第88話 クーデター
「ラウル……これは……!?」
「静かに。まだ途中ですから」
こちらを振り返ったラウルは、愉快そうに人差し指を顔の前に当てた。
同時に、街全体に響くような声が流れ始めた。
『……私の名はレザン・ビギ。ロザワル領の皆様には突然の無礼をお許しいただきたい』
な――なんだ、これは?
何が起こっているんだ?
「僕らが今いるロザワル領の中心部には、街の各地に声を拡散させる装置がついているんです。それを利用し、レザンさんの声を街全体に聞こえるようにしているんですよ」
「な……何のために?」
「クーデターです」
「クーデター……!?」
「どこにでもいるんですよ、権力を自分のものにしたいとチャンスを狙っている人たちが。ステイナー領はあなたの活躍で安定を取り戻してしまいましたから、次はロザワル領が狙い目なんです。何といっても領主のメル姫はまだ子供ですからね。付け入るスキはいくらでもありますよ」
「でも――どうしてレザンが? レザンはステイナー領の元軍属として、反ステイナー派を立ち上げたんじゃなかったのか?」
「ええ。ですから、彼はただのシンボルです。革命者というね。要はロザワル領を手にしたい人たちの隠れ蓑ですよ。反ステイナー派の指導者としてレザンさんは有名になりましたから、彼の名前を出せばロザワル領の現統治者に不満を持つ人間たちが集まります。それなりの勢力になります」
「ロザワル領をステイナー領と同じような混乱に陥れるつもりなのか!?」
「ええ。ステイナー領と同じです。混乱を望む人たちをスポンサーにして、レザンさんは活動している。彼の中に主張は無いんです。ただ、彼には求心力があって演説に長けている。彼はその才能を生かして、スポンサーが望む状況を作り上げる」
「……なんて身勝手な」
リリィが呟く。その声は怒りに震えていた。
「僕らがやっていることはあなたと一緒ですよ、リリィ様。あなたも領主としての役割を求められ、それを果たしている。僕らも反逆者としての立ち回りを求められ、それに答えている。それだけの話です」
「違います。あなたたちがやっていることは民衆を不幸にします。余計な混乱を生むだけです」
「……ま、こんなところで話してみても議論は平行線でしょう。僕らのクーデターは止まらないし、あなた一人で止まるようなものでもない。強いて言えば、レザンさんの所在を掴んでおいて泳がせた中佐の不手際かな?」
「だが――クーデターと『コア』は関係ないだろう。なぜレザンに手を貸すんだ?」
俺が言うと、ラウルは腕組をして首をひねった。
「そうですね。そこに関しては貴方の言う通りです、ミリアルドさん。成り行きみたいなものですよ。僕の人脈や才能はレザンのクーデターに必要とされていた。だから協力した。しかし、この領地が手に入ればこの博物館も自然と僕らのものになる。『コア』も手に入りますね」
「ラウル……」
ここでラウルと一戦交えるべきだろうか。しかし、それでラウルを止めたとしても既にレザンが動き出している。意味がない。




