【短編小説】ジョニー村上、体育倉庫に伏す
振り向いた時にはすでに扉が閉められていた。
映画で観たように光が次第に細い光になっていき、俺たちは閉じ込められた。
「開けろよォー」
開けてくれないのは分かっていて、そう言う戯れ合いをしなければならない。
学生生活や部活動とはそう言うものなのだ。
扉の向こうでキャッキャと笑う声が聞こえた。
前回はおれがあっち側にいたなぁと思って扉を叩いているが、一緒に閉じ込められた村上は前回も閉じ込められていた。
ハンサム顔のわりに鈍臭いやつだ。
その鈍臭いハンサム顔の村上は、薄暗い体育館倉庫の中に敷かれた分厚い体育マットに腰掛けると
「お前が女だったらなぁ」
と言って深いため息をついた。
俺は倉庫の扉を叩くのをやめて、村上から少し離れた体育マットに腰を下ろした。
俺が女だったらどうしようと言うのだろう。
押し倒してヤってしまうつもりなのか?
それとも段階を踏んで告白でもしようと言うのだろうか?
確かに薄暗い倉庫だし、いつ扉が開くのか分からない中での遊戯はスリリングで楽しいかも知れない。
だがしかし告白となると途端にロマンチックじゃなくなる。せめて目を見て言って欲しいものだと思う。
俺が女なら。
しかし当の村上は既にこの状況に興味を失ったのか、指でエア竹刀の形を作ると体育マットに座ったままシャドー剣道を始めた。
変な奴だ。
村上は稽古熱心だし筋トレなどのトレーニングも怠らない。
だけど村上はずっと先鋒だ。次鋒以降を任される事が無い。
更に言ってしまえば、補欠の俺と先鋒の村上にそんな大きな実力の差は無い。無いと思う。
万年補欠の俺が言うのもなんだけれど。
でもこう言う熱心さは俺に無いし、そう言う小さな差が試合スタメンなどの結果に繋がるんだろう。
俺はぼんやりと村上の座ったままシャドー剣道を眺めていた。
無闇に竹刀を上下させる村上の癖はエア竹刀でも変わらない。落ち着きの無さと言うか、不安の表れかも知れない。
村上のシャドー剣道を観察すると同時に、俺は村上が繰り広げようとしていた俺と言うエア女子とのシャドーセックスのことを考え始めた。
俺が知っている限り村上はまだ未使用新品だ。
以前に付き合っていた、毎朝同じ電車に乗り合わせる他校の女子生徒とは自然消滅したらしい。
まだ何もしていないとの事だったので、まぁそうなんだろう。
いや、アナルだからまだ童貞と言う線も無くはないけど。
俺も当然ながら未使用新品だ。
じゃあその村上は俺が女であった場合にはどんなセックスを仕掛けるのか?
そもそも俺が女である場合、どんな姿を想像しているのだろう?
学ラン女子と言う特殊ジャンルに興奮している可能性も否定できない。
それはもう俺がガールであるという範疇を越えた話になってくる。
逆に俺ガールと言う存在にある程度の興奮をしているなら、もしかしたら俺ボーイにも多少の興奮を禁じ得ていないのでは無いだろうか?
それは通学路を同じくする数年間の積み重ね、その知れた気心と言うものかも知らない。
そんなもので俺の貞操はやれん、と思ったところで声が出た。
「馬鹿にするんじゃあない」
すると村上はシャドー剣道をやめて俺を見るて
「なに?」
と言った。
薄暗い体育館倉庫に、色素の薄い茶色な瞳孔が光っている。端正な顔立ち、その切れ長の目が俺を見ていた。
村上はハンサム顔だ。
俺が女だったらやぶさかでは無いが、そんな理由では厭だ。
沈黙が薄暗い倉庫を支配した。
埃とカビの臭いが充満している。
すると突然に倉庫の扉が開いて、光が全てを追い払った。
その光の中から部員たちが覗き込む。
「あまりにも静かだから、始めてるのかと思ったぜ」
誰がそう言ったのかはわからない。
「危うく始めるところだったよ」
この日に想像したセックスの名前を、おれたちはまだ誰も知らない。




