第81話 野心
「……リリィ・ステイナー様の補佐として活躍されておられるようですね、フルスト卿」
遊び始めたリリィたち三人を見つめながら、ディシズム卿が呟く。
「いえ、俺なんてまだまだ新米ですから。大したことはやってませんよ。それよりもディシズム卿の方が大変なんじゃないですか?」
「そんなことはありません。私はただ、メル姫様をお支えしたいだけですよ。誰よりもお傍で」
「…………」
「ご覧なさい、姫のあの無垢な表情を。私はあの顔を見ると、あの方に尽くしてきて良かったと思うんです。メル姫様こそ私の生きがいなんですよ」
「……ご立派な考えです」
「愛のなせる業です。ああ、なんと幼気で可愛らしい姫なのでしょう。水着姿が眩しくて眩しくて」
ディシズム卿の息が、興奮したように荒くなる。
「は、はあ……」
「おっといけませんね。失礼しました。姫のこととなると我を忘れてしまって。……リリィ様は、お部屋の方は気に入っていただけましたか?」
「え、ええ。もちろん。急な話で手間をかけさせてしまい申し訳ない」
「とんでもない。ロザワル領は観光で成り立つ領地です。来訪者に満足いただいてこその我々ですから。それで、お仕事の方は順調ですか?」
「……ご存じなんですか?」
ディシズム卿は肩を竦める。
「それなりには。反ステイナー派の首領が我々の領地に紛れ込んだとか」
「今、行方を追っているところです」
「頼みますよ、フルスト卿。ロザワル領の領民や観光客を危険に晒すわけにはいきません。もちろん我々も協力します」
「ありがとうござます、ディシズム卿」
このディシズム卿という男――確かにロリコンの気配はあるが、ロザワル領を自分のものにしたいというような野心は感じられない。
メル姫を手中に収めロザワル領を乗っ取る、それがこの男の狙いじゃなかっただろうか。確か、『ブレス・オブ・ファンタジー』本編ではそうだったはず。
「ヒーノも一緒に遊びましょう!」
プールの水面に反射する光に包まれながら、眩しいまでの笑顔でメル姫がこちらに手を振る。さすが、幼いながらも一国の領主というだけあって他人を惹きつける魅力のようなものに溢れている。
「フルスト様も来てください!」
メル姫のすぐ隣では、リリィが俺に手を振っていた。
「では、我々も行きましょうか」
ディシズム卿が俺に目くばせした。
リリィたちとはさっきまで散々一緒に遊んだつもりだったけど――それでも、こんな風に思い切り遊ぶ機会なんてリリィには滅多にないだろう。リリィが飽きるまで付き合ってやるか。
「ええ、行きますか」
俺はディシズム卿と並んでプールに入った。水が冷たかった。
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