第89話 運命の強制力
「さて、そろそろホテルへ戻ったらどうでしょう? メル姫様の居城は今頃レザンさんの部下たちで占拠されているはずです。大きく動く前に国外へ逃げた方が良いかもしれませんよ。余計なトラブルに巻き込まれてしまう」
「そんなことは――させない」
「ということは、また僕らと戦うつもりですか? あなたも酔狂ですね」
「そもそも、レザンについての情報収集が俺の役目だった。最後まで付き合うさ」
「ではまた僕と貴方が出会う日も来るでしょう。今日はこの辺りでお別れですね」
ラウルは友人にするように軽い調子で手を振ると、暗闇に包まれた街の中に消えて行った。
「……フルスト様」
リリィが俺の服を握る手の力を強める。
「とりあえずホテルに戻ろう。リムニやシャペールも一緒にいた方が安全だし、中佐に連絡しないと」
スピーカーと通して聞こえるレザンの演説はまだ続いていた。
観光で成り立つ領地としての経済基盤の脆弱性および兵たちの軟弱性を説き、ロザワル領民として強固なプライドを持たねばならないと訴えている。
空虚な言葉に聞こえた。だが、確かに何か強いメッセージを受け取っているような気がした。これがレザンの才能なのだろう。原作には出てこなかったキャラのくせに……。
◇◆◇◆
ホテルに戻りリリィをシャペールたちに預け、俺はロビーに降りた。
中佐に連絡しようと思ったのだ。
そこで、ミカに会った。
「……クーデターの情報は、あったか?」
「誰も予想していなかったわよ、レザンがこんなことを企んでいるなんて。全く、あたしもヤキが回ったわね。まんまとしてやられたわ」
怒りを露にしたミカは、レザンがいるであろう中心街の方を睨んだ。
「リリィを一刻も早くステイナー領に返したい。クーデター下の領地に置いておくなんて危険すぎる」
「……そこは安心して。さっきステイナー領と連絡がついたわ。既に中佐は昨晩出発したそうよ。彼のことだから最速の方法でこちらへ来るでしょうね。明日中には到着すると見て間違いないわ」
「レザンの計画について、何か情報は?」
「集められる情報は集めてあるわよ。今更遅いけどね。まず、事件の首謀者はやはり王都内の貴族ね。まだ誰なのかははっきりしていないけれど。それから、ロザワル領内にもクーデターの手引きをした人物がいる」
「……ディシズム卿か」
俺が言うと、ミカは驚いたように目を大きく開けた。
「あら、なんで分かったの?」
「いや、直感だよ」
『ブレス・オブ・ファンタジー』本編では、ディシズム卿がロザワル領を手中に収めようと暗躍するストーリーがあった。だから、もしクーデターに協力するならディシズム卿だろうと思っただけだ。
ディシズム卿本人と会ったときには彼から国を手にするような野心を感じなかったが、やはりこれも『コア』の持つ運命の強制力が引き起こしたことなのだろうか?




