第71話 夢の国
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寝室のベッドの上では、寝間着に着替えたリリィが静かに寝息を立てていた。
「つい先ほどお眠りになられました。それにしても、バッグの中に隠れてなんて大胆ですよねぇ、リリィ様」
「家出に憧れる時期なのかもな」
寝室を出て、俺とリムニはリビングに向かった。
「リリィ様のお部屋はどうしましょう? 私やシャペールさんの客室と同じというわけにもいかないでしょうし……」
「ああ、そうだよな。とりあえず俺の部屋を使ってもらうようにしよう。中佐にも相談しておく」
「分かりました。では、私とシャペールさんはそれぞれの部屋に行きますね。何かあったらすぐ駆けつけますから」
「分かった」
俺が返事をしたのと同時に、賑やかな音楽が流れて来た。
「なんでしょうかっ、この音楽?」
「パレードかもな。ロザワル領のメル姫がやってるらしいんだ」
「へぇー、そうなんですかぁ?」
「部屋からも見えるらしいぞ」
「えっ!? 早く観に行きましょうよぉ、フルスト様!」
リビングに戻ると、窓際に立ったシャペールが眼下の景色を眺めていた。
「どうだ、シャペール。メル姫は見えるか?」
「おお、フルスト様。ご覧ください、恐らくあの先頭のお方でしょう。一国の領主自らパレードの先頭に立たれるとは、メル姫殿下もなかなかの人物ですな」
シャペールの隣に並び窓の下へ顔を向けると、華やかな衣装に身を包んだ人々が、それぞれに手にした楽器を鳴らしながら練り歩いている姿が目に入った。その周囲には見物客の人だかりができている。
そして列の先頭には数十人の男性に担がれたお神輿のようなものがあって、その上にはドレス姿のメル姫が座っていた。
これ、あれだな。東京って名前だけど千葉にある某ランドのパレードみたいだな。そういえばこのホテルもお城みたいだし、ロザワル領自体が巨大なテーマパークみたいなものなのかもしれない。
神輿の上のメル姫は見物客たちに愛想よく手を振っている。千葉にあるランド――略してチバニーランドのパレードというよりはアイドルのイベントに見えてきた。
「すごい人気だな、メル姫は」
「ロザワル領の姫君ですからな。民衆からも厚く支持されているという噂です」
「そうか……」
メル姫の傍らには側近であるディシズム卿の姿があった。彼もまた、パレード用なのだろう派手な衣装を身につけ、手を振るメル姫をにこやかな表情で見つめていた。
……いや、別に良いんだけど。側近なんだし、自らが仕える姫君が活躍している姿を見てほほえましい気持ちになるのも分かるけど。
『ブレス・オブ・ファンタジー』本編でのディシズム卿の目的――メル姫と結婚しロザワル領を手に入れる――を知っている身からすると、どうしても危険を感じる表情だ。




