第76話 レの字
「ああ、そんな話だったな」
なんてノリのいい人たちなんだろう。もはやレザン捜索のレの字もないな。
「屋上ですっ、屋上! 屋上にプールがあるんですよぉ!」
「分かった分かった。すぐ準備するから」
しかしこの中世ヨーロッパ風の世界観に水着という概念が存在するのだろうかと疑問を感じ、すぐに水着CGとかあったなそういえば、と思い出した。まあ、水着なんて――それもヒロインが着るようなものはいくらあっても困らないからな。
「リリィ様は? 一緒のお部屋じゃないんですかぁ?」
玄関先からリムニが部屋の中を覗き込む。
「ちょうどさっき別の部屋に移ったところだよ」
「そうなんですかぁ。せっかくだからリリィ様も一緒にプール行ったら楽しいと思ったんですけどぉ……」
「ああ……そうだな。リリィも気分転換が必要だろう。俺、ちょっと呼んでくるよ。シャペール、すまないが俺の分の準備を頼む。リムニは、リリィの分を」
「承知しました、フルスト様。では、リムニ」
「はいっ! フロントに水着売り場があるんです。リリィ様用に可愛い水着選んでおきますね!」
「任せた」
そう言い残して、俺はその場を離れた。
確かリリィは最上階にある部屋に移ったはず。
階段を上ってリリィの部屋を探すと、ドアの前に物々しい警備員が二人立っているいかにも怪しい部屋があった。絶対アレだ。
俺が近づくと、警備員たちは二人同時にこちらを見た。
「あー、リリィ・ステイナー様の補佐を務めるフルスト・ロウだ。リリィ様に会わせてもらいたい」
「……フルスト様ですね。承知しております。どうぞ」
「お勤めご苦労」
良かった、顔パスだ。ドアをノックし、開ける。
「――リリィ、俺だ。フルストだ」
リリィは居間の窓辺に置いた椅子に座り、部屋の外を眺めていた。俺の声に、リリィはゆっくりと顔を向けた。
「フルスト様、どうされたのです?」
「リムニたちとプールに行くんだ。リリィも一緒にどうだ?」
「プール……!」
きらきらとリリィの瞳が輝く。
「水着とかはリムニが準備してくれるから、行こう」
「はい! ぜひ一緒に!」
薄手のドレス姿のリリィは、椅子から立ち上がり俺の方へ駆け寄って来る。
それから俺の衣服の裾を握り、言った。
「……昨夜はありがとうございました」
「ああ、良く眠れたか?」
「はい。ずっとつきっきりでいてくださったから……」
「リリィが少しでも休めたなら、俺も嬉しいよ」
「は……はい」
リリィがはにかんだように微笑む。
これで良かったのだ。密室に未成年と二人きりという犯罪的状況なんて気にする必要はなかったのだ。まごころを持って接すればきっと伝わるのだ。「まごころを、君に」だ(意味不明)。
「――で、だ」
「はい?」
「プールのある屋上って、どう行けばいいんだ?」
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