第80話 世間話
ディシズム卿は困ったように笑いながら、人差し指を顔の前で立てた。
「ご内密にお願いします、フルスト卿」
「一体どうしてメル姫がこんなところに……?」
「わたくしもプールで泳ぎたかったのです。だから、ディシズム卿と秘密のお出かけをしているのですよ」
「秘密のお出かけ……?」
俺はメル姫とディシズム卿の顔を交互に見た。
「まあ、そういうわけです。昨日のパレードはご覧になりましたか?」
「は、はい。メル姫が先頭に立ってらっしゃった……」
「あれのご褒美ということですよ。プールに連れて行ってくれるなら頑張ると、姫から申し出があったんです」
「はい、そーゆーことなのです。わたくし、立派にパレードのお勤めを果たしましたから、当然です」
メル姫が胸を張る。
「そうだったんですか……」
「もちろん姫がここにいらっしゃることは秘密です。フルスト卿、どうかご内密に」
ディシズム卿が頭を下げる。俺は頷いた。
「分かりました。ボール、ありがとうございます」
俺が言うと、メル姫はにっこりと笑った。
「いえ。当然です。フルストさんは良い人ですから」
「……ありがとうございます」
もう一度礼を言ったとき、ちょうどリムニか駆けてきた。
「ごめんなさい、フルスト様ぁ。ボール見つかりましたかぁ?」
「ああ、見つかったよ。戻ろう」
「良かったですぅ! ……あ、もしかしてこの女の子が拾ってくださったんですか?」
リムニがメル姫を見ながら言った。
「え? ああ、そうだよ」
「本当ですかっ! ありがとうございますっ!」
何度も頭を下げるリムニに、メル姫が微笑んだ。
「いえいえ。大したことではないのです」
「良かったら私たちと一緒に遊びませんかっ? お礼と言ってはなんですけどぉ」
「えっ、わたくしも?」
メル姫の瞳が輝く。ふとディシズム卿の方を見ると、目が合った。ディシズム卿は困ったように白髪を触り、俺に笑いかけた。
「お願いできますか? メル姫様も公務が続いていて、最近は一緒に誰かと遊ぶ暇などなかったんです」
「俺たちは構いませんが……」
「ねえ、いいでしょ、ヒーノ」
メル姫が甘えるようにディシズム卿の手を握る。
「ええ。しかし、きちんとフルスト卿やみなさんの言うことを聞いてくださいね」
「分かっています。わたくし、自分の立場を自覚していますから」
再びメル姫が胸を張る。リムニは屈んで、メル姫の手をとった。
「それじゃ、一緒に行きましょうっ! あっちでお姉さんがもう一人待っていますよっ!」
「わーっ! 楽しみです!」
ボールを抱えたメル姫はリムニと手をつなぎ、プールへ戻っていった。プールでは、リムニを待っていたリリィがメル姫を見て少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた笑顔を見せた。




