第65話 バカンス
◇◆◇◆
久しぶりに街角の集合住宅に帰ると、リムニとシャペールが俺を待っていてくれた。
「フルスト様ぁ! お帰りなさいっ!」
「ああ……ただいま戻ったよ。やっぱり王都に行くと疲れるな。王宮は妙な緊張感があるんだ」
「それは大変でございましたな。さあ、上着を。リリィ様の式典は無事に終わりましたかな?」
「終わったよ。特に問題もなかった。反ステイナー派の問題も片付いた今、ステイナー領は金鉱脈という莫大な資源を持つ平和な領地だ。それを実現したリリィに対して、誰も文句なんて言わないさ」
俺はシャペールに上着を預けながら答えた。
「フルスト様の手腕でございます」
「リリィの頑張りだよ。リリィが途中で諦めていたらそこで終わっていた話だからさ。もちろん、シャペールやリムニの協力のおかげでもある」
もしそうなっていれば、リリィは王都の路地裏を彷徨うような身分まで落ちぶれていただろう。そんな未来を回避できて本当に良かった。
「お食事にしましょう、フルスト様。美味しい料理をいっぱい作ってますよぉ!」
「ありがとうリムニ。とりあえず座ろう。王都でお土産も買って来たんだ」
「お土産ですかぁ!? わー、なんだろう。嬉しいですっ!」
「王都ですか……。懐かしいですな」
「シャペール、王都のこと詳しいのか?」
「いえ、若い頃に少し王都へ滞在していたことがありましてな。あの頃とは随分変わってしまっているでしょう」
「へえ、そうだったのか。興味あるな、その話」
そのとき、リビングの方でベルのような音が鳴った。
「……ステイナー家からの呼び出しか」
俺はリビングへ向かい、部屋の隅辺りに設置してあるタンスの上に置かれた電話の受話器を取った。
「……もしもし、フルストだ」
『こちらカタヨルだ。その、もしもしというのはどういう意味なのだ、フルスト殿?』
「いや……気さくな挨拶みたいな意味の言葉だよ」
この電話機は、王国の外からやって来たという商人から紹介されたものだった。
意外と新しもの好きなカタヨル中佐がすぐに購入し、いつでも連絡が取れるようにと、ステイナー家の屋敷と俺の部屋に置いた。
電話線とかは要らないのかなと思ったけれど、どうやら魔力を媒介して音声を届けるような仕組みになっているらしく、アナログ線を引いたり回線代を支払ったりする必要はないみたいだ。
かといってスマホのように持ち運びができるような大きさではないため、せっかく線に縛られずに使えるのに携帯性は低い。いや別に持ち歩きたいわけじゃないけど。どうせステイナー家の屋敷にしかつながらない電話だし。かかってくるのは仕事の電話ばかりだし。
まあ、とにかく結果として、ステイナー領初の電話機が俺の部屋に設置されたという訳だ。リリィの補佐という仕事のために。
『王都への旅はご苦労だったな。これで無事にリリィ様も次期国王としての資格を得られたわけだ』
「ああ、中佐もお疲れ様」
『ところでフルスト殿、最近多忙ではないか? 心身ともに疲弊していることだろう』
「分かってくれて嬉しいよ、中佐。本来の俺は部屋から出ないタイプの人間なんだ。補佐っていう役職も慣れてないし」
『そうかそうか。そろそろフルスト殿にも休暇が必要だな』
え!?
仕事の電話だと思ってうんざりしていたけど、まさか良いニュースなのか!?




