第72話 イベント?
「すごい、キラキラしてますねぇ、みなさん」
リムニは窓に張り付くようにしながら、目を輝かせてパレードを見つめていた。
「ああ。ヒリュー領でも俺があんな風にパレードをやっていれば、民衆からももう少し支持されたのかな?」
「いや、それはぁ……あ、いや、もしかするとぉ、そうかもしれないですねっ! ミリアルド様のファンクラブとか出来ちゃったりしてぇ……」
目を泳がせながら答えるリムニ。
「……冗談だよ。パレードなんてやる気もなかったし」
そう言ったとき、寝室の方から「ううん……」という声が聞こえた。
「リリィ様が目を覚まされるまで、私、一緒にいましょうかぁ?」
寝室を見つめながら、リムニが心配そうに呟く。
「いや、大丈夫だ。リリィは俺が見ておくから。リムニも長旅で疲れただろう? 自分の部屋に戻って休んでくれ。シャペールもな」
「しかし――よろしいのですか? 我々はフルスト様の召使としてご一緒している身でございますが」
「何度も言うようだが、俺はもうヒリュー領の領主じゃない。本当ならお前たちも俺に仕える必要なんて無いんだ。だから……せっかくリゾート地のロザワル領に来てるんじゃないか。二人がゆっくり休んでくれた方が俺も嬉しいよ」
「お……おお! フルスト様、ご立派になられて……!」
「な、泣くなよシャペール! とにかく二人とも、自分の部屋に戻って休んでくれ」
「他人を思いやるそのお心、このシャペール、感激いたしました。大変心苦しくはありますが、フルスト様のおっしゃる通りにいたしましょう」
「それじゃフルスト様ぁ、プールはまた明日ですねっ!」
「ああ、また明日だな」
シャペールとリムニはそれぞれの荷物を抱え、俺の部屋を出て行った。
そして残されたのは俺と、ベッドで寝息を立てるリリィ。
部屋の外ではまだ、メル姫のパレードが奏でる音楽が鳴り響いていた。かなりの音量だけど、リリィが目を覚ますような気配はない。……まさか寝たまま死んじゃったりしてないよな?
不安になった俺は寝室へ向かった。
リリィはさっきと同じようにベッドに横たわっていて、ネグリジェのような寝間着に包まれた胸が規則的に上下していた。
「…………」
密室に美少女と二人きり、か……。
いや、もしこれがゲームの世界なら何かしらのイベントが起こっておかしくないが、現実ではそんな都合よいことは―――って。
俺が今いるのって、ゲームの世界じゃん。
じゃあ、何かイベントが起こるのか? いやまさか。ありえないありえない。それに、リリィと何のイベントが起きるというのだろう。
そんなこと、所詮妄想に過ぎない。何も起こらないのが現実だ。ゲームというのはプレイヤーに夢や希望を与えるひとときの幻想なのだ。現実とは違う。
いやでも、何度も言うように俺が今いるのはゲームの世界なんだから……。
ま、まあとりあえず、リリィの傍にはいるようにしよう。別に何かを期待しているわけじゃない。単純に、領主の補佐としてすぐ傍についているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
というわけで椅子を持って来て、リリィが寝ているベッドの隣に座った。
リリィは相変わらず安らかに寝息を立てている。さっきまではうなされるような声もしていたけれど、今は落ち着いているようだ。
俺は椅子に座ったまま、リリィの長い睫毛や整った鼻梁、小さな唇を眺めていた。
パレードが遠くへ行って静かになった寝室では、リリィが呼吸をする音だけが響いていた。




