、アルシェは一角馬から降りてその体から荷台を外した。


「どうしてこんなとこで降りるんだ?村まであと少しじゃないか」


 ユーゴにとっては当然の疑問である。


「僕もできることならそうしたいけれど、一角馬が見えない立場に立って想像してみて。男二人と荷台が見えない何かに乗っかりながら移動してくる様をさ」


「あ、そっか。これ普通は見えないんだっけ。そう考えるとホラーだな。俺霊感とかないはずなんだけどなあ」


 また意味のわからないことを言っている。


「変なこと言ってないで、降りて準備して。出来れば荷台の袋をいくつか持ってくれると助かる」


「お安いご用だぜって、これ結構重たいな。何が入ってるんだ?」


「君と会う前に仕留めた鹿の肉」


「鹿肉?え、じゃあ、もしかして鹿がいるのか!?この世界に!?」


 いきなりユーゴが騒ぎ始めた。なんだってんだ、突然。


「別にそこまで珍しいものじゃないと思うんだけど」


 鹿はこの辺りではメジャーな食糧だ。地方によっては数も少ないかもしれないが、基本的に多くの国で食べられている動物の一種だ。

 が、今のユーゴにその言葉は聞こえていないらしい。


「鹿がいるってことは俺が知ってるいくつかの動物もいるかもしれないよな。別の世界だからってこれまでの食生活は無いものと思っていたが、案外そんなことも無いのかも。鳥、豚、牛、場合によっては鴨やラムも……!」


 何やらぶつぶつと独り言を言っている。


「あのさ、そんなに鹿が好きなら次の狩ユーゴも連れていくよ。この辺りじゃ森に入れば見つかるし」


 ユーゴの独り言がピタッと止まった、と思ったらぐりん、とこっちを向いて


「是非とも宜しく頼む!この目で確かめたい!」


 とのことだった。なんなのだ、急に。

 そんなやりとりをしつつ、二人は袋を担いで門へ向かった。


 





 



一角馬

→霊獣の一種。

頭部に鋭い一本の角を持ち、外敵から身を守る際に武器として扱う。角は魔力を貯蔵することができ、魔術を付与したり、角を起点に攻撃魔術を発動することが可能。また速力も著しく魔力を行使した場合、音速をも越えるとされている。


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