第84話 博物館へ
◇◆◇◆
俺とリリィはその後、町中を歩き回った。
鉱物を加工しアクセサリーとして売っている店や、土地の食べ物の屋台、観光客に人気だというカフェ。
しかし結局、『コア』に関する情報は集まらなかった。
既に日は傾きかけていて、一日が終わろうとしている。
俺たちは二軒目のカフェにやってきて、ロザワル領で人気だという淡い青色をした飲み物を飲んでいた。
「なかなかうまくいかないな、情報収集って」
青い飲み物は炭酸が入っていて、風味はサイダーに似ていた。グラスの縁にはカットされた果実が飾られている。
「お役に立てずごめんなさい、フルスト様……」
リリィが俯く。
「いや、リリィはがんばってくれたよ。今日の聞き込みはほとんどリリィがやってくれたようなものじゃないか」
人と話すのには慣れていると自分で言っていた通り、リリィは次々と街の人々に話しかけては何かしらの情報を掴んできた。
しかし残念ながら、そのどれもが『コア』につながるような話ではなかった。
「そう言っていただけると嬉しいですけど……」
「大体、『コア』なんてものは一般に知られていないからさ。大きな長方形の、黒い物体なんて……」
俺がそう言ったとき、ちょうど俺たちの隣を通りかかった男が足を止めた。
「長方形の黒い物体だって? あんたたち、それを探してるのか?」
「え? あ、ああ……そうだけど」
「だったらロザワル博物館に行ってみたらどうだ? あんたたちが探しているものによく似たものが展示してあるんだ」
「ロザワル博物館?」
「ああ。少し遠いが、まだ間に合うはずだ」
「そうか。ありがとう。行ってみるよ。だけど、どうしてそんなことを教えてくれるんだ?」
「……つい先日、あんたによく似た男に命を助けてもらってな。昔は反ステイナー派だって言って危険な仕事をやってたんだが、それ以来改心したんだ。だから、あんたたちみたいに困ってる人間を放っておけないんだよ」
よく見れば、それはステイナー領の集会所でリムニが治療した男に似ていた。しかしどうやら、俺たちの正体には気づいていないらしい。
「助かるよ。それじゃ」
「気を付けてな、兄ちゃんとお嬢さん」
男に別れを告げ、代金を払い、俺たちは店を出た。
それから表通りで馬車を一台捕まえて、ロザワル博物館へ向かった。
確かに、『ブレス・オブ・ファンタジー』の本編中にもそんな建物が出てきた気がする。ストーリー上行く必要のある建物じゃなかったから、あまり記憶には残っていないけど。
しかし、そんなところに『コア』なんてあっただろうか。
「見つかると良いですね、『コア』が」
向かい側に座ったリリィが微笑む。
「そうだな。見つかると良いんだが……」
「自信、ないんですか?」
そう言ってリリィは俺の顔を覗き込んだ。
「まあな。あるかどうかは行ってみないと分からないってところだ」
『コア』みたいに巨大な長方形の物体、一度見たら忘れないだろう。少なくとも『ブレス・オブ・ファンタジー』の本編中には出てこなかった。つまり、ロザワル博物館にも展示されていないということになる。しかし、それはあくまでゲームの話だ。何らかの影響で変化が生じつつあるこの世界なら、ロザワル博物館に『コア』が無いとは断言できない。
「難しいですね。見つかると良いんですが……」
「せっかく教えてもらった場所だしな。とりあえず行くだけ行ってみよう」
「そうですね。思わぬ収穫があるかもしれませんし」
言い終わった後で、リリィは不意に寂しそうな表情で窓の外に顔を向けた。
「どうした? 大丈夫か、リリィ」
「……そろそろステイナー領に戻らなければならないのでしょう、私」
「あ……ああ。中佐はそう言ってる。レザンの潜伏先が分かったんだ。荒事になる前にリリィをステイナー領に帰らせるって計画だ」
「だったら、こうして二人で居られる時間もあと少しですね」
窓の外へ視線を向けたまま、リリィは言う。
「ああ、そうだな――そうなるな」
日が沈みかけていた。
空は、夕暮れと夜が混ざったような色をしていた。
俺とリリィはしばらくの間お互いに黙ったままで、客室の中には馬が走る音だけが響いていた。




