第83話 『コア』探し
「……フルスト様、いかがでしたかな」
名前を呼ばれ振り返ると、アロハシャツ姿のシャペールが居た。
「ああ、中佐との話はついたよ。近日中にまた荒事になりそうだ。でも、明日までは休暇を楽しめそうだよ」
「良いことです。この数か月、激動の日々が続いておりましたからな」
しみじみと頷くシャペール。
「そういえばシャペール、プールのとき途中からいなくなってたよな? どこに行ってたんだ?」
「実は、若いご令嬢たちに声を掛けられましてな。少々談笑をしておりました」
「あ、そう……」
つまり、逆ナンされてたってことか。
どこにどんな需要があるか分からないな、世の中って。
「フルスト様、明日のご予定は?」
「そうだな。情報収取も兼ねて街の方へ出てみようかと思ってるよ」
『コア』に関することが分かればラッキー、というレベルだけど。
◇◆◇◆
常夏の領地、ロザワル領。
街は観光客で賑わい、お土産や特産物を売る露店やショップがあちこちに並んでいる。
活気ならステイナー領も負けていないが、あちらは商売のために訪れている人が多いのに対してこちらは観光客が中心だ。それに合わせて、やはり煌びやかな店が多い。
しかし、これだけ観光客が多いんじゃ聞き込みをしてもあまり意味がないかもしれないな。もしくは、歴史がありそうな古い店の店員さんとかに尋ねてみるとか。
まあいいさ。どちらにしても、半分は休暇なんだから。気楽にやってみよう。
「……で、なんでリリィがついてきてるんだ?」
俺は隣を見下ろした。
銀髪を隠すようにつばの広い帽子を被り、薄手のワンピースを着てサングラスをつけた少女が、俺を見上げていた。
「だって、フルスト様は私の補佐官でしょう? 補佐官が領主と一緒にいて何か問題でも?」
「いや、もし何かあったら大変だし」
「ですからこうして変装しているのです。大体、昨日プールであれだけはしゃいで誰にも気づかれなかったのだから、多分大丈夫です。あれ、もしかして私って影が薄いんでしょうか……。陰で存在感の無い領主とか呼ばれてたりしませんか……?」
「ネガティブになるなよ……。しかし、ホテルに連れ戻すのも面倒だよな……」
俺たちが泊まっているホテルから中心街までは歩いて行ける距離だったが、近いわけじゃない。往復するのは気が滅入った。
仕方ない、リリィも連れて行こう。どうせ半分は休暇だ。
「きっと私も役に立ちますよ。色々な人とお話するのには慣れていますし」
「ああ、それは確かに。いろんな領地の人と話さないといけないもんな」
「領主ですから。ええと、何についての情報が必要なんでしたっけ。レザン? それとも『コア』と呼ばれる物体のことですか?」
「……知ってるのか、リリィ?」
「もちろんです。ロザワル領にレザンが潜んでいること、そしてラウルが『コア』という物体を狙っていること。中佐から報告を受けていますから」
「そうだったのか……」
「とりあえず、『コア』についてお尋ねしてみましょう」
そう言ってリリィは俺から離れると、自然な様子で道端の露店へ近寄って行った。そして少し何かを話した後、リリィと店主はお互いに打ち解けた様子で笑顔を浮かべ、リリィはこちらに戻って来た。
「……どうだった?」
「ええ、黒い塊を売っているお店があるそうです」
「黒い塊?」
「ロザワル領の特産品である鉱物だとか。場所を教えてもらいましたから行ってみましょう。そうだ、これ、さっきのお店のおじさんからいただいたものです」
リリィは俺に魚の串揚げのような食べ物を手渡した。
「あ……ありがとう」
ちょうど小腹が空いていた頃だったのでちょうど良かった。ひと口齧ると、衣がカラっと揚げられていて美味かった。
「えーと、あっちです、フルスト様」
自分の分の串揚げで行く手を指し示しながら、リリィは言った。
「特産品の鉱物か……」
ステイナー領にあった『コア』は、確かに見たこともない黒い物質で出来ていた。
あれがロザワル領産とは思えないけれど、もしかすると『コア』の正体に迫るヒントにはなるかもしれない。
「分かった、行ってみよう」
俺は串揚げの残りを口の中に押し込み、答えた。
◇◆◇◆




