第7話 鍛錬のすゝめ
「……ふう。これで大丈夫ですぅ」
安心したようにため息をつくミーア。
「ミーアは魔法が使えるのか?」
「はっ、はい! 初歩の初歩ですけどぉ……」
つまり、さっき緑色に光ったのはミーアが『ヒアル』を使ったからというわけか。
「俺にも使えるかな、ミーアが使ったような回復魔法を」
さっき小屋で『ヒアルラ』を唱えたときのことを思い出しながら、俺は言った。
「当然ですよぉ! ヒリュー家の当主様は代々優れた回復魔法の使い手なんですからぁ。ですよね、キャンベルさん」
「もちろんでございます。ミリアルド様もその才能を十分に引き継いでおられるはずです。このキャンベルめは貴方様の能力を信じておりますゆえ」
回復魔法を自由に使えるようになれば、主人公たちに襲われても回復して死なずに済むかもしれない。実際、ゲームの中のミリアルドはしつこいまでの回復魔法でプレイヤーたちを苦しめてきたわけだし。
「だったら、ミーア。俺に回復魔法の使い方を教えてくれないか?」
「えっ、ええっ!? わ、わわわ私がですかぁ!? そ、そんな恐れ多いですぅ……」
「ミリアルド様、ミーアの魔法が劣っているというわけではありませんが、回復魔法の使い手ならば他にも数多くおりますぞ。指南役としてお連れしてもよろしいですが」
「いや、今の俺に頼れるのはミーアしかいないんだ。頼むよ」
コミュ障の俺にとって知らない人に魔法を教わるのはハードルが高い。ミーアに教えてもらった方が気も楽だ。
「そう言われちゃったら断れませんよぉ……」
「ありがとう。それから、キャンベルは俺に武術を教えてくれ」
「ほほう、武術ですか」
「あの黒装束たちを追い払った技を俺にも教えてくれよ。そうすれば自分の身を守ることくらいできるようになるだろ」
「もちろんでございます! 体術から剣術まで、この私めに出来る限りありとあらゆる技を伝授いたしましょう。しかし突然どうされたのですか? 精神を鍛えると仰ったかと思えば次は魔法と武術を会得したいと申される。御身を鍛えられるのは喜ばしいことですが、何かきっかけがおありなのですか?」
キャンベルの目の奥が鋭く光る。
ここで話してしまってもいいのだろうか。一か月後、国王から差し向けられた騎士によって俺が殺されることを。
しかしこれは、本来であればミーアやキャンベルにとって知ることの出来ない情報だ。それを二人が知ってしまうことで未来に何らかの影響を及ぼさないだろうか。俺が屋敷を出て小屋に隠れるという選択をしたことで、黒装束の男たちによる襲撃を受けたように。
やはりダメだ。二人には話せない。
騎士である主人公が俺を殺しに来るまで俺は死なない――その予測が当たっていたとしても、ミーアとキャンベルに未来の出来事を伝えた結果、予想できないイベントが起こってしまうリスクの方が大きい。
「……今までの俺が領主として未熟だっただけだよ。これからは心を入れ替えて頑張ることにしたのさ」
俺の言葉に、キャンベルが涙を浮かべる。
「おお……! それこそヒリュー家の当主たる御方に相応しいお言葉! このキャンベル、どこまでも御供いたしますぞ!」
「二人ともありがとう。回復魔法と武術、よろしく頼むよ」
死の運命から逃げようとしても無駄だった。だったら正面から立ち向かうしかない。俺自身が強くなる必要があるわけだ。そのための努力なら何だってやろう。
一か月後、何としても主人公パーティから生き延びて――その後は絶対引きこもってやるからな!
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