第96話 人質
「やはりロザワル領の兵士は実戦慣れしていませんね。あなたの侵入をこんな簡単に許してしまうとは。まあ、あなたほどの手練れならレザンさんが連れて来た傭兵たちも同じでしょうけどね」
「……メル姫を渡してもらおう。そんな子を殺してどうするつもりだ」
「確かにミリアルドさんの疑問はもっともです。僕も心が痛みますよ、こんな子供を処刑なんて。ですが、彼女は領主として生まれた存在です。領主としての運命が定められているんですよ」
「だから処刑されるのも仕方ないと?」
「ええ」
「―――っ!」
ラウルの隣では、メル姫が涙を浮かべながら唸っている。しかし、口元にロープを嚙まされて言葉を発することは出来ないようにされていた。
「もしお前が邪魔をするのなら、力づくでも姫を取り返す」
「そうですね。メル姫の身柄は僕らで確保しておかなければレザンさんのクーデターに悪影響だ。仕方ない。邪魔をさせてもらいましょう」
ラウルは両手をズボンのポケットに突っ込んだまま言った。
俺はラウルに向かって剣を構える。
ラウルの魔法は物体を爆破させる魔法だ。何をどう仕掛けてくるかは分からない。迂闊に近寄ると俺が爆破されて――とは言っても、このまま睨み合いを続ければいずれ兵士たちの混乱も収まり、俺が不利になる。出来るだけ早く決着をつける必要がある。
だったら――俺が多少の痛みを被るのも仕方ないか。
「ラウル!」
剣を構えラウルに突撃する。そしてラウルめがけて剣を振り上げた瞬間、ラウルは右手をポケットから出した。
「焦るのは良くないな、ミリアルドさん」
直後、俺の右腕が爆発した。肘から先がはじけ飛び、左腕だけで構えた剣の先がふらついた。メル姫が叫ぶ声が聞こえた――が、俺の腕は一瞬で再生した。
再び剣を構えなおしラウルへ振り下ろす。ラウルは身を捩って俺の剣を躱した。剣は僅かにラウルが着ているシャツを切り裂いた。
後方へ回避しようとするラウルに対し、俺は更に一歩踏み込み、もう一度剣を振った。同時に俺の左足が爆破し――そして再生した。
バランスを崩しながら振った剣は、今度こそラウルのわき腹を捉えた。
「ッ!」
ラウルが張り詰めたような息を吐き、飛びのくようにして俺から遠ざかる。
「こうして俺たちが直接戦うのは初めてかもしれないな」
「以前集会所で戦ったとき、僕は逃げるだけでしたからね」
「ラウル、お前じゃ俺には勝てないよ。諦めてメル姫を渡せ」
「しかし――これならどうでしょうか?」
わき腹から溢れる血を押さえながら、空いた方の手を俺に向けるラウル。
その瞬間、俺は全身が焼けるような痛みに襲われた――いや事実、俺の全身が爆発した。全身のどこに何の部位が残っているのか分からなくなり、視界が半分赤く染まった。頭部が爆破されたのかもしれない。耳鳴りと共に意識が遠のいていく――が、それでも自動的に復元された足で踏みとどまった。徐々に耳鳴りが収まり、視界が元に戻っていく。
目を見開いたラウルは、その驚きを誤魔化すように苦笑した。
「まるで化け物ですよ、ミリアルドさん」
「俺の回復魔法は自動で発動する。たとえ俺の脳を吹き飛ばしたとしても一緒だよ」
そしてついでに俺の衣服も。リムニやシャペール――あのときはミーアとキャンベルと名乗っていたが――の前で全裸を晒したときの経験を活かして、回復の対象を俺の身体だけでなく衣服まで拡大したわけだ。




